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 シアの話をしてからと言ってから、ユージーンはしばらく黙ったままだった。
 2人はふとんのなかで裸で抱き合っている状態。ユージーンの震えはそのままシアに伝わってくる。シアはユージーンをぎゅう、と少し強く抱きしめなおした。

「シアくん?」
「あのさ、師匠。…もしかして、なんだけど」

 シアは困ったように笑う。

「俺、もうすぐ死ぬの?」
「!?」

 ユージーンが目を見開いて、シアを見て、その反応に「あたりだ」とシアは返す。

「なんで」
「師匠がさ、こんなに言い淀むってことは、生き死にのことじゃないかなっていう、勘」

 過ごした時間はすごく長いわけじゃない。
 それでも、シアはユージーンが好きで、尊敬していて、ずっとその背中を見ていた。追っていた。
 シアは自分より小柄な師匠の背中をぽんぽんと撫でる。
 自分の感情は、その事実にまだ追いついていない。
 だから、とにかく死人のように血の気が引いているユージーンを温めないと、と抱きしめた。
 直接伝わってくるシアの鼓動に、ユージーンはゆっくりと2回息を吐いて、シエルから聞いたことを伝える。

「…、シアくんは魔力の器が大きいでしょう」
「え?うん」
「それなのに、ずっとずっと、魔力は回復できずに枯渇状態だった。…だから、魂に負担がかかってしまったんだそうです」

 本当ならユージーンに出会ってすぐの頃が寿命だったんじゃないかな、とシエルは言っていた。
 たまたま、魔力を回復する方法をユージーンが見つけて、それをシアが受け入れて。
 そうして生まれた、奇跡のような時間だったのだと。
 ユージーンが震える声で伝える内容に、シアは静かに「そっかぁ」とつぶやいた。
 ぎゅう、と今度は抱きつくようにシアはユージーンに体を寄せる。

「死ぬのは、…いやだなぁ」
「……」

 ようやく、少しだけ沸いた死へのイメージが、一緒に悲しみを持ってくる。
 未来は、当たり前に続くと思っていて、だから「いつか師匠みたいに」と思っていて。
 けれど、そのいつかにとどくまでは、多分、時間は残っていない。

「……ねぇ、師匠」
「なんですか?」
「あと、どれくらい生きられるとかって、シエルさん言ってた?」
「……、一年ほど、だそうです」

 いちねん、とシアは声に出さずにくりかえす。
 体に不調がないから、どんなふうに死に向かっていくのか、いまいちわからない。
 本当に死ぬの?と思う気持ちがないわけではない。
 けれど、ユージーンがそういうなら、その言葉に嘘はないんだろう。
 ぽろり、とシアの双眸から涙が溢れた。
 あと少しなら、わがままを言ってもいいだろうか。
 あと少しなら。

「ねえ、師匠」
「なんですか」
「もうちょっとだけ、もうちょっとだけ、……俺と生きて」


 その言葉に込められた願いに、決意に、ユージーンは抱きしめることで応えた。
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