虚構の愛は、蕾のオメガに届かない

カシナシ

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第二章 二回目の学園生活

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「……けがらわしい……」


 2階の窓から、マルセルクたちの様子が丸見えだった。
 裏庭に面したこの図書棟からは、良く見える。

 フィルはベンチに座ったマルセルクの上にまたがり、上下に腰を揺らしている。服は着ているものの、多分前は開け放っているのだろう、その胸に顔を寄せたマルセルクがいる。その周りを令息達が十人以上で囲って、フィルに口付けたり、腰のあたりを触らせたりしていた。

 裏庭の手入れはあまりされていない。地上から見れば、生い茂った植え込みの影になっているのだろう。それほどに堂々とした、秘密の遊び。

 マルセルクは、悪戯を楽しむ少年のような、見たこともない生き生きした顔をしていた。リスティアに向ける、しっとりと落ち着いた色っぽい顔とは全く違う。

 あれが、本当の愛しい人に向ける顔なのか。リスティアは思わず鼻に皺を寄せた。


「…………」

「おや、珍しいですね。イレニアス様」


 リスティアがふっと視線をずらすと、穏やかに微笑む美人と、野生味のある美形とがいた。

 美人の方は魔術師団長の三番目の令息。ノエル・キールズ侯爵令息。
 やや淡白な色の金髪を一つに括り、黄色みの強い新緑の瞳でこちらを見つめている。

 そういえば、と記憶を探る。彼はとてつもなく優秀で、幼少期からマルセルクの側近だったのに、いつ頃からか『辞めた』と聞いた。

 彼はアルファだ。リスティアは昔、一度挨拶をしたきり殆ど関わりはない。というよりは、マルセルクが関わらせなかった。


 もう一人の美形は、アルバート・ウィンドム辺境伯爵令息。たしか、五番目の。
 非常に剣の腕が立つと評判で、黒髪といぶし銀のような瞳が、恐ろしくも美しい。異常に無口で、リスティアは彼が話している所を見たことがなかった。

 よくノエルと一緒に行動をしているので、婚約者なのかもしれない。……どちらも高身長アルファとしても、爵位を継がない二人なら、無くはない組み合わせだった。

 リスティアはすぐに、他所よそ行きの笑顔を浮かべた。


「キールズ様とウィンドム様。自習ですか?」

「はい。私たちはいつもここで。……イレニアス様は、あまりこちらに来られないので驚いてしまいました」


 ノエルのふわりとした穏やかな微笑みに、リスティアはほっとした。強張っていた体から力が抜けていく。

 そこで、自分がピリピリしていたことに気付いた。窓の外の異様な光景に、息を止めていた。


「キールズ様たちのお席でしたか、すみません。私はいつも自室で学習するのですが、何となく落ち着かず……」


 リスティアは慌てて席を立つ……必要もなく、ノエルに『どうぞいて下さい』と制される。


「ああ……あれはまた、ご自由にされていらっしゃいますね」


 チラリと目を向けられて、釣られて窓の外を見やった。

 フィルは今度は騎士団長令息の上に乗って、臀部を押し付けていた。それをマルセルクは、下卑た笑顔で見守っている。
 見るに耐えない婚約者の姿に、リスティアは目を逸らしてノエルの美麗な顔を眺めることにした。その方が視界に優しい。


「…………あれは、前から?」

「ここ最近、でしょうか。数日前から見かけるようになりました。まるでここなら安心、と言わんばかりですね」


 ノエルに問い掛ければ、想定以上の答えが返ってきた。

 “ここ最近” “ここなら安心”

 つまり、マルセルクが『フィルに近寄らないよう言っておく』、と言った日が起点だ。

 確かに近寄られなくなったが、マルセルクの姿も見かけなくなった。別に不思議にも思ってなかった。もう、リスティアはマルセルクの後ろを追いかける雛ではない。

(それが……、裏庭での逢瀬になったのか)

 リスティアの行動は殆ど毎日変わりなく、この図書棟に寄ることはあまり無かった。必要なものは、寮にいる使用人に申しつければ持ってきてもらえる。

 その為に、マルセルクがリスティアにつけていた。今思えば、監視の役割もあったかもしれない。

 言葉が口をついて溢れる。


「ああ……僕は部屋に篭っていると思って……あんなに堂々としているのか」

「…………イレニアス様が『僕』、と言うと、可愛らしいですね」


 リスティアの呟きは聞かれていたらしい。ノエルを見ると、面白いものを見つけたように、くすくすと笑っていた。
 アルバートは、静かに口を閉じていた。



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