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章1
幕間 【異世界転生したら職業を複数持てるようになったので無双します】 (2)
しおりを挟む話を聞く限りでは、転生先の異世界にチート転生者は複数いるのだろう。
その中で何かしらを競い合う形のゲームなのだ。
俺好みの話とはちょっと外れるが、嫌いじゃない。
「色々条件があるけど。基本的には、バトルで勝ったらポイントが手に入る。ポイントを貯めてさらに複数のスキルを手に入れる。そうやって誰にも倒されず、ゲーム終了まで勝ち残るんだ」
「なんか昔漫画で見たな。優勝したチームの神は次年度の絶対神に選ばれる、とかそういうやつか?」
「いやいや、景品なんてあってないようなものさ」
参加者である人間は力を得て、優勝したらさらに願いがひとつ叶う!
力を与えた神は神の中のトップに立てる!
みたいな話を想像したが、そういうわけではないらしい。
「こっちもただの娯楽だからね、大事にはしないよ。プレイヤーになってくれるなら、積極的にバトルに参加してくれなくたっていいし、あっちで気ままに冒険者しながら、たまーにバトルしてくれるだけでもぜーんぜん、充分」
ゲームと言われて身構えたが、それほど重い話ではないようだ。
「……まあでも、即ゲームオーバーじゃ僕も笑い物だから、出来る限り生き残っていてほしいけどね」
「ふむ、だいたい分かった。で、バトルで手に入るポイントっていうのと、さっきあんたが言ってたポイントっていうのは同じものか?」
「そうだね、同じだよ。初期ボーナスみたいな感じ」
話が見えてきた。
その初期ポイントを有効に配分して、スタートダッシュするのが良さそうだ。
しかし。先ほど、「スキルは選ぶようなものじゃない」と言っていたのが引っかかる。
「スキルは選べないのか?」
「ごめん、<スーパースキル>は選べないんだ。勝手に決まっちゃう。でも普通のスキルなら三つまで選べるよ」
メインスキルはランダム、それを補助する形で普通のスキルを選ぶことになるのか。
「普通のスキルというのは、使い勝手やランクによって消費ポイントに差があるのか?」
「ないよ。一覧がこれね」
こちらの質問に、神が空中で何かを操作した。
瞬間、アニメやゲームのように、空中にメニュー画面のようなものが出てくる。
言う通り、一覧画面だ。
各スキル一律5ポイント、と見出しに記載されている。
攻撃力補正、防御力補正、HP補正、といったステータスの補正系から、状態異常耐性、精神異常耐性、命中補正なんかもある。
「……選ぶ前に、俺が何のスーパースキルになるかは分かるか?」
これが聞けないなら完全に博打だ。
おそるおそる、といった質問を気にすることなく、神があっさりと回答を寄越す。
「君が手に入れるスーパースキルは、<兼業>だ」
「なんだそれ」
「これから行く世界の冒険者は、皆クラス……職業をひとつ決めてるんだ。剣士とか魔法使いとかね。ひとつ決めると転職手続きをしないと変えられないし、転職すると今まで使えた技が使えなくなったりする。でもこれは、そういったデメリットがなくなるんだ」
スーパースキル、<兼業>。この話からいくと、これは。
「サブクラスが持てる。たとえば、剣士として冒険者登録をしながら、ひそかに魔法使いのクラスを育てることができる。そしてサブクラスの方は転職手続き不要で、ステータス画面からいつでも付け替えできる」
「枠が増えるみたいなもんか」
悪くない。使いようによっては、器用貧乏にもチートにもなりうる力である。
「今どれかサブクラスセットしてく?」
「できるのか?」
「メイン職業の方は、十五歳で成人するまで決められないよ。それまでは職業「村人」とか、職業「公爵家嫡男」とかだし。でもサブクラスはいつでもセットできる」
それは良いことを聞いた。転生にあたって開始はおそらく幼児からだ。
今サブクラスを指定しておけば、幼児期にも魔法の訓練がしやすくなるだろう。
伝えられた職業リストの中から、好みの戦闘スタイルに合いそうなクラスを選んだ。
あわせて、三つの選択スキルを絞り込む。
これで15ポイント使ったことになる。
残りは65ポイントか。
マップ機能の拡張で20ポイント、メニュー画面を使いやすくカスタマイズするのに5ポイント。
残りの40ポイントは……。
「どうする、40ポイント? 超イケメンにキャラメイキングしちゃう?」
「見た目は見るにたえないほどの不細工じゃなけりゃそれでいい」
「まあ貴族転生だとたいてい容姿整ってるからね。そうなると、後は何がいい?」
後は。後は……娯楽だ。
異世界転生なんて、どう考えても中世で娯楽がほとんどなさそうである。
ふと、足元に転がっている自分のスマホが目に入る。
「あっちでスマホは使えるようにならないか?」
「ごめん、それは100ポイント全部使っても無理かも。なんで?」
さすがにそれは無理だったか。
転生者がたくさんいるにしても、日本の知識をそのまま暗記してきてる奴なんてほとんどいないだろう。
知識チート定番の農業関係や武器製作だって、細かい数値や成分、材料まで暗記できるのは専門職くらいものである。
調べられる環境さえあれば知識チートもできるのだが、スマホが無理なら仕方ない。
娯楽は本当に惜しいが。
「読んでいた小説の続きが気になる。そこだけが今生の心残りなんだ」
「小説が読みたいだけ? 調べ物とかはできないけど、小説の掲載をチェックできるアプリをメニューガジェットに付け足す、くらいならできるよ」
「40ポイントでいけるか?」
「うん、大丈夫。じゃあこんな感じでいいかな」
ちょっと待て。
100ポイントじゃ無理と言っていたが、ということは。
「今後ポイントが貯まればスマホを持ち込めるのか?」
「生前使ってたスマホを再現したもので、魔力をバッテリー代わりにして、ネットを繋げることはできるね。合計10000ポイント必要だけど」
当座の目標が見えた。
ネットが使えれば現代知識チートし放題、音楽も聴けるし、動画サイトでアニメも見れる。
頑張ろう。
最もテンションが上がった瞬間であった。
「そうだ、ゲームに負けたらどうなる?」
「うん? 死に戻りするって聞いたけど」
「そうか」
「でもごめん、どのタイミングに戻るかは分からないな」
神が申し訳なさそうに付け足した。
たとえば、交通事故でこのゲームに参加したやつが、死に戻りで事故1秒前に戻ってしまったら結局死は免れられない、ということだろう。
俺の場合は窒息死なので、戻った瞬間解ければどうにでもなりそうだが。
「よし、そろそろ行こうか。家族に別れは? 夢枕に立つくらいならポイントなしでもできるよ?」
「いい。……あ、この首に巻き付いたイヤホン外してくれ。死因が明らかだとちょっと恥ずかしい」
「あはは、君面白いね!」
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