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9章

BADモーニング

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 門から一歩踏み出すと、キアーロ国の王城とは違う部屋だった。
 白いモヤだったのに、本当にすぐにシュグタイルハン国の王城の一室に着いたらしい。振り向くと、キアーロ国で見たときと同じように扉の中は白いモヤだけ。
 私達が門から離れると、門の扉は音を立てて閉まった。

「何者!?」
「セナ様!? しょ、少々お待ち下さい!」

 音を聞きつけたのか、転移門ゲートの部屋の前で警護をしていたと思われる兵士さんが扉から顔を出し、私達がいることに驚いた。
 一人が走っていなくなったのはたぶんアーロンさんを呼びに行ったんだと思う。

 数分でさっきの兵士さんとアーロンさんが走ってきた。
 ブラン団長を見て目を丸くさせ、私を見て納得したらしい。

「戻ってきたということは何かわかったのか?」
「うん。また使ってもいい?」
「セナならいつでも構わん。わかったな?」
「「ハッ!」」

 ブラン団長は帰るのか聞いてみると、アーロンさんに話があるらしい。
 執務室に向かう道中、アーロンさん達が調べてくれていた創世の女神について教えてくれた。
 アーロンさんに解決できるかもしれないことを伝えて、アーロンさんとブラン団長と別れた。注目をされている中、目の前で転移は止めたほうがいいとウェヌスに言われて、用意してもらったお城の私の部屋へ。
 そこから転移を繰り返して村まで戻った。

「ジル! さっきぶり!」
「セナ様! おかえりなさいませ!」
「泉浄化しに行ってくるから、村長に眠っている村人から目を離さないように伝えといてもらえる? あれ? アルヴィンは?」
「かしこまりました。セナ様と一緒のときに紹介しようと、今は影に入ってもらっています」
「なるほど。そしたら浄化次第すぐ戻ってくるね」
「はい。お待ちしております」

 ジルにグレンとガルドさん達をお願いして私は急いで泉に向かう。
 泉の周りはまだ魔力が色濃く、前回同様ポラル以外は近付けなかった。

「水には触れない方がいいよね……」
〔イト、マキマスカ?〕
「そっか! そうだね! お願いできる? 巻いたら、前にボール投げてたみたいに泉の真ん中に投げてもらえるかな?」
〔ハイッ!〕

 元気よく返事をしながらシュタッと手を上げたポラルは、地面に置いた【浄化玉】にお尻をフリフリしながら糸を巻き付けてくれた。
 ポラルに玉をお願いして、私は神殿の鍵を開け作業へ。
 神殿の扉には五ミリほどの穴しか見当たらなくて、そこに魔力針金を通して中をいじる。

「マジ泥棒みたい。しかも時代遅れの泥棒……」

 魔力を針金のようにしてカチャカチャやれば開くって言われたけど、鍵穴ってコレだよね?
 開く気配がなくて不安になり、ドアノブを握りながらグリグリと力任せに魔力を押し込むとガゴン! と鍵開けとは思えない音が鳴った。
 恐る恐る見てみると……なんとまぁ! ドアノブが……

「折れてる……ヤバし! どうしようこれ!」

 ウェヌスがいたらなかったことにできそうだけど……内側のドアノブも折れて床に落ちていて、私にはどうしようもない。

〔ゴシュジンサマ、オッタ?〕

 後ろからポラルの声が聞こえて、グギギギと擬音が鳴りそうなくらいぎこちなく振り向いた。
 ポラルは四つあるつぶらな瞳で私を見つめていた。
 見られた。見られてしまった! 

「違うの! 折っちゃったけど! いや……違うくない。そう。折っちゃった……どうしよう……」
〔アナ、アイテル。イト、トオセマス〕

 ポラルは救世主だった!
 私が壊したドアノブの穴から糸を通してカチリと鍵を開けてくれた。

「ありがとう! ポラルがいてくれてよかった! 大好きだよー!」

 ポラルを持ち上げてスリスリすると、〔フフフ〕と喜んでくれた。
 ポラルを抱えたままドアを開けると、中は外観よりは広く、石畳の床から剪定されたりんごの木のような木が一本だけ生えていた。

「神の使いってどこにいるの?」
〔アソコ、イエアリマス〕

 キョロキョロと見回していると、ポラルが指さしながら教えてくれた。
 よく見ると、生えている木の枝の上に、ちょっと大きめのドールハウスのようながあった。

 私の身長では届かなくて中を覗くこともできない。
 ポラルに頼んで見てきてもらったけど、中は見えなかったらしい。

「そういえば、ガイにぃが浄化したあと起こせって言ってたっけ。浄化したら起きるかも!」

 ひとまず神の使いを放置して、泉に戻って【浄化】してみた。
 してみたけど、神の使いは起きてくれなかった。
 仕方ないので木に登ってをノックしたり、魔法で起こすようにしてみたりしたけど起きる気配がない。

「起こす方法聞いておけばよかった……」
〔ナニカ、キョーレツナ、ニオイシタラ、オキルカモ?〕
「強烈……何かあったかな? カレーはそこまで強烈じゃないし……あ! あれがあるじゃん!」

 ミカニアの街で井戸掃除したときのヘドロがマジックバッグに入れたままだったことを思い出した。

 自分達に結界を張ってにおいをガードしてから、の近くの地面にボトボトっとヘドロを出した。
 風魔法を使ってにおいがに向かうようにすると、がガタガタと揺れ始めた。

 『くっせー!』と叫びながらから飛び出してきたのは可愛らしいチンチラ。
 真っ黒でツヤツヤにふわふわの毛並みで四十センチほどの大きさ。予想外の大きさに驚いたけど、クリクリのおめめがとっても可愛い!

「わっ! ソー、キュート!」
『オエェ! ぐへぇ……鼻が腐る……』

 あまりのくささにエズいているチンチラが可哀想になってきて、ヘドロをマジックバッグに戻して【クリーン】をかけてあげた。

「おはよう。大丈夫?」
『大丈夫じゃねぇやい! 最悪な目覚めだ! てめぇのせいか! オイラの鼻がおかしくなっちまったじゃねぇか! どうしてくれるんだ! あん!?』

 見た目はすごく可愛いのに、言葉遣いと態度は可愛くなかった。

「ごめんね。どうしても起きて欲しかったんだよ。普通に起こしても起きてくれなかったから……」
『なんでてめぇに起こされなきゃ……あ! てめぇか! てめぇがオイラの縄張りけがしやがったんだな!』
「違うよ! 私達は……」
『このやろぉぉぉぉぉぉ!』
「キャー!」

 話しを聞かずに黒い雷みたいな魔法を放たれて、ポラルを抱きしめながらギリギリかわせた。
 強めの結界を張って耐えているけど、チンチラの魔法でバチバチと激しい爆発音と振動が伝わってくる。
 泉を浄化したのに、なんで誤解されて攻撃されているんだろうか……
 激しい音がしていて、結界が壊れるんじゃないかと不安に襲われ、何重にも結界を張り直した。

「うぅ……さすがにコレは音も振動も怖いぃぃ……パパぁ……」

 来てもらえないだろうなと思いながらも、何とかして欲しいとパパに助けを求める私の声は小さかった。

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