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16章
やらぬなら、やってみせよう、DIY
しおりを挟む「お・ま・え・は! 正気か? 正気なのか? なんだ? 嫌がらせか? オレのことがそんなに嫌いか? こんなデカい穴開けやがって、ここはオレの唯一の私室だぞ? 眠れなくなるだろうがっ!!」
ノンブレスでまくし立てたアデトア君はフシャーッと毛を逆立てた猫のよう。瞳孔までガン開きで、どこをどう見ても大変怒っていらっしゃる。
いつになく怒りを露わにした彼を見て、私達は揃ってポカーンと呆気にとられた。
前より感情の起伏が出せるようなったとは思ってたけど、ここまで爆発するとは……
「……えっと……アデトア君、ちょっと落ち着いて」
「落ち着いてられるか! 何が気に食わない!? 言え! 直してやる!!」
好きじゃないところがあれば直してくれるのか……なんて場違いにも笑いそうになってしまった。少々上から目線感はあるものの、内容はベタ惚れしてる彼氏みたいじゃないか……火に油を注ぐことになりかねないから言えないけど。
「嫌いなところなんてないよ~」
「なら、この惨状はなんだ!? 気に食わないことがあるんだろう!?」
「だから、特にないって。そのままのアデトア君が好きなんだから」
「……っ!」
〈うるさい〉
一瞬の間を置いてボフンッと顔を赤くしたアデトア君の頭に、グレンがチョップを振り下ろした。
一応加減はされていたみたいだけど……べシャッと床に叩きつけられたアデトア君はそのまま「ぐぉぉ……」と頭を抱えて唸っている。
〈勘違いするな。燃やすぞ〉
(グレンさん、急に物騒……)
ジルはジルで「セナ様……」と顔を青くさせているし、コルトさんは自分を指差して「……好き…………好き?」と聞いてくる。
ガルドさんだけは呆れ顔で、なんとかしろとその目線が訴えている。
四人に順番に抱きついて大好きだと告げれば、ジルとコルトさんはあからさまにホッとしていた。
〈フフン。我らは大好きだぞ。残念だったな〉
「そんなことはわかってる! そうじゃなくて、人に好意を伝えられたのが初めてだったからちょっと嬉しかっただけだ……」
ガバりと起き上がったアデトア君の声はだんだんと小さくなっていったものの、内容はバッチリ私達に聞こえてしまった。
〝好き〟って言葉を言われたことがないってことだよね?
(マジか……忌み子ツラすぎでしょ……)
ガルドさんとコルトさんも私と同じ考えに至ったのか、おもむろにアデトア君の頭を撫で始めた。
「わっ! な、なんだよ」
「いや、別に……撫でられんのは嫌なのか?」
「い、嫌では……ない」
「そうか」
ガルドさんの質問に少し照れたように答えるアデトア君はちょっと可愛い。
愛情を向けられたことがないってことはスキンシップも最低限だったんだろうね。
コトある毎に撫でられ、抱きつかれる私を見て、羨望みたいなのがあったのかもしれない。
それを肯定するかのように彼が拒否する様子は微塵もない。
「とりあえず、アデトア君のことは嫌ってないし、これをそのまま放置することはないから安心して」
「ん、わかった」
スッカリ大人しくなったアデトア君も席に着かせ、テーブルにお菓子を出していく。
〈今日はなんだ?〉
「今日はねぇ、クグロフっていう焼き菓子だよ」
〈小さいな……〉
「いや、グレンの皿、十個以上あんじゃねぇか」
うん、ガルドさんのツッコミ通り、グレンだけ十五個にしてあるんだよね。私は量いらないから二個だし、クラオルとグレウスなんて二人で一個。他の人は七個だから、ほぼ倍なんだけど……
「足りないならパンでも食べる?」
〈うむ! クリームパンがいい!〉
どれだけ食べるのか聞くと、掌を開いて「五!」と満面の笑みを向けられた。
おやつの量じゃなくない?
機嫌がよくなったグレンはペロリとたいらげ、結局、ガルドさんとコルトさんもメロンパンを追加で食べてた。
小腹……小腹か? 小腹ということにしておこう。小腹を満たした私達は動き出した。
先ほどグレンがパンチで開けた穴に、カリダの街の職人さんに作ってもらった大きな窓を設置することが目的である。
下に落とした壁材を再利用しつつ、〝硬殻粉〟と呼ばれている粉を使う。
この粉はダンジョンに現れる、〝セメントマイマイ〟というカタツムリ型の魔物のドロップ品。
一応ダンジョン以外でも出るし、そいつの殻を細かく砕けば似たような粉になるらしいんだけど……雨が降らないとなかなか見かけることもなく、ダンジョン産の方が高品質なんだって。
これを水と土と混ぜれば、名前から予想できるように、日本のセメントと同等な代物となる。
今回はパパ達のアドバイスでスライム泥を使うんだけどね。
ちなみに、今使っている硬殻粉は、ヒマだからってガルドさん達がたっぷり取ってきてくれたやつだよ。
「ねぇねぇ、こっちの古い建物の方ってアデトア君しか使ってないんでしょ? 執務室はあっちの新しい方にあるの?」
「いや、この部屋の上にある」
「え……私室の方が下なの? 執務室に何か届けにきた人とか、昼間アデトア君が仕事で部屋から離れているときとかに、信用できない人が私室の周りをウロチョロできる状況って嫌じゃない?」
「……まぁな。すぐに死ぬと思われていたから、執務室は後からできた。だから執務室が上なんだよ。なんでこの部屋が私室に選ばれたと思う?」
「んー……登るのが面倒だったとか?」
「ふはっ。それもあるかもしれないな。正解は窓がないからだ」
「窓?」
頭にハテナしか浮かばない私にアデトア君が笑う。
理由は……いつ魔力暴走を起こすかわからず、窓があるとそのときに割る可能性があるからだそう。下を歩いている人が危険に晒されると。
本当に魔力暴走が起こったら、そんなもんじゃ済まなくて、建物全部がぶっ飛ぶ勢いだと思わない? ジルもそうだけど、よくアデトア君は心が壊れなかったよね。
「なるほど…………ねぇ、アデトア君。一回この建物、全部見て回ってもいい?」
「ん? 別にいいぞ。ただ、掃除もされていない部屋もあるし、隙間風がヒドい部屋や雨漏りする部屋もある。見ても楽しいもんじゃないと思うぞ?」
マジかよ……確かに使わない部屋ならいいのかもしれないけど……王族なのに? と思ってしまうよね……
部屋の窓はジルに任せ、私はアデトア君に案内を頼む。
一通り見て回った結果――建物全体をいじることにした。
だってさ、一階の外壁にヒビ入ってたり、穴が開いてたりしたんだよ? 建物自体はしっかりしているとはいえ、仮にも王族が暮らしてるんだから修繕費ケチるなよ! って話じゃない? 財政難でもなかったハズなのにさ。
やるからには思いっきりやってやるんだから!
思い立ったが吉日と、デタリョ商会やタルゴー商会に連絡を取り、必要なモノを揃えてもらう。
普段精霊の国にいるウェヌス達やジィジ達だけでなく、アーロンさんやフェムトクトさん親子まで喜んで参加となり、ワイワイと作業することになった。
何故だ? 王族だよね?
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