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第二章 二回目の学園生活
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しおりを挟むリスティアが必死に掴んだ本は、やはり魔術がふんだんにかけられ、特定の者にしか見えない上に、簡単には開けられないよう仕掛けが施されていた。
宝箱を慎重に開ける斥候のように、リスティアは開錠するのに嬉々として集中した。
こういった繊細緻密な作業は、大得意である。
魔力を針のように、細く、細く尖らせて、触れてはいけない迷路の中心を、小人になった気持ちで潜り抜けていく。
小一時間程で開けられた際には、『もっとやりたかった』とがっかりさえしたが、そんな不満は一瞬で吹き飛んだ。
本を開いた瞬間、ポンッ!と――毛玉が飛び出してきたのだ。
「わっ!?」
思わずキャッチすると、それは『キュッ!』と悲鳴を上げた。生温かく、異様にふわふわした毛玉。リスティアの指と指の隙間から、真っ白の毛がもふもふとはみ出している。
「な、何これ……」
「リスティア様、どうかされましたか?」
「え、本に生き物が挟まっていたみたいで……」
「…………私には何も見えませんが……リスティア様が言うのなら、あなただけに見えるのでしょうか」
ノエルの目の前で手のひらを広げたが、首を傾げていた。どうやら、ノエルの言った通り、リスティアにしか見えない生き物のようだった。
『キュウキュウ』と鳴いて懐いてくる毛玉には、口も鼻も、耳も無い。全く見たことのない生物に驚き観察していたリスティアは、それに『チェチェ』と名付けた。桜桃をもじった名前は、リスティアの、『ペットの名前は畳語であるべきだ』という謎の信念の元決められた。
チェチェはどうやらリスティアの鎖骨のあたりを気に入ったらしい。
ふわふわかつ温かな感触を楽しみながら、ようやく本命の、書物を読むことにした。
辞典並に重量のある、古い書物。
開いた最初のページには、かの大錬金術師が書き、世界中の学園に一冊ずつ寄贈したもので、開けた人間の所有物になる、と書かれていた。
飛び出してきたあれは『人工精霊』で――ここでリスティアは小さく悲鳴を上げた、魔道具作りの極地に至った人間でなければ作れないだろう――開けた人間の魔力を吸って成長する、と。
人工精霊は、錬金術に相応しい純度の高い魔力程、成長するのが速いこと。それから、大錬金術師の本を収納し、いつでも召喚してくれるらしい。
錬金術の基本である魔道具の作成、丸薬の調合、薬草の育て方……、ページは捲っても捲っても、終わりのページまで辿り着けない。ページ毎に興味深い仕掛けがあり、リスティアはこれ以上なく興奮し、魅入られたように没頭した。
リスティアが錬金術を嗜むのには、訳がある。
人の魔力には生まれつき、何かしらの属性がついているのだが、リスティアの魔力には属性が無い。『無』だ。
特殊な水晶に触れると、縞模様のように、その人物の属性の色で混ざり合う。
『火(赤)・水(青)・土(黄)・風(緑)・光(白)・闇(黒)・無(無)』という7つの属性のうち、二つか三つの属性を示す事が多いが、リスティアの場合は何ら変わり映えもせず、ただ魔力に反応しぼんやりと光るだけだった。
魔術を行使するには、使いたい魔術の属性魔力を消費する。もし火と水の属性のある人間が、光の魔術を使いたい時は、火か水の属性を、一旦無属性に変換、それからさらに光属性に変換しなければならない。
属性変換には時間と、魔力も消費する。
そのため、生まれ持った属性の魔術を鍛錬するのが一般的だ。わざわざ別属性を鍛錬しても、生まれつきの属性の魔術ほどに威力が出ないからだ。
リスティアは無属性魔力だけしか持たないものの、錬金術の分野においては、それが良い方向に作用する。その為、リスティアはこと錬金術においては無限の可能性を感じているのだった。
今日もいつものように、ノエルとアルバートと同じ卓に集まる。興味が尽きることなく湧いてくる、大錬金術師の本に静かに夢中になっていると。
「……リスティア様は、あれは、……どうもしないのですか」
ぽつり、と話しかけられて、のろのろと顔を上げる。
ノエルが神妙な顔をして、窓の外の方を示していた。
マルセルクは、相も変わらずフィルが悦ぶのを楽しそうに眺めている。その顔は悪戯好きな少年のように、幼く見えた。
好きな人が喜んでいるなら、自分以外が触れていてもいいのだろうか。リスティアには他の男を近付けさせないくせに。
全く扱いが違うのは、処女が必要だからか。……彼の考えはまるで理解できそうになかった。
「どう、とは……」
「このまま、フィル・シューを愛妾に召し上げて婚姻するのですか」
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