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章1

拉致とつがいと子作りの話(1)

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 町の外壁ができたのを確認して、勝宏と二人で次の町を目指す。

 透のレベル上げをするだけなら、あの町にしばらく滞在してもよかった。
 だが、冒険者登録をする前に大衆の前で魔法を使ったことや、宿屋の親父さんだけとはいえ第三者に宝石化の件を知られてしまったことなどから、一旦場所を移した方がいいだろうとなったのである。

 次の町、レネギアへは歩いて五日ほどかかるそうだ。
 地図も持たずによく迷わずいられるなと思ったが、勝宏にはメニュー画面とマップ機能という転生者特典があるのだ。

 このマップ機能、彼が言うには、ゲームのマップ画面のように自分が移動している場所が小さなアイコンで数ピクセルずつ動いているように見えているらしい。

 角の生えたウサギの魔物が、膝くらいの長さに生い茂る草むらから飛び出した。

「おっ、ホーンラビットだ。あれうまいんだよな」

 徒歩移動の最中に遭遇した魔物は、強敵なら勝宏が、初心者向けならば透が戦うことにしている。
 先の町では武器は装備できなかったが、ひとまず戦う手段を手に入れたのは幸いだった。

「透、やってみろよ」
「う、うん」

 勝宏の判断では、透が戦っても問題ない相手のようである。
 ていうか勝宏、あれ食べるんだ。

 ウィルに教えてもらった通りに、土や石が矢に変わるところを思い浮かべる。
 それらがウサギに飛んでいくイメージ。
 意識して狙いをつけると、イメージの通りに生成された矢が獲物に向かって射出されていった。

「一発じゃん。ナイス! 俺こいつ捌くわ」
「あ、やっぱり食べるんだ……」

 今のところ、転生者以外の魔法をろくに見ていないため、透には自身の魔法――無詠唱でイメージを形にするもの――が一般的なのか珍しい類なのか見当もつかない。
 一般人を偽装しようにも、チート前提の転生者を参考にしてしまっては意味がないのである。

 町で戦う前に、一般の冒険者の戦いも一度は見ておきたいところだ。

 勝宏はというと、魔法の矢で仕留められたウサギの皮を剥いで器用に捌き始めている。
 なんというか、手馴れてるなあ。

「勝宏は転生っていっても、今の年齢のままなんだよね?」
「うん? まあな」
「日本にいたら、普通はそういうの、覚えないと思うんだけど……こっちに来てから覚えたの?」

 いまいち「普通」の分からない透ではあるが、さすがに世間一般の現代日本人が高校生までの間に野生のウサギを捌く経験などするはずがないことくらいは分かる。
 やれるのは自然に囲まれた山間部に住んでいる、それも猟師の家生まれくらいじゃなかろうか。

「捌き方? こっちで覚えたよ。来てしばらくサバイバル生活送ってたし」
「神様は、町に送ってくれなかったの?」

「んー、神様と話してる時にちょっと口論になっちゃってさ。スキルも転生特典もすげーてきとうに渡されて、森に放り出されたんだよな」

 ああ……確かに、彼なら転生者ゲームの概要を聞いた時点で怒りそうではある。
 妙に納得してしまった。

「ていうか、それは透もだろ」
「えっと、まあ……」

 透の場合はそもそも転生者ではないのだが。

「そのウサギの魔物、焼いたらかたくならない?」
「そうでもないよ。普通にうまい。透、ウサギ調理できる?」

 無理なら普通に焼いて食う、と続ける勝宏に、大丈夫と返す。
 ジビエ料理としてならまあ、扱えないことはない。
 そういえば、そろそろ昼食の時間だ。

「家で作ってこようか」
「おー、だったらチーズ乗っけて!」

 チーズ、チーズか。
 だったら塩胡椒で焼いて、チーズを乗せてオーブンで焼き上げるのがおいしいかな。
 くさみがあるかもしれないから、肉は一旦数分ほど煮て灰汁を取るか。

 ぽろ、と髪から固形物が落ちていく。
 地面に転がったのは赤い宝石だ。宝石の種類には詳しくないんだけど、ルビーかなあ。

「臨時収入じゃん。俺収納しとくよ」
「お願いします」

 拾い上げて勝宏に手渡すと、何もない空間に宝石が吸い込まれていった。
 相手の画面が見えていない状態でアイテムボックスを使われると、収納魔法みたいに見える。

 代わりにまだ若干生温かいウサギ肉を受け取って、ウィルに日本へ送ってもらった。




 料理を作って異世界に運び、ろくに舗装のされていない街道脇で食事を取り、また日本に戻って食器を洗う。
 勝宏と旅をするようになってから自宅が完全にキッチンとしての役割しか果たしていない。
 とはいえ、野宿でも自分だけシャワーを浴びることができるのだからこの程度の飯炊きくらいは甘んじて受けるべきだろう。

 昼食を終えて再び移動を開始する。
 これまでと変わらず、敵のレベル帯によって勝宏が出る場合と透が出る場合とで分けての戦闘が続いた。

 途中、零れる宝石の粒は気付いたものだけ拾って勝宏に預けている。

 だが、もちろん気付かなかったものや取りこぼしたものもそれなりにあるわけで。

 二人の歩いたあとに続くようにぽつぽつと落ちている宝石は、そこら一帯を縄張りとしていた盗賊団に早々発見されてしまったのだが……この時はまだ透も勝宏も、そんなことなど知る由もなかった。

 日が落ち出したら、街道の端で野営の準備を始める。
 夕食はたまには俺が作るよと言うので、勝宏にご馳走になることにした。

 捕ってくるからちょっと待ってて、と言われるまま、野営地に起こした火の番をする。

 あまり身体を動かすことなく過ごしてきた透には、この五日間の旅はなかなかきついものがある。
 長時間の徒歩で奪われた体力を回復するように、うとうとと瞼が落ちかける。

『透、敵だ』
「……へ?」

 睡魔に身を委ねかけたが、ウィルの声で覚醒する。
 いつの間にか火の傍からは転移させられていて、透が居眠りをしていた場所には手斧が地面に深く食い込んでいた。

『囲まれてんな。まあ離脱できっけどよ』

 ウィルの言葉で周囲を見渡せば、野営地を中心にぐるりと男たちが透を取り囲んでいた。
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