上 下
514 / 538
16章

トラッシュ、トラッシュ、クラッシュ

しおりを挟む


 さすがアデトア君。いい反応をしてくれる。なーんて思ってたのに、次のセリフにズッコケそうになった。

「何かやらかそうとしてるのはわかったが、その、ダンシャリってなんだ?」
「わかってなかったんかーいッ!! いらないモノを棄てるってことだよ」
「捨てる? いらないモノなら構わないが……」

 はい、言質ゲットだぜ!
 ただ捨てるんじゃなくて廃棄の方の棄てるね。その辺に捨てたら誰か拾っちゃうかもしれないじゃん?
 若干不安そうなアデトア君だけどスルーさせてもらう。大丈夫、ひいてはキミのためだよ。
 光魔法コーティングを施した手袋を配り、部屋の真ん中に二つの大きな木箱を出したら作業開始だ。

 精霊達には、前もってガルドさんとコルトさんに鑑定結果を教えてあげてねと、協力を要請してある。
 アデトア君は私が言っても聞かないことがわかっているのか、開けっ放しのドアの前に立って、見守りスタイルにしたっぽい。
 それぞれ部屋の中から選別したモノを二つの箱に入れていく。
 いらないモノがいっぱい。
 素早く鑑定をかけ、あれもコレも~と木箱に投入していく。

〈ロクなもんがないな〉
「ホントにねぇ~」
「おい! グレン何してる!! それは他国からのいただきものだぞ!」
〈ん? こんなモノを寄越す国なんぞ切ってしまえ〉
「そんなワケには――って、おいっ、セナ! まてまてまて!」
「ん? どうしたの?」
「どうしたの? じゃない! ソレは友好の証として他国からもらったものだ!! ぞんざいに扱うな!」

 動くのが面倒で雑に投げ入れていた私は、アデトア君のセリフに固まった。
(え……これを? それだいぶヤバくない?)
 一瞬にして現実逃避しかけた私が持っていたのは……この部屋の中で一番に目を付けていた。ドアを開けた瞬間にアレはヤバいと思ったものだ。
 目には付いたものの、棚の上の方にあってすぐにはとれなかったんだよね。

「あのさ、ここにある魔導具と不気味な置物って王様が集めたやつじゃないの?」
「まぁ、ほとんどはそうだな。だが家臣や他国からのもある。今ガルドが持っているのもそうだ」
「ゲッ……マジかよ……」

 アデトア君の一言で、顔を引き攣らせたガルドさんは先ほどとは打って変わって壊さないように箱に入れた。
 入れられた不気味なお面は瞬きをする間に、そこには何もなかったかのように消え去った。

「……だいたいなんの基準で選んでるんだ? 箱にもよくわからん魔法陣が描かれてるし、そもそもなぜ入れた瞬間に消える?」
「あーっとね……効能がよろしくないやつなんだよ。左の箱がマジでヤバい方で、右の箱がそこそこヤバい方。ちなみにコレはマジでヤバい方」
「……は? それが、か……?」
「……うん。コレは不快感っていうかイライラさせて精神を蝕ませるやつ。かなり強力な呪いの魔導具」
「は? ……は?」

 アデトア君は理解できないとばかりに宇宙を背負った猫のような顔でフリーズした。



 ――事の発端は私達がテルメの街にいたとき。
 火山に入る交渉のためにニキーダが精霊達に調べさせた際に少し露見したこと。
 ニキーダに「どんな生活をしているか様子を探るだけでいい。なるべく早く」とお願いされたため、調べに向かった子は鑑定なんぞせずにそのまま報告。
 なのに、私が神銀ミスリルの指輪型魔導具を作っちゃったから、いくらで売るべきかと城中の装飾品や調度品、王族の金使い、国庫事情……と秘密裏に調べに調べられた。

 その際にこの部屋のは発覚したものの、ニキーダがジィジと連絡を取りながらアデトア君に探りを入れても影響がなさそうだったことで緊急性はないと先送りに。
 で、ニキーダと一緒にゴンドラ商会で近隣の村のお土産品コーナーを見ていたとき、「そういえばアデトア君の部屋って変な置物いっぱいあるって言ってたよね。呪いの魔導具とかあったりして~」なんて冗談のつもりで言ったのに、ニキーダが「あぁ、あったわね」なんて素で返してきたのだ。
 このときに初めて私は知った。意図せず渾身の「はぁ!?」が出たよね……


 余計なお世話だとしても気になるもんで、みんなと相談してヴィルシル国に乗り込もう大作戦を決行することになった。
 いろんな問題をマルっと解決しちゃおうぜって計画だけど、一番の目的は今日のこの作業である。



 目の前でヒラヒラと手を振り、宇宙から戻ってきたアデトア君に微笑みかける。

「この箱はパパ達がくれたやつで、中に描いてあるのは転送魔法陣。私がマジックバッグに回収~でもよかったんだけど、パパ達が協力してくれることになったの」
「協力……協力ね……(セナが危険物を持ち歩くなんて断固許せねぇって、発狂もんの強制だったじゃねぇか……)」
「ガルドさん、どうかした?」
「いや、セナはに愛されてるからなって」
「えへへ」

 なんでここまで好かれてるのかは謎ですけれども。今度お礼の料理をロッカーに入れないとね。
 しまりのない笑顔を向けた私の頭をガルドさんがワシャワシャと撫でる。
 ちゃんと手袋を取ってくれている優しさが好き。

「何を思って送られたモノかは知らねぇが、俺達がセナのに送ってるのはアデトアの身に害になるモノ。アデトアもこの部屋を気に入っているワケじゃないんだろ? 悪いようにはならねぇから安心しろ」
「そうか……まぁセナだからな…………何か手伝うことはあるか?」

 おかしな納得のされ方ではあるものの、アデトア君が納得したならいいか。
 数人のメイドさんと兵士を呼んでもらい、伝言を頼んでから作業を再開させた。
 精神異常に関しての魔導具やアイテムが多いものの、ベッドの裏には睡眠障害を誘発するものがあったし、電灯ならぬ魔力灯やトイレにまで頭痛や腹痛などの状態異常を起こすものを発見した。
 ほとんどのモノが効果が弱いものであったけど…………けどもさ、それにしてもじゃない? よくこの中で生活できてたよね? 効果が相殺しあってたん? どのみち超人には違いないね。

「よし、こんなもんかな? グレンさんいける?」
〈空気が悪いし、われは手伝った。おやつが食べたい〉
「先にやって新鮮な空気にしてからにしない?」
〈むぅ……わかった。離れろ。アデトアもだ。いくぞ!〉
「な、何を……あ? は? やめ、やめろおおおおぉぉぉぉぉぉ!! お、おおい! 何やってんだ! やめろ、やめろおおおおおぉぉぉぉ!!」

 アデトア君の叫び声を無視してグレンは壁をゴンゴンと殴る、殴る。
 壊れた壁は外に落下し、部屋には陽の明るさと新鮮な空気が舞い込んできた。

「ふはぁ~、やっぱ息苦しさが全然違うねぇ。じゃ、おやつ食べよっか? グレン、そのテーブル、こっちに持ってきて」
〈うむ! われは大盛りがいい!〉
「セェェナァァァァァァァーーー!!」

 グレンが引っ張ってきたテーブルにおやつを出そうとした瞬間、アデトア君の大音量の叫びが響き渡った。



--------キリトリ線--------

 電子書籍を待っていた方、KindleやLINEマンガなど、電子書籍版も無事に販売となりました。
 書籍版購入のコメントをいただき、加筆した箇所も好評なのかなと嬉しく思っております。
 書籍版、電子書籍版ともに読んでいただけると嬉しいです。

しおりを挟む
感想 1,797

あなたにおすすめの小説

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな

しげむろ ゆうき
恋愛
 卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく  しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ  おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~

白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」 マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。 そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。 だが、この世には例外というものがある。 ストロング家の次女であるアールマティだ。 実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。 そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】 戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。 「仰せのままに」 父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。 「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」 脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。 アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃 ストロング領は大飢饉となっていた。 農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。 主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。 短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。