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第三部 12章
地下帝国の街【2】
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散々屋台で飲み食いしたセナに夜ご飯は入るわけもなく……興奮しきりのセナのために一行は休憩をしようと喫茶店を探していた。
ジャレッドがいるため、普通に入れば他のお客さんは出て行ってしまう。ジャレッドのためにもお店のためにも個室がある店がいい。そう考えたアリシアは「ゆっくりと休めるように個室のあるお店にしましょう」と提案した。
ようやく見つけたお店にアリシアが交渉に向かっている間、天狐の腕の中から裏路地を見ていた。
「あ! жжжж!」
「え? わ! ちょっとセナちゃん!」
「セナ!」
何かを見つけたセナは暴れて降りると、裏路地に向かって走り出してしまった。
セナは裏路地の突き当たりで目的の人物を見つけるなり、そのままの勢いで何かを叫びながら飛びついた。
「んがっ!」
「жжжжжメーッ!」
「あんだ! このガキャ!」
驚いた男はセナを引き剥がし、投げ捨てる。セナは派手な音を立てて木箱にぶつかり、その木箱を破壊した。
ちょうどそこへ天狐がセナを追いかけてきた。
頭を振りながら木箱の木片から起き上がったセナを見て、天狐のしっぽはブワッと逆立った。
「あんた……ウチの子に何してくれてんのよ……死にたいの?」
天狐は女とは思えないほど怒りを滲ませた低い声で男に問いただす。
紅く瞳を光らせたその目は据わっていて、男は瞬時に恐怖で体を震わせ始めた。
「うぐ……」
「おい、何があった?」
「キャア! セナ様!! おケガは!?」
天狐が男の首を片手で持ち上げていると、ジャレッドとアリシアが追い付いた。
アリシアはまだ立ち上がれていないセナに駆け寄り、急いでケガの有無を確認する。
「おい天狐!」
「こいつが……こいつがね、セナちゃんを投げ飛ばしたのよ。ねぇ、殺していいでしょ?」
「……何だと?」
ジャレッドが男を睨み付けると、男はヒュッと息を呑んだ。ただでさえ天狐に持ち上げられて青い顔色がさらに白くなっていく。
そんな男や心配するアリシアを気にも止めず、意識がハッキリとしたセナは突き当たりの一角に小走りで近寄る。
「жжжжжж?」
「何だ? 何かあるのか?」
心配そうなセナの声を聞き、ジャレッドは男から視線を逸らした。
ジャレッドがセナに近付くと、セナの両手の中でぐったりとする小さな妖精が二人いた。
「これは……」
「ティンコ……」
「! セナちゃん、痛い? 大丈夫!?」
セナに呼ばれた天狐は我に返り、男をボトリと地面に落としてセナの下へと急ぐ。
「あら? アマメハギの子供じゃない。珍しいわね」
「ティンコ……」
「回復させたいのね」
セナの言わんとしていることがわかった天狐は、セナと共にその妖精にも回復魔法をかけてあげる。
妖精は目を覚ましていないが、天狐はセナがケガを負っていないことにホッと息を吐いた。
「心配したのよ。勝手にいなくなっちゃダメでしょ? ああいうのがいるんだから」
天狐は気を失っている男をビシッと指さす。
セナは天狐に言われている間も手の中にいる妖精を心配そうに見つめている。
「あ、あの……セナ様が持っていらっしゃる小さな生き物達はなんでしょうか? この黒いのは仮面ですか? 体とサイズが合っていない気がいたしますが……」
「最近はあまり見かけなくなったから知らなくても無理はないわ。アマメハギはね、家を守ってくれる妖精なの。これは子供だけど、大人になると〝悪いやつぁ入らねぇ〟って家に害を寄せ付けないのよ。今は弱ってるみたいだから姿が見えるけど、普段は姿を隠して二人一組のペアで門のところで訪ねて来た人をチェックするの。それにしても珍しいわね。アタシも久しぶりに見たわ。で、そいつどうするの? 殺す?」
サラッと物騒な発言をする天狐に、アリシアは頬を引きつらせる。
「いや……状況から察するに、こいつがこのアマメハギに何かしていたのをセナが見て、助けようとしたんだろう。妖精売買などだった場合大問題だ。尋問せねばなるまい」
「えぇ……まぁ、しょうがないか……殺さないであげるから、二度とセナちゃんの前に現れないようにしてよね」
「うむ。もう日の目を見ることも叶うまい」
アリシアはセナに聞かせてはならない内容だと、セナの耳を塞いでいた。
◇
セナがずっとアマメハギの子供を気にしていたため、結局、喫茶店には入らずにお城に戻ってきた。ジャレッドが呼んだ警備によって地下牢に収容されることになったあの男は、意識が戻り次第尋問する手筈になっている。
アリシアに用意してもらったフカフカの小箱に妖精を横たえ、セナはずっとそれを心配そうに覗き込んでいた。
ジャレッド達は部屋のソファからそんなセナの様子を窺う。
「全く。後で言い聞かせねば……」
「そうね。でも怒りの感情があってちょっと安心したわ。体も小さいし、大抵ニコニコしてるから心配だったのよね。五歳ってもっと手がかかりそうなのに普段は大人しいし……」
「え?」
「え?」
アリシアが天狐の言葉に驚き、驚かれたことに天狐が驚いた。
「セナ様は六歳ではないのですか?」
「「は?」」
「え……以前ギルドネックレスを見たときに六歳と記載されておりましたので、六歳だと思っておりました」
「何ですって!?」
天狐はサッとセナの首元からギルドネックレスを出し、確認する。
「ホントだわ……六歳になってる……セナちゃんいつ誕生日だったの!? って、あなた知ってた!?」
「己はお前が五歳だというから五歳だと思っていた」
「そう……よね。いつの間に六歳になってたのかしら……あぁ……誕生日一緒にいた日ならいいんだけど……は! プレゼント用意しなくちゃ!」
「ティンコ! жжж!」
一人慌てている天狐をセナが呼ぶ。妖精の目が覚めたらしい。
天狐が見に行くと、アマメハギは怯えてプルプルと震えていた。しかし、セナが優しく撫でる手付きに安心したのか、ウトウトと船を漕ぎ出した。
「うん。もう大丈夫そうよ。よかったわね。セナちゃんもそろそろ寝なくちゃ。セナちゃんが眠るまでは傍にいてあげるわ」
「ケガをするところだったんだ。今日は泊まってやれ。ベッドを貸してやる」
「そうね。そうさせてもらおうかしら。セナちゃん、着替えましょ?」
着替えたセナを抱っこして一定のリズムでポンポンと背中を叩いてやると、セナも眠そうにカクカクし始めた。こうなればあと少しだ。眠るまで続ければいい。
セナをベッドに寝かせ、自身もセナの隣りで横になる。
プレゼントはどうしようかと考えながら、ジャレッドと少し話すつもりだった天狐はそのまま寝落ちしてしまった。
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