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第二章 二回目の学園生活
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しおりを挟むリスティアは噂を放置した。
こそこそと自分を見て盛り上がりたいなら、盛り上がればいい。リスティアはそう、冷めた目で生徒たちを観察していた。
暇な人たちだ。リスティアは今、婚約解消に向けた作戦と、趣味の錬金術の習得と、学業と次期王太子妃教育の課題――今回は二回目なのでかなり手抜きをしているが――で忙しい。
それに、だ。
ある考えがあって、リスティアは薬草の調合についても学ぶことにした。錬金術のうちの、一つの分野だ。これまでは時間がなくて手が出せなかった。ちなみに錬金術のもう一つの分野、魔道具作成の方は前々から足を突っ込んでずぶずぶに浸っているくらいには、リスティアは知識を習得している。
必然的にそれらの置いてある棚に近い、その席に座ることが多い。図書棟の奥まったその机に行けば、ノエルとアルバートに会えた。
(僕にだって友人が出来たんだ。一人だって寂しくない)
ノエルとアルバートは単に人気の少ないのを気に入っているようだったが、そこにリスティアが加わる事を歓迎した。
彼らは噂が広まる前も後も変わらず、リスティアに穏やかに話しかけてくれて、随分と打ち解けた。同情しているのか、何か腹に抱えているのか分からなくとも、二人は優しい。それが全て。
「ノエル。申し訳ないけれど、脚立を持っていてくれるかな」
「もちろんです。タイトルが分かればお取りしますよ?」
「ありがとう、でも見てみないと分からなくて」
ノエルの背は高い。オメガでもリスティアは割と身長はある方だが、ノエルとは頭ひとつ違う。アルバートはそのノエルよりさらに上背があるが、本の場所には詳しくなかった。
脚立に登り、錬金術関連の書籍の並べられた棚を丹念に見ていく。リスティアはとある本を探していた。
真っ黒で、金の装飾が蔦のように這っている、分厚く大きな本。タイトルは無く、異質な雰囲気があった。
前回は高いところに見えて、すぐさま手に取ろうとして脚立を取りに行っている間に、見失ってしまったのだ。
見間違いか。それとも、何らかの魔術の込められた本か。
魔道具好きのリスティアの好奇心を、くすぐるのに十分だった。
「あっ……」
「ありましたか?」
「っ、捕まえた!」
ガシッ!
リスティアは瞬きをする前に背表紙を掴む!
『キュウ』と音がしたような気もするが、それどころではない――――体勢を崩して、脚立から落ちそうになっていた。
「っ!?」
咄嗟に受け身を取ろうとしたが――一向に、痛みはやってこない。
ぼすっ
(……ぼすっ?)
恐る恐る目を開けると、ノエルに抱き止められていた。
目の前に美麗な顔。余裕そうな微笑みを向けられている。
「あっ……ご、ごめん!」
「いいえ。お怪我は?」
「ないよ!ありがとう、ノエル……」
「とても軽くていらっしゃいますから、全く問題ありませんでしたよ」
そっと小鳥でも放すように、床に足を付けさせてくれる。あんまり優しい手つきに、リスティアは逆に恥ずかしくなってしまった。
(意外と、筋肉質なんだ……、って、何を考えているんだ僕は!)
「ぼ、僕だって男だ、しっかりしているはずだよ。身長だってほら、あれ……」
「はい、そうですね」
さらりと肯定するノエルの顔には、『微笑ましい』とでも書いてあるようで、リスティアは膨れるフリをして顔を背けた。
すぐに離れたあの体温。心落ち着ける深林のフェロモン。
忘れようとすればするほど、一層強く記憶に刻まれるようだった。
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