虚構の愛は、蕾のオメガに届かない

カシナシ

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第三章 三人の卒業、未来へ

12 フィル・シュー side

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 ――――――――フィル・シュー side


 卒業記念パーティーの少し前には、ぼくはウキウキと未来を思い描いていたんだ。

 マルには、リスティアを拉致する協力をする代わりに、こっそり側近そのいちの元に保護してもらうよう、城から抜け出す手筈を整えて貰った。

 ぼくの容姿は目立つから、皆んなの注目を集めるのは簡単だった。ぼくの事を嫌っているリスティアをおちょくって怒らせれば、必ず醜態を晒すと思ったのに、なかなか耐えている。

 ぷふふぅっ!面白ぉ。絶対苛々しているだろうに、ね!

 もちろんリスティアをそのままマルに渡す気は無かった。

 側近そのいち(騎士団長令息)はリスティアの近くにいるアルファが嫌いらしく、簡単に破落戸を雇ってくれる。『あいつより上だって証明してやる』とか言ってたけど、これで上になったことになるのかどうか、ぼくには分からないし興味もなかった。

 側近そのに(宰相令息)はどうしてもマルを王太子にしたいらしい。でないと側近になった意味がないとかなんとか。だからリスティアを殺すことは言わないでおいた。とにかくリスティアが後宮に来てくれさえすれば何とかなるってブツブツ呟いてて、気持ち悪かった。

 ぼく?

 ぼくの目的は、あのきれいな顔を、酷く歪ませたい。ぼくに負けて悔しいって顔を見たら、身体をぐちゃぐちゃに犯させて、切り刻むんだ。だって一番綺麗な花紋持ちオメガは、ぼくだもの。
 リスティアもだけど、マルだって幸せにはしてやらない。ぼくを道具のように扱った罪は重い。

 ボロボロの死体をマルが見つけた時には、ぼくと側近そのいちはもう逃げている。あの赤頭はそれなりに腕は立つし、ぼくの護衛騎士になりたいって言う。隣国のどこかでまた男を取っ替え引っ替えするのに、護衛は必要だものね。
 一応ぼくは後宮に引っ込んでいる設定だから、追手をかけられることも出来ない。その筈だった。


 ――――なに、それ?なんでそんなの持ってるの?


 結界の魔道具を持ってるなんて。それって、お城の宝物庫にあるようなやつじゃない?ズルいよ、盗品?

 苛立って、マルに死を望まれてる、なんて適当な嘘を吹き込めば、顔色が変わったのはそこそこ面白かった。けど、ちがう、早く割らないと!

 プライドの高いリスティアが、あんな下品な男たちに嬲られるなんて耐えられないだろうなぁ。そんなことになるくらいなら潔く自分で死にそうだけど、もしそうなっても構わない。死体だって裸に剥いて甚振ってやるよう、話はついているもの。



 けれどそれは時間切れで、かなわなかった。その後の事はもう、思い出したく無い。

 一つ言えるのは、ぼくは大好きだった蜜が大嫌いになり、嫌いだった虫が失神するほど大嫌いになったこと。……ウエッ。










 一般牢に押し込まれて、ぼくは苛立っていた。ごはんも着るものも見窄らしくてサイアクなのに、誰も会いに来ない。

 看守が言うには、ぼくの脱走を幇助しそうな人間が多々いるため面会できないようになっているらしい。ウンウン、それは分かる。ぼくを助けたいよね?
 だったらさぁ、何度もめげずに会いに来るべきでしょう?何諦めてんの?はやく抱いてよ、誰でもいいから!


 そう思っていると、足音が聞こえてきて。
 誰かと思えば、……リスティア!

 一番見たくない顔が来るってどうなのさ。その両脇にめちゃくちゃいい匂いのするアルファを二人も連れてきて、欲しくて欲しくて涎すら出そう。なんならちょっと濡れた。

 でも、その二人が近づいて来ると、分かった。リスティアのオメガのフェロモンがべったりと付いていたのだ。なんで?

 アルファは普通、オメガのフェロモンを付けたがらない。香水をぶっかけられるようなものだ。なのに二人はむしろ、誇らしげにリスティアのフェロモンを纏っていて……、何なの、気持ち悪い。

 ぼくの性欲が、ちょっと引っ込んだ時だ。


 あいつ、何て言ったと思う?


『嫌いじゃない』

『遊べなくなる』

『可哀想』

『子猫』


 ……ハァ?はぁぁぁぁぁぁ!?


 むかつく!むかつく!むかつく!!

 何回殺したって殺し足りない!

 ぼくの大嫌いな涼しい顔で、ぼくの与えてやった恐怖も、まるで『何事もなかった』みたいに。綺麗さっぱり忘れたみたいに笑って。

 他人の幸せを奪うって?まさか!だってぼくはいつも幸せで、愛されているんだもの!あいつなんかの言うような可哀想な人間じゃない!

 怒りの余りに暴れまくって看守に鎮静剤を打たれて、やっと目が覚めた時にはリスティアは消えていた。
 もっと罵ってやりたくとも、もうやつは来ないらしい。








 その後ぼくは、とっても元気な男児を出産した。
 予感はしていたけど、やっぱり調べるまでもなく、王族の色を宿した赤子だった。

 マルセルクと同じ、金髪碧眼の赤子。ぼくに似ている所は殆どなく、利発そうな額と、アルファを予感させる体格の良さで……、あまり、愛着が湧かなかった。誰の子って感じ。

 オメガならそりゃあちょっとはかわいいかもしれないけど、アルファならどこでも生きていけるもの。


 エルウィンと名付けられた赤子はすぐにぼくから引き離されて、離宮で大事に大事に育てられることとなった。









「国外追放って、案外楽チンだね?」

「ははっ、それは、俺たちがついているからだろう?フィル」


 ぼくは楽しく旅をしていた。リスティア程度を襲わせた罪とかなんちゃらで国外追放をされたけど、ぼくの監視人とか言う男アルファはすっかりぼくの虜になっていた。すごくない?監視人ですら、この魅力の前に陥落するんだ。

 そのアルファに任せておけば、ちょっといい馬車に乗せて貰ったし、初めて船にも乗った。護衛もたくさん付けた状態で、安心安全のまま、隣国に入れた。ただの旅行気分だ。快適!


「でぇ、アドラーのおうちはどこなの~?」

「もうすぐだよ、お姫さん。君の大好きなものをいっぱい用意しているからね」

「えぇ~、本当?楽しみぃ~!」


 アドラーは色気のある経験豊富なアルファで、ちょっと影のある感じがすごく好み。
 それに優しいし、技術は言わずもがな、最高。

 その逞しい腕にくっついて馬車に揺られていると、ついに、止まった。どうやらぼくたちのお城に着いたみたい。

 そして外へ出て……絶句した。


「これって……」

「どうした?綺麗だろう?俺の城だ」


 やたら派手派手しい装飾。下品な赤に染められた幕が垂れ下がって……娼館じゃないか!

 逃げようとするぼくはあっという間に捕まって、男娼として働くことになってしまった。

 それに悪どいことに、どれだけ売り上げても自分の衣装代、化粧代、部屋代、食事代とか言って、アドラーに吸い取られていく。アドラーは、ただのアルファじゃなかった。娼館を数店舗も経営する館主だったんだ。それは技術を持っている訳だ。


 娼館を利用する多くの男は、太っていたり、下手くそだったり、不細工だったり、臭かったり……。しかも最悪な事に、お金もあまり持っていない。端金で、ぼくを抱きにやってくる。

 最悪だ。ぼくはセックスは好きでも、格好いい人にしか身体を触らせたくないのに。


「なあに、すぐに気にならなくなる」

「どうして?こんなに気持ち悪いのに」

「先輩たちを見てみろ?」


 アドラーに言われて、同じ娼館で働く男娼たちを眺めると……、段々、精液さえ貰えればなんでもいい、って思うようになるらしい。なんで?


 でも、一日に何人にも抱かれているうちに、分かってくる。

 精液によって満たされているような気分になるんだ。
 ぼくの月下美人は、爛々と咲き誇っている。ほら、見て。こんなに艶やかな花紋、見たことある?

 そうだよ、ぼくは、たくさんの人に愛されたかったんだ。
 愛は精液。精液は愛。
 成り上がりたかったのも、自分を飾り付けて綺麗にして、最終的に、いい男に愛されたかったから。

 でも、身分が上って、大概面倒臭いんだと分かった。

 今の僕は、ひらひらの綺麗な衣装で着飾り、薄く化粧もされて、たくさんの男に抱かれている。勉強も頑張ることも何一つない。金という分かりやすい対価を貰って、身体を与えてやるだけ。

 気持ちいいし、何も考えなくていい。……えへへ、もしかして、ぼくの天職かもっ?












 ――――――フィルは犯罪者専用の娼館に送られた。

 男娼・娼婦、皆犯罪者。近くに鉱山や工場などを兼ね備えており、客は無限にいる。
 もちろん犯罪者のいない娼館も多く立ち並んでいるが、その壮大な色街はぐるりと河川で囲まれた飛地にあるため、脱走はまず不可能。


 その手配をしたのは、ノエルとアルバートと、薬師団長も一枚噛んでいた。
 絶対に逃げられないようフィルを大人しくさせるために、国外追放という名目にしたり、娼館館主によっていい気分にさせたり(商品としての見極めも兼ねて)、行く先を予感させないためのそこそこの馬車を用意させたり。

 フィルはまんまと二人の思惑通り、無事迅速に収容され、その後の経過観察は、薬師団長に報告されて研究に役立てられた。


 完全に適合したフィルは、脱走することもなく、模範的な態度で刑をこなす。花紋持ちオメガを抱きたい客は尽きることは無い。大抵は貧乏人なため、一度や二度抱いて満足する。

 ××年後、容姿が衰え人気の落ちたフィルはもう、思考する能力を失っていた。いくら身体を交えても満足出来なくなり、客に目を抉られ、縛られ、汚物を突っ込まれてもひたすら精液を望む。自慢の花紋が黒ずみ、腐り落ちていったのにも気付かずに、ある日突然――――



 ――――そんなことは、今のフィルはまだ何も知らない。ただただ頭を空っぽにして、快楽に耽り続けていた。



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