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章1

拉致とつがいと子作りの話(3)

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 勝宏はハンバーガーをご所望だったが、結局翌朝は野宿用の結界を解いたとたん魔物の襲撃に遭ってしまい、魔物の肉を調理することとなった。

 朝マ○クは翌日の朝に持ち越し。
 その日のうちにレネギアの町に着くことができたから、明日は魔物の邪魔が入ることもなく勝宏はハンバーガーにありつけることだろう。

 道中に拾い集めた宝石は結構な数になる。
 勝宏と二人で買い取りに出し、大量に入ってきた金貨はそのまま彼に持っておいてもらうことになった。
 アイテムボックスは金額を指定して引き出すこともできるらしく、透がメニュー画面を使えない限りは今後も大金は彼に預かってもらうことになりそうだ。

 徒歩五日の疲れを癒すため、今は取った宿で昼間からくつろいでいるところである。

 さて、このレネギアの町。
 さほど大きな町ではないが、面白いものが手に入ると話題らしい。

「面白いものって?」
「転生者の中に、日本商品を取り寄せできるスキルのやつが居るんじゃないか? リングノート型のメモ帳とか鉛筆とか売ってるんだろ」

 勝宏に訊ねると、そんな説明に加え、透にはあんまり面白くないかもな、と付け足された。

 この世界にて水面下で行われている転生者ゲーム。
 初期に入手できるチートスキルはひとつだけだが、ポイントを稼げば他のチートスキルを手に入れることもできる。

 転生者にはメニュー画面のポイント交換ページにて、どのスキルがどんな効果で何ポイント必要か、という情報が分かるのだそうだ。
 透には確認するすべがないが、その中にあるスーパースキル<発注>は、こちらの世界の通貨を支払って日本の商品を購入できるスキルらしい。
 しかし、いつまで経ってもこの世界に銃器や漫画本が出回らないことを考えると、<発注>スキルで取り寄せできる商品の種類には制限があるのかもしれない。

「その転生者は、戦うんじゃなくて商売、してるのかな」
「だろうな。まあ実は自分だけ銃を買ってて、商人ファッションの服の下では地球の兵器で完全武装してる……ってこともありうるかもだけど」

 なるほど、勝宏の推測は結構ありうるかもしれない。
 銃器の取り寄せが難しいのではなく、本人が銃器を広めないようにしていると。
 戦うためのスキルを得られないままでこの物騒なゲームに参加させられることになったなら、確かに現代の武器は流通させたくはないだろう。

 連日の徒歩の疲労で動けない透をよそに、勝宏は「何か日本のものがあるか見てくる」と宿を出て行ってしまった。
 まだこの間渡した漫画だって全巻読めていないのに、異世界に輸出された日本のものをわざわざ異世界で買い求める心理はちょっと分からない。
 おそらく、いつでも帰ることができる透と違って、望郷の念のようなものがあるのだろう。

 勝宏が買い物に行くなら、自宅でシャワーでも浴びてこようか。
 そして宿で少し休もう。
 ふらつく体でどうにか立ち上がり、ウィルに声を掛けた。



 戻ってきた勝宏は、特に何も買ってきてはいなかった。

 彼が言うには、砂糖や胡椒をはじめとする調味料に加え、明らかに日本製の――いわゆるうま味調味料や、ペースト状の調味料が割高な値段で並んでいただけだったそうだ。

 それなら透に買ってきてもらった方がいいし、っていうか透に作ってきてもらった方がうまいし。とは勝宏談。
 ケチャップが一本二千円近くの金額で転売されているそうなので、確かに勝宏が買うメリットなどどこにもない。

 たまには日本食ではなくこの世界で、ということで夕食は町の料亭で取って、明日はハンバーガーな、と念を押されて就寝した。

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 ワインを注いでいるのは、近頃話題になった繊細な透明度の高い器――ワイングラス、というものだ。
 流通量が非常に少なく、これを手に入れるまでさんざんあちこちを駆け回った。

「ザンドーズ様、例のジュエリット族、捕らえました」
「ほう、よくやった」

「今は地下牢に放り込んでおります。盗賊どもから聞いた全身甲冑の謎の男とやらは宿にはおらず、代わりにジュエリット族の隣には少年が眠っていたそうです」

 部下の報告を受けながら、ザンドーズはその内容に満足する。
 盗賊どもが全身甲冑の謎の男に一掃された、という話を聞いた時には「神の寵愛を賜りし者」がジュエリット族についているのかと思ったが、盗賊どもの話に誤りがあったか、もしくはその時限りの護衛だったのだろう。

「その少年は?」
「起きる気配はなかったので、自己判断でそのまま放置してきたそうですが」

「それがよかろうな。殺すと始末が面倒だ」

 水晶のように美しいグラスでワインを呷り、部下の言葉に頷く。
 この男は、商人としての日中のザンドーズに対しても、右腕としてよく働いてくれる優秀な部下だ。

 先日、ジュエリット族を見つけた、という情報を得る代わりに、命からがらという様子で逃げてきた盗賊たちを助けてやった。
 ジュエリット族とは、一般的に身体で宝石を生成する種族のことを指す。
 エルフやドワーフなどと並んで創生の時代からこの世界にあった種族だが、既に絶滅したものだ。

 宝石を生成する特性上、人間によって乱獲・奴隷化されあっという間に世から消えたというのが定説である。

 他にも、絶滅の理由は諸説あるが、たとえば文献によると、別種族や同性間でつがいになろうとする傾向のある種族だったらしい。

 いとしいと思えば性別を越えて、どころか昆虫相手とでも添い遂げ、つがいが死ねば躊躇いなく後追いするどうしようもない連中だったと聞く。

 おかげで、人間による乱獲は棚上げされて、子孫がなかなか残せない性質だったからほうっておいてもそのうち絶滅しただろうとまで言われている。

 最後にジュエリット族が発見されたのはもう百年ほど前の話か。
 記録が残らないほど昔ではない。

 案の定、管理していた施設の女研究者をつがい認定したメスのジュエリット族が他の男とまじわろうとするはずもなく、無理に交配させようとした結果、自死したらしい。
 その時の資料は別に秘匿されるでもなく、わりと誰でも閲覧できる。

 というか一部のマニアックな性癖を持つ男に読み物として人気らしく、資料の複製は結構な数が出回っていたりする。
 挿絵付きで。

「捕らえたジュエリット族を連れてこい。これから儂がたっぷり可愛がってやろう」

 そう部下に指示を出して、残ったワインを飲み干す。

 ジュエリット族は男も女も見目麗しいと聞く。

 連れてこられるであろうそれに思いを馳せ――ていたザンドーズは、直後「鍵がかかったままの牢から、捕らえたジュエリット族が忽然と消えた」という報告を受けることになるなど思いもしていなかった。


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