僕は人畜無害の男爵子息なので、放っておいてもらっていいですか

カシナシ

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本編

50 エカテリーナ

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「ぎゃあああああああああっ!!」

「あと一割ってところか」

「痛いいぃぃい!やめてぇえ!!」


 無数の針で、全ての内蔵を滅多刺しされているような痛み。

 痛みに気を失い、痛みに起き、また気絶する。

 そんな苦しみが無限に続いたかと思えば、唐突に終わる。身体中から全てを垂れ流している。気持ち悪い。気持ち悪い……ッ!

 げぇげぇと吐いていると、無慈悲な声が降ってくる。


「殿下より、今の姿を見せるよう命令だ」

「ハッ」


 そんな声が聞こえてきて、視界にキラリとした輝きが入ってくる。何かしら、光るものは、大好き…………。

 よろよろと視線を向けた先にいたのは、ミイラのような老婆だった。あまりに醜さにヒッ!と声をあげて遠ざかろうとすると、老婆もまた同じ動きをした。……ウソ。


「な”に”よ”ごれ“ぇぇぇえええ!!」


 それは、わたくしだった。美貌も若さも跡形もない。いつの間にか額には“国家反逆罪”を示す刻印が黒々と焼き付けられていた。悲鳴を上げたくとも、先ほど絶叫したせいで喉は枯れ、大きく咳き込む。


「ゲホッ、ゴホッ、げほぉぉぉっ」

「次は移送だ。……臭いな。誰か【清浄】をかけてやれ」

「ハッ」


 そんなもの、わたくしだって使えるわ。そう思ってやろうとした時に、魔力が無くなっていることに気付く。魔力が。わたくしの、魔力が……っ!

 魔力がなければ、薬も作れない。作れなければ、わたくしがまたヒロインに返り咲くことも出来ない。……終わった。


 呆然したわたくしは、馬車のような箱に詰め込まれて向かった先。そこは、先ほどよりさらに汚れた、地下の監獄。こびりついた汚れは薬や埃や油、なにかの腐敗したものなどが混ざって、強烈な臭いを放っていた。

 眠るところは、冷たい牢屋の床。正面の牢屋には汚らしい男が住んでいて、わたくしを見て『ケッババアかよ』と言ったり、とても口には出せない下品な言葉で嘲笑ってきたり。見たこともない虫や鼠も堂々と入ってきて、隣の部屋からは、臭い、謎の液体が流れてくる。気が狂いそうなほど不愉快だった。


 その汚い牢屋の近くには、厳重な警備を施された別室があった。そこで、“真実を言っていない”として、わたくしはあらゆる拷問を受けたの。痛みと苦しみ、恥辱に耐えがたくて本当のことを言ったのに、『最初の言葉と違う』なんて言われて、拷問は終わらない。なんでよ!?


 言及は過去まで遡った。ロローツィア・マカロンの噂を流したこと、その噂を裏付けるよう男を手配したこと、劇薬を忍ばせたことまで。その時はわたくし、侯爵令嬢だったもの!身分差的に問題ないじゃない!?



 なんて言えたのは、一日目まで。



 来る日も来る日も、毎日新しい拷問。同じものならばまだしも未知の刑が永遠と続くことは、わたくしの精神を簡単に病ませた。


「いつっ!いつ、死ねるのおぉっっ!早く死にたいぃぃいい!」

「そりゃお前さん。聖者様が帰ってくるまでだ」


 その会話を何度したことか。


 早く死にたかった。死ねれば、また違う世界に転生出来るかもしれないもの。

 それなのに、死ぬことは許されない。嵌められた首輪は異常を察知すると、どこからか人がやってきてわたくしを無理やり助けた。


 臭くぬるぬるした流動食をちびちびと飲んでは、無意識に命を繋いでしまう。排泄物や汗の嫌な臭いの中、つぶやいた。


「はやく……帰って……きて……」


 わたくしは知っている。ロローツィアは溶けた。死んだのだ、生きているはず、ない。けれど、ヤツが戻って来ないと、この責苦は終わらない。

 ああ、なんてことなの!あれだけ憎かった相手を、生きていますように、戻ってきますようにと願うようになるなんて。


 早く、終わらせてちょうだい……。









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