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16章
トラッシュ、トラッシュ、クラッシュ
しおりを挟むさすがアデトア君。いい反応をしてくれる。なーんて思ってたのに、次のセリフにズッコケそうになった。
「何かやらかそうとしてるのはわかったが、その、ダンシャリってなんだ?」
「わかってなかったんかーいッ!! いらないモノを棄てるってことだよ」
「捨てる? いらないモノなら構わないが……」
はい、言質ゲットだぜ!
ただ捨てるんじゃなくて廃棄の方の棄てるね。その辺に捨てたら誰か拾っちゃうかもしれないじゃん?
若干不安そうなアデトア君だけどスルーさせてもらう。大丈夫、ひいてはキミのためだよ。
光魔法コーティングを施した手袋を配り、部屋の真ん中に二つの大きな木箱を出したら作業開始だ。
精霊達には、前もってガルドさんとコルトさんに鑑定結果を教えてあげてねと、協力を要請してある。
アデトア君は私が言っても聞かないことがわかっているのか、開けっ放しのドアの前に立って、見守りスタイルにしたっぽい。
それぞれ部屋の中から選別したモノを二つの箱に入れていく。
いらないモノがいっぱい。
素早く鑑定をかけ、あれもコレも~と木箱に投入していく。
〈ロクなもんがないな〉
「ホントにねぇ~」
「おい! グレン何してる!! それは他国からのいただきものだぞ!」
〈ん? こんなモノを寄越す国なんぞ切ってしまえ〉
「そんなワケには――って、おいっ、セナ! まてまてまて!」
「ん? どうしたの?」
「どうしたの? じゃない! ソレは友好の証として他国からもらったものだ!! ぞんざいに扱うな!」
動くのが面倒で雑に投げ入れていた私は、アデトア君のセリフに固まった。
(え……これを? それだいぶヤバくない?)
一瞬にして現実逃避しかけた私が持っていたのは……この部屋の中で一番に目を付けていたブツ。ドアを開けた瞬間にアレはヤバいと思ったものだ。
目には付いたものの、棚の上の方にあってすぐにはとれなかったんだよね。
「あのさ、ここにある魔導具と不気味な置物って王様が集めたやつじゃないの?」
「まぁ、ほとんどはそうだな。だが家臣や他国からのもある。今ガルドが持っているのもそうだ」
「ゲッ……マジかよ……」
アデトア君の一言で、顔を引き攣らせたガルドさんは先ほどとは打って変わって壊さないように箱に入れた。
入れられた不気味なお面は瞬きをする間に、そこには何もなかったかのように消え去った。
「……だいたいなんの基準で選んでるんだ? 箱にもよくわからん魔法陣が描かれてるし、そもそもなぜ入れた瞬間に消える?」
「あーっとね……効能がよろしくないやつなんだよ。左の箱がマジでヤバい方で、右の箱がそこそこヤバい方。ちなみにコレはマジでヤバい方」
「……は? それが、か……?」
「……うん。コレは不快感っていうかイライラさせて精神を蝕ませるやつ。かなり強力な呪いの魔導具」
「は? ……は?」
アデトア君は理解できないとばかりに宇宙を背負った猫のような顔でフリーズした。
◇
――事の発端は私達がテルメの街にいたとき。
火山に入る交渉のためにニキーダが精霊達に調べさせた際に少し露見したこと。
ニキーダに「どんな生活をしているか様子を探るだけでいい。なるべく早く」とお願いされたため、調べに向かった子は鑑定なんぞせずにそのまま報告。
なのに、私が神銀の指輪型魔導具を作っちゃったから、いくらで売るべきかと城中の装飾品や調度品、王族の金使い、国庫事情……と秘密裏に調べに調べられた。
その際にこの部屋の異常性は発覚したものの、ニキーダがジィジと連絡を取りながらアデトア君に探りを入れても影響がなさそうだったことで緊急性はないと先送りに。
で、ニキーダと一緒にゴンドラ商会で近隣の村のお土産品コーナーを見ていたとき、「そういえばアデトア君の部屋って変な置物いっぱいあるって言ってたよね。呪いの魔導具とかあったりして~」なんて冗談のつもりで言ったのに、ニキーダが「あぁ、あったわね」なんて素で返してきたのだ。
このときに初めて私は知った。意図せず渾身の「はぁ!?」が出たよね……
余計なお世話だとしても気になるもんで、みんなと相談してヴィルシル国に乗り込もう大作戦を決行することになった。
いろんな問題をマルっと解決しちゃおうぜって計画だけど、一番の目的は今日のこの作業である。
◇
目の前でヒラヒラと手を振り、宇宙から戻ってきたアデトア君に微笑みかける。
「この箱はパパ達がくれたやつで、中に描いてあるのは転送魔法陣。私がマジックバッグに回収~でもよかったんだけど、パパ達が協力してくれることになったの」
「協力……協力ね……(セナが危険物を持ち歩くなんて断固許せねぇって、発狂もんの強制だったじゃねぇか……)」
「ガルドさん、どうかした?」
「いや、セナはパパ達に愛されてるからなって」
「えへへ」
なんでここまで好かれてるのかは謎ですけれども。今度お礼の料理をロッカーに入れないとね。
しまりのない笑顔を向けた私の頭をガルドさんがワシャワシャと撫でる。
ちゃんと手袋を取ってくれている優しさが好き。
「何を思って送られたモノかは知らねぇが、俺達がセナのパパ達に送ってるのはアデトアの身に害になるモノ。アデトアもこの部屋を気に入っているワケじゃないんだろ? 悪いようにはならねぇから安心しろ」
「そうか……まぁセナだからな…………何か手伝うことはあるか?」
おかしな納得のされ方ではあるものの、アデトア君が納得したならいいか。
数人のメイドさんと兵士を呼んでもらい、伝言を頼んでから作業を再開させた。
精神異常に関しての魔導具やアイテムが多いものの、ベッドの裏には睡眠障害を誘発するものがあったし、電灯ならぬ魔力灯やトイレにまで頭痛や腹痛などの状態異常を起こすものを発見した。
ほとんどのモノが効果が弱いものであったけど…………けどもさ、それにしてもじゃない? よくこの中で生活できてたよね? 効果が相殺しあってたん? どのみち超人には違いないね。
「よし、こんなもんかな? グレンさんいける?」
〈空気が悪いし、我は手伝った。おやつが食べたい〉
「先にやって新鮮な空気にしてからにしない?」
〈むぅ……わかった。離れろ。アデトアもだ。いくぞ!〉
「な、何を……あ? は? やめ、やめろおおおおぉぉぉぉぉぉ!! お、おおい! 何やってんだ! やめろ、やめろおおおおおぉぉぉぉ!!」
アデトア君の叫び声を無視してグレンは壁をゴンゴンと殴る、殴る。
壊れた壁は外に落下し、部屋には陽の明るさと新鮮な空気が舞い込んできた。
「ふはぁ~、やっぱ息苦しさが全然違うねぇ。じゃ、おやつ食べよっか? グレン、そのテーブル、こっちに持ってきて」
〈うむ! 我は大盛りがいい!〉
「セェェナァァァァァァァーーー!!」
グレンが引っ張ってきたテーブルにおやつを出そうとした瞬間、アデトア君の大音量の叫びが響き渡った。
--------キリトリ線--------
電子書籍を待っていた方、KindleやLINEマンガなど、電子書籍版も無事に販売となりました。
書籍版購入のコメントをいただき、加筆した箇所も好評なのかなと嬉しく思っております。
書籍版、電子書籍版ともに読んでいただけると嬉しいです。
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