僕は人畜無害の男爵子息なので、放っておいてもらっていいですか

カシナシ

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番外編(と言いつつ番号順)

66 マリーベル・スザク(1)

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 マリーベル・スザク姫は、スザク王国出身のおっとりとした、けれど芯のある女性オメガのお姫様だ。

 アレキウス殿下とあっという間に婚約をしたマリーベル姫が留学してきて、学園の女生徒たちは嫉妬を仮面の下にも隠しきれないでいた。

 ……まったく。マリーベル姫の美貌や教養、そして後ろ盾の強さを超えられないとわかっているから、彼女たちは睨むしかできないのだ。

 僕ともお友だちとなってくれたマリーベル姫は、本当に素敵なお姫様で、アレキウス様とも徐々に愛を育んでいる。その二人の様子は本当にほっこりする心温まる情景で、素敵だなぁと思っていた。


 そんなある日、アレキウス様に呼び出されたので、僕とグレイはのこのこと顔を出しに行くと。


「心配だ。過激派のやつらにマリーベルが狙われている。何をされるのか」

「えっ……狙われて、?」

「ああ。不穏な動きがある。マリーベルの身辺を探っている奴らがいる。それも、複数」


 それは大変だ……っ!

 僕はそういった陰謀を暴くとかに協力出来るほど賢くもないし、対処したことがあるわけでもないのだけど、マリーベル姫が狙われている時に、呑気になんてしていられない。


「何か、お役に立てることがあればいいのですが……」

「その言葉を待っていたよ、ロローツィア」

「……アレキウス。何を企んでいる」


 にっこりと完璧な微笑みを浮かべたアレキウス様を見たら、どうやら僕の役割は既に決められていたらしい。一体、何をしたらいいのだろう。


「君には、マリーベルの代わりにとある馬車に乗って移動して欲しい。おそらく、襲撃されるだろうが、君は強い。グレイも護衛として参加してもらう。そこをズドンと捕縛だ」

「ロローツィアを、囮に?アレキウス、それはむ……」

「『強い』……っ、はい!僕、やります!強いので!」

「…………」


 グレイからジト目を向けられているような気がするけど、もう僕、やる気満々だ。マリーベル姫は生粋のお姫様だから、扇以上に重たいものなんて持ったことが無いらしいし、襲撃なんて怖い目に遭わせたら可哀想だ。僕なら、仮に怪我をしたって聖者だし、魔物討伐経験は結構ある。怖いものには耐性がある方だ!


 どん!と胸を叩く勢いで気前よく引き受けた僕だったが、後日、作戦の詳細を聞いてのけ反った。


「ほら、ロローツィアちゃん、上向いて。あんっ、可愛いっ!すごく良いわっ!あーん、誰か絵師を呼んで……」

「だっ、だめだめだめですっ!僕、恥ずかしくて死んでしまいますっ!」


 “練習”と言って、マリーベル姫の専属侍女さんに衣裳室へ連れ込まれ、剥かれて、ふわふわの何かを被せられたと思ったら椅子に固定されて、化粧をされて。

 僕、マリーベル姫の仮装をさせられているのだ……。


「可愛いんだものっ!むしろわたしよりなんだか色気?何かしら、わたしでも何かアブナイ気持ちになるわ、何故?わたしの体型と近いのに、理不尽だわ!」

「うう……、は、恥ずかしい……」


 僕が恥ずかしさのあまり涙目になっているところに、近衛騎士の制服を来たグレイがきた。


「うわっ……」


 格好良すぎない!?グレイは僕の護衛として側についていてくれる予定なんだけど、逆に目立っちゃわない?あ、近衛騎士には顔を隠す装備もついているんだね、なるほど。

 それにしても、このバージョンのグレイってだけでご飯三杯いけちゃう。こちらはぜひとも絵師さんにお願いしたい。それは別として、僕もそっちが良かったな……。

 マリーベル姫が言った通り、僕とマリーベル姫の身長はほとんど同じで、体型も細身。さすがに腕や足は筋肉質な僕だけど、マリーベル姫の好むドレスはどれもふわふわで覆われているから隠れちゃうし、胸も、マリーベル姫はすっきりと……おっと、なんでもない。とにかく、身代わりにピッタリらしい。ぐすん。


「ロローツィア、か?すごい、破壊力だな」

「うっ、あんまり、見ないで。早く脱ぎたい」

「それはいい。俺が脱がせようか」

「ちょっと、ここで何を始めようと言うのっ!グレイリヒト様はちょっと離れてくださいね。ロローツィアちゃんに女の子の仕草を教えなくっちゃいけないもの」

「……分かった」


 僕は死んだ目をしながら、淑女のしずしずとした歩き方や、馬車への乗り降りの仕草を学んだ。結構ドレスって、重い。普段のマリーベル姫が軽やかそうに見えるのは、実は結構すごいことなんだと知った。


「いいわ、その哀愁漂う表情も素敵よ!お顔はお帽子で隠れてしまうでしょうけど、常に微笑みを浮かべていてちょうだい」

「それなら、化粧をする意味は無かったのでは……」

「いいえっ!すれ違う時に女は化粧の匂いがするものです!それに、ロローツィアちゃんお肌すっごく綺麗だから、あんまり化粧してない方よ?羨ましいわ」

「そうなんですね……」

「それでも心配だわ。いざという時の鉄製コルセットに、薬師にも予防のお薬手配してもらって……」


 マリーベル姫はあれこれと指示を出しながら、僕には『これ、練習用にあげるわ』と一着のドレスを下賜してくれた。えっと。とっても素敵なドレスだけど、……もう何も言うまい。







 グレイと共に部屋に帰った僕は、たまげた。

 下賜してくれた箱を開けると、ドレスだけではなく、下着まで入っていたのだ。女の子の下着って、こんなに刺激的なの!?と、気絶する寸前だった。僕、至ってシンプルな下履きしか持ってないのに。

 黒いレースでヒモヒモしている、あんまりにも防御力の低い下着。多分、というか確実に新品のもので、ご丁寧なことに、多分男性の大事なものは覆えるようになっていた。て、ことは男性用!?

 僕はそれを、グレイに見つかる前にサッと隠したのだった。





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