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11章

謎は謎のまま

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 サーカスからの帰り道、特に疲れていない私はジルにどういうことなのか聞いてみた。
 ジルいわく、そういうことにした方が文句を言われず早く帰れるから。実際セナ様が寝不足には変わりありませんので……だそう。
 いつもよりかなり遅く起きたから睡眠時間的にはあんまり変わらないんだけど、騎士団に連れて行かれそうだったのを回避できたからいいかな?

「もう貴族エリア出たから降ろしてくれてもいいんだよ?」
〈む? われに抱えられるのは嫌なのか?〉
「違う違う。さっきのは口実でしょ?」
〈ふむ。そんなことよりこの後のことだ〉

 グレンは私を腕の中から降ろすつもりはないらしく、早々に話題を変えられてしまった。
 私の諦めの表情を見たガルドさん達は苦笑いしている。

「おばあちゃんに聞きたかったけど、今日は無理そうだから……どうしよっか? 何かやりたいことある?」
〈狩りと言いたいところだが……セナは昨夜魔力消費が激しかったからな。今日は宿だ〉
「むぅ。大丈夫なのに……」

 説明しても相手にしてもらえず……結局、心配性なみんなに押し切られて私達は宿に戻った。
 実験や調理で疲れが取れないとの理由でコテージに行くことも禁止され、暇を持て余した私はデザイン画を描いたり、みんなとリバーシをしたりと宿ですごした。



「イッヒッヒ。捕らえられていたサーカス団の呪術師が逃げたらしいですよ」

 夜ご飯を食べ終わり、食器を回収しにきたインプが教えてくれた。何でも、監視していた騎士二人を殺めての脱走で、明日から街の中はもちろん、街への出入りが厳しくなりそうとのこと。

「マジかぁ……それ、私達にも影響あるかな?」
「イッヒッヒ。どうでしょうね。そうそう。〝魔女おばあちゃん〟がセナ様に用があるらしいですよ。イッヒッヒ」
「あれ? そうなの? じゃあ明日はおばあちゃんのお店に行ってみる」
「イッヒッヒ。そうしてください。では、ごゆっくり」

 インプは笑いながら食器をサービスワゴンに乗せて回収していった。

◇ ◆ ◇

 朝ご飯を食べた私達はおばあちゃんのお店を訪れた。
 いつも通りのおばあちゃんに出迎えられてティールームへ。

「ヒャッヒャッヒャ。そんなに身構えずとも取って食いやしないよ」
「そういえばガルドさん達はこの姿のおばあちゃんと会うの初めてだね。私はこっちの方が慣れてるんだけど」
「ヒャーヒャッヒャ! まぁ、そのうち慣れるじゃろ」

 ガルドさん達は緊張していて、顔が強ばっている。そんなガルドさん達を放置して、グレンはおばあちゃんが用意してくれたクッキーをパクパクと食べていた。

「おばあちゃんの神使か関係者ってサーカスに来た?」
「ん? いや、行っておらんハズじゃが……楽しくなかったかの?」
「楽しくなってきたところでショーの最中に虎さんが逃げて、私達のところに来たの。そのせいで途中で終わっちゃったんだ」

 私が簡潔に説明すると、おばあちゃんは〝おや?〟と片眉を上げた。
 よくわかっていないおばあちゃんにサーカスでの出来事とその後の話をすると、前回と同じく私のおでこに人差し指を当ててから頷いた。

「ふむ。なるほどのぅ……それは災難だったの……セナが楽しめると思うとったんじゃが……」

 おばあちゃんは残念そうに首を振った。
 あの虎の脱走はおばあちゃんが意図しないことだったらしい。ただ、だから街が騒がしかったのかと納得したみたい。

「おばあちゃんの関係者じゃないならアレは誰だったんだろ?」
〈見間違いじゃないのか?〉
「そうだとしてもグランドタイガーを檻から出した人物がいるハズです。グランドタイガー本人が〝知らない男〟と言っていたのですよね?」
「うん」
「でしたらサーカスの団員ではない人物なのでしょう」

 全員で首を捻ってもわからないもんはわからない。その件に関してはおばあちゃんが調べてくれることになった。

「サーカスを出てから後を尾けられたことも考えて、早めにこの街を出た方がいいかもしれません」

 ジルの発言を聞いて、おばあちゃんは考えてからくちを開いた。

「ふむ。今はまだ街を出ん方が得策じゃの。騎士が逃げた呪術師を捕まえようと躍起になっておる。セナが領主にサーカス団の証拠を届けたんじゃろ?」
「うん。領主本人とは関わりたくないけど、知ってた方がいいと思って」
「ヒャーヒャッヒャ! やはりセナは特別じゃの。領主がその人物も探しておる」
「げっ」
「ヒャッヒャッヒャ。それに関してはバレておらんから大丈夫じゃ。ただ、国王からの通達のことは知っておるの? 今出ると時間をかけて調べられるゆえ、領主と会うことになるやもしれん」
「それは面倒だから遠慮したいね……」

 となると、騒動が落ち着くまではこの街にいた方がよさそう。

〈狩りに行けないではないか〉
「ヒャッヒャッヒャ。明日と明後日は雨じゃが、この街の池で雨の日にしか釣れぬ魔魚がおる」
「魔魚……」

 魔魚って前にジルが釣ったやつだとオタマジャクシに足生えたオッサン着ぐるみだよね……
 思い出してゲンナリしている私を見て、おばあちゃんは笑いながら頭を撫でてくれた。

「ヒャーヒャッヒャ! セナなら喜ぶと思うがの」
〈食べられるのか?〉
「ヒャッヒャッヒャ。いかにも」
〈釣りに行くぞ!〉

 食べられると聞いてグレンはテンションが上がり、ジュードさんまで私にチラチラと期待の眼差しを向けてくる。
 これは明日と明後日は釣りで決定だね。

「この街って四つ池があるけど、どこでも釣れるの?」
「ヒャッヒャッヒャ。さすがセナは鋭いのぅ。一応全ての池でも釣れるが、明日は南東、明後日は南西の池がよく釣れそうじゃの」
「おぉー! ありがとう!」

 南東は貴族エリア、南西は平民の中でも貧しいエリアだったハズ。
 私がお礼を言うと、おばあちゃんは満足そうに私の頭を撫でた。

「一週間もすれば呪術師がもう街にいないこともわかるじゃろう。この街を出たら、少し距離があるが南東の森に寄るといい。望むがいる」
「望むモノ?」
「ヒャーヒャッヒャ! 少々難ありじゃがセナなら大丈夫じゃろう」

 おばあちゃんの含みのある言い方に私達は顔を見合わせた。
 おばあちゃんはそれ以上教えてくれるつもりはないらしい。

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