神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ

文字の大きさ
30 / 554
第4章 二月の出会い

第27話 狭山さんとエレナちゃん

しおりを挟む

「狭山さーん! 社長が呼んでるよ~」
「熱……っ!?」

 三月を目前に控えた、二月末。

 スカウトの仕事を終え、事務所で昼食をとっていた狭山さやまは、女子社員の突然の呼びかけに、食べていたカップ麺をひっくり返しそうになった。

 食べ始めたばかりの熱々のカップ麺のスープが、細いストライプが入った黒のスーツにかかり、狭山はそれをふき取りながら、言葉を返す。

「え? 今、なんて?」

「あーあー、大丈夫? 火傷してない?」

「だ、大丈夫。てか、今なんて!? 社長室!!? なんで!? おれ、なんかやったっけ!?」

「さぁ、むしろから呼び出されてるんじゃないの?」

「え?」

「休憩、終わったらでいいから、社長室宜しくね~!」

「うそだろ。マジかよ、おい!」

 狭山は、顔を青くし暫く頭を抱えたが、こうしちゃいられないと残っていたカップ麺を勢いよくすすと「ごちそうさまー」と手を合わせた後、足早に社長室まで向かった。

 休憩室から出て、エレベーターで数回上がった先にある重厚な扉の前に立つと、一旦息をついたあと、精神的にも重いその扉をノックした。

 コンコン──

「あー……狭山か?入れ」

「し、失礼します」

 扉を鳴らすと、中から返事がし、恐る恐る狭山は社長室に入ると、部屋の奥から50代くらいの男性が手招きをする。
 髪をオールバックにしたラフな服装な強面の男。彼は、今狭山が勤めといるモデル事務所の社長であり、一代にして、この事務所をここまで築き上げた、やり手のビジネスマンである。

「な、なんでしょうか、社長……」

「お前に、ちょっと相談なんだけど」

「はい」

狭山が、社長が座る机の前まで足を運ぶと、社長は側においていた書類に一度目を通し、その後狭山を見つめた。

「お前もスカウトばかりじゃ、あれだろ? そろそろ、担当持ってみるか?」

「え?」

大した前置きもなく、あっさりと放たれた言葉は、あまりにも突拍子もない話で、狭山は一瞬口ごもる。

「……で、でも俺、最近スカウト全く成功してないですよ? 誰の担当するんですか?」

「あぁ、実はこの前うちに入ってきた女の子で、名前は──」

社長は、先ほど目を通していた書類を一枚、狭山に差し出す。

「”紺野こんの エレナ”ちゃんだ」

(あ……この子……)

 エレナちゃん──その名前と同時に、書類に添えられていた写真をみて、狭山はクリスマス前、事務所の奥の来客コーナーにいたの事を思い出した。

「え!? この子まだ担当決まってなかったんですか!? だってオーディション受けに来たの12月じゃ!」

そう。今はもう2月も終わり。まさか3カ月近くも担当がいなかったのかと、狭山は目を丸くする。

「いや、担当は坂井が受け持ってるんだが、なんか、もう色々限界みたいでな? 一人じゃ手に負えないっていうんで、お前にサポート役として、二人で担当してもらうことになった!」

「限界!? 限界って何がですか!? いやいや、ちょっと待って!? それ、明らかに厄介な奴じゃないっすか?! めんどくさいの押し付けられてる感じじゃないっすか?!」

「なんだ、嫌なのか? じゃ、美女でもイケメンでも、立派にスカウトしてこい!」

「社長、もしかして俺のこと嫌い? 辞めさせたいなら、ちゃんといって、お願いですから」

「あははは! 冗談だよ。お前、スカウトはだけどな。その面倒見のよさだけはかってるんだ! だから、わざわざこの子の担当に、お前を指名したんだからな!」

「……はぁ」

 ほめられているのか、けなされているのか、正直、よくわからない。

「ただ、お前はまだ新人だし、いきなり全部は任せられん。だから、デベロップメント(人材育成)と、プロモーション(売り込み)は坂井にさせるから、モデルのは坂井に教わりながら、お前が担当しろ」

「ま、マジすか……」

 狭山は、少し顔を曇らせつつも、社長が手渡した書類に改めて目を通す。

 紺野 エレナ──髪の色が、と同じ”ストロベリーブロンド”だからか、見た目こそ派手な印象だが、瞳の色は、少年とは違い、大人しそうな”茶色い瞳”をしていた。
 年齢は9歳。スタイルも悪くはなく、まさにスラッとしたモデル体型で、あと数年もすればファッション誌の表紙を飾ることが出来るような、そんな”素質”は確かに秘めている。

だが──

「あの、この子……撮影中は、どんな感じなんですか?」

「……なにか気になるのか?」

「あ、いや……」

 気になるのか?といわれたら、上手く説明できない。その「なんとなく」を上手く話せるほど、狭山は話術に長けてはいなかった。

「いえ、わかりました。最近スカウト上手くいかなくて、やる気なくしてたんで、いい機会です」

「おまえ、社長の前でやる気ないとかよく言えたな……そんなに苦手か、スカウトは?」

「っ……少し前に、、スカウトしたらエライ目にあったんですよ!」

「美女みたいな……イケメン……」

狭山は、例の”金髪碧眼の美少年”の事を思い出して、眉根を寄せた。すると、社長はふむと考えこむと

「もしかして……か?」

と、平然と問いかけてきた。

「え!? 社長、知ってんの!?」

「あっはっは、やっぱり神木くんか~? そりゃ、神木くんはここらじゃよ。なんせ、俺も8年くらい前にスカウトして、見事にフラれたからな!」

「マジすか!? 社長が!!?」

「あの子は、どんなに口説いても、モデルにはなってくれないんだよね~?」

「そう……なんですか?」

「そうそう。いまだにしつこく声をかけるやつもいるみたいだけど、軽くあしらわれておしまい。本当に、嫌なんだろうね……モデルの仕事」

「……」

 社長が残念そうに呟く。この社長は、優秀な人材を発掘する”スカウト”に関しては、特に長けた人だった。
 渋る本人だって、反対するその親だって、巧みな話術と誠実さで、見事に信頼を勝ち取ってきた人だ。

 そんな人からの誘いも断るとは、よほど、あの少年の意志は固いのだろう……

「ま。あの子なら仕方ない、そう落ち込むな狭山。それにお前、もっと目を見開け!! そんな死んだ魚みたいな目してるから、やる気無さそうに見えるんだぞ!」

(死んだ魚!? なんかひどいこといわれてない!?)

「ま。とりあえず……これから、エレナちゃんのこと、頼むな!」

そう言い、社長は微笑んだ。その眼差しは、社員の成長を心から願うような、そんな笑みだった。

「……はい。わかりました。頑張ってみます!」

狭山はスっと背を伸ばし、真面目な顔をすると、それをみた、社長はまた口角を上げる。

「あとエレナちゃん。母親が忙しいみたいだから、送迎も頼む!」

(……あれ? なんか結局、雑用まかせられてる感じじゃね?)

坂井の言う”限界”とは、もしかして「送迎」込みの担当の事だったのではないだろうか?

そんなことが、漠然とよぎった狭山なのだった。




しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...