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第三章 三人の卒業、未来へ

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「リスティア!来てくれたのか……っ!」

「パーティー以来ですね、殿下」


 質素な牢の中に押し込まれたマルセルクは、リスティアを見て駆け寄ろうとし、はっと息を呑んでいた。

(……?)

 じっ、と見つめる。痩せてはいるものの健康そうではある。シンプルな装いでも、金髪碧眼がくすんでいても、その美貌は損なわれていなかった。
 貴族牢の中でも簡潔な作りの牢を当てがわれているのは、国王のリスティアへの謝罪の気持ちか。

 牢の中にいるマルセルクを見ても、リスティアに同情心は湧かなかった。少しくらい胸を痛めるかと思っていたが、『手荒な方法を選んだ危険人物』と見做していた。

 そのまま言葉を発しないマルセルクに、リスティアは淡々とした態度を崩さない。


「男爵を賜ると聞きました。それから、世継ぎを残す権利を奪われたとも。フィルさんに産んでもらっていて良かったですね」

「そ、そんな……私は、あの子供には会うことはない。リスティア、お前だけいれば良かったのに……」

「そうですか」


 冷たい目を向けると、マルセルクは傷付いたように身じろぐ。両隣のノエルとアルバートは、ギラギラに尖らせた視線で射抜いていた。
 うろうろと目を彷徨わせたマルセルクは、ようやく思いついたように謝罪の言葉を発する。


「……本当に、申し訳なかった。まさか奴が裏切ると思っておらず……、すまない。お前を諦めるとは言えないが、これきり二度と会うことはないだろう。お前を、愛している。これからも、ずっと……」

「そうですか」

「男爵領から、お前の幸せを願っている」


 やつれた顔で、儚げに微笑むマルセルク。
 その『綺麗に終わらそう』という雰囲気を、リスティアはぶち壊した。


「私はここにいる二人と生きていきます。殿下に願われなくとも幸せに満ち足りていますし、なんだか気味が悪いのでご自分の領民を幸せにすることを第一にお考え下さいませ」

「な」

「願わくば、前回死んだ私のように不幸な人は作らないでくださいね。……では、今度こそ、さようなら。マルセルク様」

「リスティア……っ、」


 マルセルクが格子ごしに伸ばした手を無視して、リスティアは背中を向けた。

 真っ直ぐに伸びた、凛とした背筋。

 その背中は、二人のアルファによって強固に守られて、すぐにマルセルクの視界から見えなくなってしまった。
















 ーーーーーーーー 牢に残されたマルセルクは。


 リスティアの変貌に、魂を抜かれたかのように呆然としていた。

 何があったのか理解したくない。したくないが、分からせられてしまった。目の前のリスティアは、艶のある色気と、強いアルファの所有フェロモンを纏うようになっていた。

 最も違うのは、かつてマルセルクの隣にいた時とは比べ物にならないほど、輝いた表情。確固たる自信。……痩せ細り、常にマルセルクの愛を欲していた、あの可哀想なリスティアは、どこにもいなかった。


 こうしてマルセルクは、リスティアをむざむざと失った現実を、完膚なきまでに叩きつけられた。










 猫の額ほどの小さな領を持つ男爵となったマルセルクは、時折薬師団長に経過観察されたり、指示をされる非検体となり、研究のために情報を提供することとなった。

 私生活では男娼を抱くしかない上に満足出来ない身体となり、独身を貫き真面目に領主を務めることが、マルセルクなりの、せめてもの償いだった。






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