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第5章 救世主と事件
第28話 受験と隠し撮り
しおりを挟む春の匂いを感じ始めた3月某日。
華と蓮は、まさに運命の日を迎えていた。
「やった~あったー! 蓮は」
「うん。俺もあった」
都立桜聖高等学校──そこは、神木一家が暮らすマンションから、そう遠くない位置に存在する公立高校だった。
学科は普通科と情報科の2つに別れてはいるが、1学年5クラス(情報科2、普通科3)全てが、同じ塔に位置する、程よいサイズのいたって普通の高校である。
そして、この高校を今年受験した華と蓮。兄にしごかれながらの受験勉強のかいあってか、二人とも無事合格することができたようです。
第28話 受験と隠し撮り
双子たちと別行動をとった飛鳥は、その頃、買い出しに向かうため公園沿いの少し広めの歩道を、一人歩いていた。
三月に入り、公園内に植えられた桜の木には、小さく蕾がつき始めていた。
飛鳥は、そんな春の兆しを感じながら、受験の合否はどっだっただろうか?と、妹弟のことを思いだした。
トゥルルルル…
すると、そのタイミングで、バックの中にいれていたスマホが音を鳴らし始めた。
立ち止まりスマホを取り出すと、かけてきた相手は妹の華だったようで、飛鳥は、そばのガードレールにそっと寄りかかると、その後、柔らかく笑みを浮かべて、妹に語りかけた。
「もしもし、華? どうだった? うん、受かった? 蓮も? そう。あれ? お前もしかして泣いてんの?」
感極まって、泣きながら電話をしてきた華の声をを聞いて、飛鳥は目を細めた。
きっと、高校の掲示板の前で、蓮に抱きつきながら泣きじゃくっているのだろう。そんな華の姿が目に浮かぶ。
「そぅ、葉月ちゃんも受かったんだ。おめでとう……え? ああ、俺はもう少し回るところあるから……はいはい、お昼には帰るよ! じゃぁ、またね」
そう言うと、飛鳥は涙混じりに声を上げた華の言葉を最後に、電話を切った。
(そっか、受かったんだ…)
なんだかんだ愚痴を零しながらも、二人とも、よく頑張っていた。
わからないところは素直に聞いて、たまに喧嘩になることもあったけど、それでもコツコツと毎日勉強に励み、しっかりものにしてきた。
そして、その結果は、これまで二人に勉強を教えてきた飛鳥にとっても、酷く喜ばしいものだった。
(今日は、ご馳走作ってあげなきゃね…)
二人同時に無事合格できた事に飛鳥はホッと胸を撫で下ろすと、その後、見惚れてしまうようなほど綺麗な笑みを浮かべて、頬を緩ませる。
──パシャ…!
「!」
だがその時、どこからからか、シャッター音が聞こえた。
多分、スマホや携帯から発せられるような電子音。何やら嫌な予感がして、飛鳥がそっと辺りを流しみれば、その少し離れた場所で、若い男が一人、スマホをこちらに掲げているのに気づいた。
だが、ガードレールに寄りかかる飛鳥の背後にあるのは、ただの車道。特段珍しいものもなければ、こんな歩道のど真ん中で、男一人で自撮りしているとも考えにくい。
「ねぇ、それ何撮ってんの?」
飛鳥が、男を見つめ声をかける。
「あれー、やっぱバレた?」
すると、その男はヘラヘラと笑いながら飛鳥に歩みよると、手にしたスマホを堂々と飛鳥に見せつけてきた。
「なかなか上手く撮れてない? あんたマジ美人だね! いい笑顔してたよー」
「……」
写真を撮られたばかりか、全くの面識のない相手に馴れ馴れしく接され、飛鳥はその視線を更に鋭し、男を凝視する。
髪をオールバックにした、いかにも浮ついた感じの黒髪の男。年はおそらく、自分と同じ二十歳前後だろう。
また厄介なやつに捕まった……飛鳥は一人心の中で愚痴る。
「ねぇ」
すると、睨みつけたまま、なんの反応も示さない飛鳥をみて、男が含むような笑みを浮かべた。
「アンタだよね? 桜聖大の神木くんて」
「!?」
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