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第三章 三人の卒業、未来へ
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しおりを挟む骨の髄まで愛され尽くしたリスティアは、ぐったりとシーツに身体を投げ出した。長い銀髪が広がり、背中や腰を覆う。ちらちらと見える素肌は、艶やかさを隠しきれていなかった。
「もうだめ……、はぁ、ふやける……」
「ふやけてていいのですよ、リスティア。そう言われても、ああ、むしろ強請られているように感じてしまいます」
「ほんとに、もう……身体が鈍るから、だめ」
「なんてかわいい『だめ』なんだ……」
リスティアはスンッとジト目になった。もう何をしても、彼らには『可愛い』リスティアに見えているらしい。
二週間もベッドの上の住人になってしまったため、日課の鍛錬もこなせていない。リスティアは筋力の衰えを危惧し、決死の思いで服を纏う。残念そうにノエルとアルバートが眉を下げていても、こればかりは譲れない。
気怠げに釦を止めて、顔にかかる銀髪もそのままにゆっくりと衣服を身につけていくリスティア。そこはかとなく醸し出す退廃的な色香に、これでは外に出せないとアルファたちは心で通じ合った。
「そういえば、ノエルとアルはもう王城へ行かなくても良くなったの?」
「ああ、そういえば。そうですね、もうひと段落しましたので」
「そっか……」
ひと段落したということは、マルセルクをはじめ各々の処遇が決まったということ。
ようやく空気が落ち着いたところで、ノエルとアルバートから、リスティアの誘拐に関わった者たちの顛末を聞く。
マルセルクは全ての企みを白状していた。フィルがリスティアを甚振ろうとしたのを見て、余程ショックだったらしい。
しかし吐き出されたのは、リスティアに『少々』傷が付いても問題としない計画の数々。それを聞くと、マルセルクを愛していたかつての自分自身ですら許せないほどの呆れを覚えた。
(僕を傷付けてでも囲いたかった、なんて。愛というか執着かな。どうせ囲って満足して放置すると決まっているのに……恐ろしい)
マルセルクにリスティアを殺す意図は無かったらしいが、そうと納得出来ないくらい、危険な計画だった。
「大丈夫ですか?……せっかく幸せに染められたのに、こんな話で水をさしてしまって……」
「いえ、それは。むしろ、僕が思っていたより僕は動じていないみたい。二人に愛されたから、今の僕は無敵だよ」
「かわ……っ」
アルバートにひしと抱き込まれてしまった。ノエルは困ったようにリスティアの頭を撫で、ちゅっちゅとキスを落としている。
「それなら良いのですが。それで、数日後にはマルセルク元殿下は男爵領へ移送されるんです。そうなればもう会うことは出来なくなりますが、最後に面会しますか?」
「向こうは謝罪したいと言っているが、ティアは気にしなくていい。ティアが会いたくなければ会わないでいいと思う」
リスティアは少し考え、会うことに決めた。
かつて愛した人。どうしようもない人。それでも、最後くらいはフィルに邪魔されることなく話をして、きちんとお終いにしたかった。
ノエルとアルバートも一緒についてきてくれる。二人には、時間を遡っていることを話しているし、隠すこともない。マルセルクだけが知るリスティアを不用意に叫ばれても、困ることはない。
リスティアはもう愛の行為を痛がることはないし、花紋も開花している。常に二人から欲されている事実を奥まで教え込まれ、自信をつけさせられた。
「僕の側から離れないでね。……じゃあ、殿下にさようならって言いに行こう」
「もちろん」
「手も握っている」
数日後。
リスティアの、キールズ侯爵家の洗練された使用人たちすら赤面させる色気が落ち着いた頃、三人は王城の貴族牢へと向かったのだった。
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