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本編

24 アレアリア/レギアスside

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 王都の状況は悪化の一途を辿っていた。

 もはや王族でも贅沢どころか節制せざるを得ないほどに資産は減り、行政は滞り、人々はウィンストンのある南へ向かって流出していく。暴徒が街を荒らしても、抑えるべき騎士は数を減らしていたため、自己保身に走った王族により殆ど王城につけられて、無法地帯となっていた。

 もちろん、アレアリアの望む豪奢なドレスなど、商人が逃げて買い物も出来ないし、そもそも、ドレスが必要な茶会や夜会も開けない。その前に、アレアリアの実家であるエッラ男爵家は、資産家であることから真っ先に暴徒に狙われ、全てを奪われていた。
 その全てに、アレアリアは憤慨していた。

「どうして、やっとここまできてこうなるの!?予算無い無いって言うけどあたしがドレス着なくて誰が着るの!誰かに献上させなさいよ!」

 自室で暴れるアレアリアは、手当たり次第投げつけていく。陶器やガラスの置物が数少ない侍女サリーたちへ当たり、泣きながら避難していった。
 もう実家のなくなったことなど知らないアレアリアは、後ろ盾を持たない。後ろ盾がないということは文句を言えないのだが、今の王城に、呑気にアレアリアを虐める余裕のある者などいなかった。

 そのためアレアリアは養父や養母の心配など一切せずに、自分の使える資金が無いことばかりを考えていた。当然、シオンにも嫌がらせをしたいのに、子飼いの者も散ってしまって状況すら把握できていない。



 ーーーーそれもこれも、シオンのせい。シオンが働いてお金を用意してくれないからだし、シオンが、王都の治安を悪くしたから。

「ああん、もう、レギアスさまったら何をやっているの!?はやくシオンを何とかしてもらわないと!」







 ーーーーーーーーーーーーレギアスside



「アレアリアは、何をしているんだ……」

 レギアスはため息を吐き、侍従からの報告を聞いていた。

 アレアリアの提案は、良いことのように思えた。しかし娼婦や男娼————元は労役として献上させた村人だが、レギアスはそう呼んでいた————たちは虚弱で、貴族令息らはますます凶暴化している。レギアスもまた、シオンに咥えさせた以上の興奮を得ることは叶わず、結果として見栄えだけはいいアレアリアだけを抱いていた。

 有力な貴族令息らの支持は集まったが、それ以外の優秀な————レギアスに言わせれば軟弱な————者は、軒並み領地へと引きこもり、暴徒が入れないように境界線を懸命に封鎖しているらしい。
 召喚状をいくつも用意しても、途中で野盗に襲われたか、任務も遂行出来ない無能になったのか、届かない。つまり、兵も資金の援助も見込めない。



 仕方なく増税するしかなかった。そうして人材は流出する、その繰り返し。



 王城の予算そのものが底を尽きたのに、アレアリアはいかにドレスが重要で、なくてはならないものだと強請るだけ。王子妃教育はどうなったのかと聞けば、家庭教師は『もう言うことはないです』と去っていったという。


 やっと習得したのかとほっとしたのも束の間、蓋を開けてみれば、アレアリア付きの侍女がちょっぴり賢くなっただけで、アレアリア自体の品位もなにもあったものじゃない。

 本来はそれでも問題にならないはずだった。何故なら、シオンがいれば、事足りたのだから。

 どさっ。
 レギアスは大量の書類を床へ投げ捨て、侍従へ宣言した。

「遠征の準備をするぞ。王都を脱出する。場合によっては、もう戻らないかもしれない」
「……はい?」
「ここはもうだめだ。ウィンストンを乗っ取り、そこを王都とする」

 侍従は思いっきり呆れ顔をしたが、レギアスは手元を見ていたため、気付かなかった。













 遠征に足手まといな国王と王妃は置いて、レギアスはアレアリアと騎士団員を連れて王城を旅立つ。
 これから新しい都を作ると思いついて、レギアスはすっかり浮かれていた。レギアスの天下に、父と母は不要。遷都が落ち着けば迎え、遠くのどこかに別荘を建てて入れてやればいいか、と考えていた。

「もう、お尻がいったぁぁいっ!レギアスさま、本当にこの馬車で合っていますぅ?前は、こんなに揺れなかったですよね?」
「仕方ない。今はボロ馬車を使わないと、金があると見做されて襲われるんだ」

「ええ~っ、そうなんですかぁ?だから、こんなに町娘みたいな……かわいくない服を着せたんです?」
「そうだ。お前の安全を思ってのことだ。我慢しろ」
「……はあいっ!」

 アレアリアはレギアスと一緒の時だけは殊勝だが、レギアスが席を外すと、簡素すぎる旅に不平不満を言いまくった。

「信じられない!ボロい馬車、ボロい服、ショボいご飯に冴えない騎士。実家(※もう無い)にいた方がまだマシよ!なによこれ!」
「これが、手に入れられる最良の食事です」

 ぶっきらぼうに答えたのは、既にシオンの支配下にいる騎士の一人。アレアリアの担当となってから激痩せしていた。時に花瓶や椅子なども投げつけられる、過酷な職場。ウィンストンに着くまでの辛抱だ、と言い聞かせて耐える。

「そんなわけないでしょ?こんな、具が少し浮いたようなスープと硬いパン!それになにこの萎びた果物は!レギアス様は何をなさっているの?あたしを放って!」
「……もうすぐ参られると思います。湯浴みの準備は済んでおりますので」
「早く出ていって!」

 言われるまでもなく、騎士は扉に吸い込まれるようにして立ち去った。
 確かに騎士の容貌は派手ではないが、相手に困ったことはない程度にモテている。そんな彼は全くもって、アレアリアを性的対象には見れないので、『安心しろ、興味がない』と言いたい所。

 アレアリアは、ろくに手入れされなくなり、食事も質が悪くなったことで、荒地のような肌を化粧で誤魔化していた。
 髪は油分が多すぎてテカテカし、背中には吹き出物が多数出来ている。

 それでもレギアスを満足させられるのは、アレアリアしかいない。この旅で宿に泊まれる時は同衾した。その前に時間を置くのは、素のアレアリアを直視したくないがために、化粧を終えるのを待っているからだ。


 その行為は到底愛によるものとは言えない、『処理』に近い雑な行為だったが、アレアリアは気付かない。

「必ず……必ず、手に入れる。待っていろ、シオンめ……」

 そうレギアスがぶつぶつと呟くのを、何人もの騎士たちが聞いていた。

 苦痛そのものの旅も、目的があれば耐えられる。
 ウィンストン領は、まだまだ遠い。



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