虚構の愛は、蕾のオメガに届かない

カシナシ

文字の大きさ
92 / 95
番外編(リスティアの花紋)

9

しおりを挟む

 ジェシーをどうにかするためにまた休日を申請すると、ラヴァが目を輝かせていた。


「運命!?ホント!?それホントならすごいことだよ!生捕りにして泉の拠点に持ってきて!」

「ラヴァ様、考えていることがダダ漏れですよ。二人を会わせた時のフェロモン数値を測りたいのでしょう。サンプルは取ってきますから、それで我慢して下さい」

「その子の通常時のサンプルも取れる?それならお願いね!勿論アルバートくんのもだよ!」


 ラヴァの知的好奇心を無視していいことは何もない。リスティアはため息を吐きながら準備をする。

 ラヴァからサンプル瓶を貰い、ジェシーと会うことになった。相手に常識は求められないため、完全武装状態で。









 とある品の良い宿屋の一室に、ジェシーを呼び出した。
 高級ランクのため、寝室とは別に居室もついている。香り高い珈琲と茶菓子を前に、ジェシーは目をぎらつかせながら周りを確認していた。


「……アルバートさんはどこ」

「隣の部屋で待っています。少し、お話ししましょう」


 ノエルが口火を切る。ジェシーは刺すような視線でじろじろと目の前の二人を値踏みしていた。リスティアは例の如くローブを頭から被って、さりげなく漂うサンプルを採取する係りだ。


「なに、この人あなたも手篭めにしてるの?こんないいアルファを二人も……許せない!」

「手篭め?手篭めにしたのはどちらかというと私たちの方ですし、なによりジェシーさん、貴女には関係のないことです」


(んんっ?ノエル、手篭めって……?)

 ノエルの言葉にギョッとしたリスティアだったが、会話を遮ることはなく黙っておく。今の本題はそこではない。


「運命の番だと言っておりますが、アルバートは貴方を拒絶しています。それでも何故執拗に追いかけ回すのでしょうか?迷惑なんですよ」


 ノエルは余裕たっぷりにニッコリと笑った。こめかみに青筋が立っているような気もしないでもないが、ジェシーはフンと鼻を鳴らすだけ。


「当たり前でしょう。運命よ?運命の番がいるのにアルバートさんはそこのオメガにおかしくさせられてるの。助けなきゃいけないでしょう?」

「そんな非人道的な薬を作るのを、大錬金術師様がお許しになると?即破門にするでしょう。貴方はラヴァ様の目も節穴だと言ってらっしゃる?」

「うっ……そんな、ことはないけど……っでも!そうじゃなきゃおかしいでしょ!運命なんだもの、恋人がいてもあたしを欲するはずなの!」

「では、何の根拠もないのに、彼が悪い、と」

「当たり前でしょ。そいつは泥棒猫なんだから!」

「……はぁ。ジェシーさん。それなら、確かめてみましょうか?」


 リスティアが口を開く。ジェシーはいよいよ胡乱な目つきを隠さずに、机をバン!と叩いて威嚇する。


「何を確かめるって!?あたしとアルバートさんが運命なのは決まって……」

「フェロモンだけを使って、どちらがアルバートを誘惑出来るか、勝負をしましょう?」

「へっ……?」


 リスティアはコト、と目の前の卓にとある薬瓶を置く。淡いピンク色の透ける、一見香水のようにも見える液体。


「あなたはアルバートを見れば発情をするのですよね。それなら僕は、この発情誘発剤を飲んで発情します。二人ともローブを被った状態で、発情フェロモンを出せば、どちらにアルバートが行くと思います?」

「えっ……と、それは……、でも、あんたの方を嗅ぎ慣れてるんだから、あたしが不利じゃない?」

「運命ならばどんな嗅ぎ慣れたフェロモンにも、これまで付き合ってきた恋人も忘れて勝てるというのが、あなたの主張では?」

「そ……そうだけど」

「あなたが選ばれたのなら、僕は彼を手放すことを考えましょう。でも、僕が選ばれたら、今後一切、僕たちに近付かないで下さいね」


 これはフェロモンの純粋な勝負。どちらも同じローブで姿を隠して、アルバートに選ばせる。


 ジェシーは少し考えて、


「望むところよ。やってやるわ」


 と息巻いた。













 ノエルに連れられ、アルバートが入ってきた。

 扉を開けてムッと顔を顰めるも、至って冷静。一方で、アルバートのフェロモンを感じたのか、ジェシーは息を荒げて発情し出す。ローブを被っている意味がない程、喘いでいる。


「はぁっ、はぁっ……んっ!ああ、アルバートさん……!」


 リスティアは発情誘発剤を一息に飲み干した。喉へ流れて、胃に落ちたところから熱が広がり、身体が火照ってくる。


「ん……っ、はぁ……っ」


 自作の発情誘発剤は、強めの媚薬のようなもの。たまたま次の発情期が近かったのもあり、リスティアの理性があっさりと溶けていく。

 ぺたんと床に座った脚。ローブの中をまさぐり、自身の胸に手を伸ばす。深く被ったフード越しにアルバートを見つめて、その逞しい胸にしがみ付きたくて、身体をかき抱いた。


 アルバートはノエルに羽交締められていた。ノエルはアルファ用の抑制剤を打っているが、アルバートは二人分の発情フェロモンを浴びて、今にも駆け出そうとしているのだ。

 そして二人のフェロモンが十分に部屋に充満し、ノエルが手を離す。


「アルバート、選んで」


 その途端、風が吹いた。


「っ!?」


 ふわっ。
 リスティアの体が宙に浮き、凄まじいスピードで運ばれている!


「はっ!?えっ!?」


 そんなジェシーの声と、ノエルの呆れたような笑い声を置き去りにして。


しおりを挟む
感想 184

あなたにおすすめの小説

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。 ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

優秀な婚約者が去った後の世界

月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。 パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。 このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。

処理中です...