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第二章 二回目の学園生活
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しおりを挟むリスティアの元へ薬師団長から手紙が届いた頃には、もう第三学年も残りわずかとなっていた。
兎にも角にも、まずはフィルと関係を持っていた令息たちの魔力について調べることにしたらしい。
その中で、あまり経験のないという男娼や娼婦に協力してもらい、魔力交換(唾液媒体による)をした所、実に半数の令息で、異常な拒否反応を起こした。
その協力者には、ぜひ多めに心付けをあげて欲しいと思った。あれは本当に辛い。
該当の令息たちの中には、マルセルクと、騎士団長令息も含まれていた。意外と宰相令息はそうではなかったらしい。
(まぁ、ミカにはもう関係のないことか……、新しい婚約者と幸せらしいから)
拒否反応を起こされた令息達は、見事に、フィルと頻繁に性行為を行っていた者と一致した。
既に婚約を破棄されている組が多かったものの、まだ継続中の所もあり、薬師団長が『魔力の質の相性を見る為、交換をしてみる必要がある』と通達。その後、何があったのかは不明だが、全員の婚約が解消となった。
(……ふぅ。これなら、僕と同じように苦しむ人はいなくなった、かな)
あくまで、フィルに関してだけだが、それでもリスティアはホッとした。
残念なことに、魔力の質を計るものは無い。全て相対的、感覚的なものだからだ。
そのため現状それ以上のことは分からず、娼館からの情報集めをしているということ。しかしやはり、病となると都合の悪い娼館から警戒され、情報を出し渋られているらしい。
返信として、リスティアの話を聞いてくれた館主を、薬師団長に教えることにした。彼女ならあっけらかんと教えてくれるだろうし、『色狂い』状態の娼婦が多くいることだろう。
フィルはもう保護――――隔離されているため、令息達は期間を空けて再検査し、拒否反応があるかどうかを試すようだ。その間、他人との性行為は禁止して。
まだ禁止してから数日しか経っていないのに、令息達は性欲を持て余しているらしい。それはもともとの資質なのか、フィルの影響なのかはまだ不明、とのこと。
薬師団長は『殿下が復縁を狙っているようですが、魔力交換をするのはどうでしょうか。諦めざるを得ない理由ですよ』と書いてあったが、リスティアは考えただけで悍ましかった。
言葉は悪いが汚泥を喰らうような行為にしか思えない。フィルの成分をマルセルクを通じて取り込むイメージがついてしまっているので、断固として拒否をする。
(ノエルとアルなら、むしろ、欲しいくらいなのに)
そう二人の顔を思い描き、瞬く間に赤面したリスティアは、チェチェのふわふわな頭を撫で回すのに集中する。目の前にいないのにドキドキさせられるなんて、恋、以外の何物でもなかった。
二人に対して『欲しい』と思っている自分ははしたなく思えてしまう。リスティアはふと気付けば二人のことを考え、また、目で追っていることに気付いた。
講義が始まる前の、早朝。
いつもは一人で素振りをする所、ノエルと共に魔術専用訓練場に来ていた。
アルバートは別の部屋で。彼に見られていたなど恥ずかしい。リスティアの剣術は本当に体力作りのための、拙いものでしかないから。
「私も剣術は得意でないので分かりますよ。剣より槍の方がまだマシですね」
「槍……!格好いいだろうねぇ……」
リスティアがノエルを見ながら言うと、ノエルは目に見えて頬を紅潮させた。か、可愛い。
二人きりの訓練場に、リスティアの剣を振る音、荒い息が響く。ノエルは瞑想し、様々な属性の魔力を同時に操作する技術訓練をこなしている。
しばらくすると二人とも汗だくとなった。リスティアが布巾で顔を拭っていると、ノエルがぼうっとしているのに気付く。
「……?ノエル?」
「はっ……、いえ、リスティア……」
ふらふらと近付いてくるノエルに、リスティアはきょとんと小首を傾げた。瞑想をし過ぎると、遠近感が狂うことがあると聞く。リスティアはそれ程までに瞑想をしたことは無いので分からない。
銀髪はリスティアの頬に張り付き、白い肌が赤く上気していた。息を整えようとして『はぁっ』と吐くいた息に、ノエルは目を逸らせなかった。
びっしょりと汗をかいているのに構わず、ノエルはリスティアを引き寄せる。ぴったりと張り付いた布と、身体と、身体。
「えっ?ノエル、汗が……」
「もう、我慢、出来ません、……いい、ですか?」
ノエルも汗を滴らせ、壮絶な色気を醸していた。慎重すぎるほど慎重に、親指がリスティアの頬にかかり、それから唇へと、そうっと触れる。
(今、欲しい。食べられたい……)
僅かに頷く。リスティアの頭の中は、煩悩で一杯だった。場所も、初めてということも、全く気にならない。
その途端に、柔らかな感触が唇に押し当てられていた。
(やわ、らか……、ど、どうすれば……)
ふに、ふに。
唇の柔らかさを見せつけ合うような口付け。しっとりと湿った唇と唇だ。ノエルの森林の爽やかなフェロモンも漂い、夢見心地になる。
ぺろりと唇を舐められてビクつくと、くすりと微笑まれた。
(あ……くらくらする……)
動悸と眩暈。酸欠も相まって、リスティアは崩れ落ちそうになるのをノエルに支えられていた。
「あっ……すみません……あまりにリスティアが色っぽくて……」
「それは、こっちの……言葉、だよ」
息も絶え絶えなリスティアに、ノエルは照れと嬉しさの混じった幸せな笑みを見せ、更なる胸の締め付けを齎したのだった。
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