神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

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第11章 恋と雨音

第448話 栞と既読

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「あ、あのね、榊くん……!」

 今なら、言えるかもしれない。
 『告白されて、嫌じゃなかった』って──

「あ、あの……っ」

 だが、いざ口を開けば、顔は火を吹くように熱くなり、言葉がうまく出てこなかった。

「あ……あの……あのね……っ」

 なんだろう。すごく恥ずかしい。
 まるで、今から告白でもするみたいに!

「…………」
「…………」

 すると、それから華は口篭くちごもってしまい、しばらく無言の時間が続いた。そして、そんな、華を見て、航太が首を傾げる。

(な、なんだろう?)

 顔を真っ赤にする華は、とても可愛いかった。

 しかも、これまでとは違う反応を見せる華に、航太の心拍は、少しずつ上昇する。

(なに、ドキドキしてるんだよ。もう、完全に振られてるってのに……っ)

 だが、その表情に、微かな期待を持ち、未だに、未練タラタラな自分が嫌になった。

 だが、そんな顔をされたら、期待するなという方が無理な話で……
 
「榊ー! 部活いかねーのー!」

 すると、ちょうど同じ部の生徒たちが通りかかり、航太に声をかけた。

 航太は、すぐに『今、行く!』と返事をすると、改めて華に声をかけた。

「じゃぁな。気をつけて帰れよ」

「あ、うん……あの、傘、明日返すね」

「あぁ、わかった」

 すると、なんだ傘のことかと、航太は、あっさり納得して、みんなの元に駆け出し、華は、そんな航太の背をみおくりながら

(っ……なにやってるんだろう?)

 困らせて、傷つけて
 その上、誤解も解けないままだなんて─…


 ◇

 ◇

 ◇


 夕方になり、自室で本を読んでいた飛鳥は、ふと時計を見みつめた。

 時刻は、5時過ぎ。もうすぐ、華が帰ってくる頃だと、飛鳥は、本を読むのを中断し、しおりを手にした。

 桜柄のステンドグラスのように輝く綺麗な栞。

 そして、それを見て、飛鳥は、ふとあかりのことを思い出した。

 先程、あかりにLIMEを送った。
 だが、既読は付いたが、返事はなく……

(あかり、大丈夫かな?)

 少し心配になり、飛鳥は、またLIMEをおくる。

《大丈夫?何かあった?》

 すると、またすぐに既読がついた。
 しかし、そのメッセージに関する返信は、またもや、なく──

(もしかして、わざと既読無視してる?)

 そして、さすがは、お兄ちゃん!
 どうやら、気づいてしまったらしい!

 だがこれも、あかりが『嫌われ作戦』を決行しようとしてると隆臣から、聞いていたからかもしれない。

 正直、フェアではないが、そのおかげか、既読無視をされても、可愛い抵抗のようにしか感じなかった。

 すると、返事のないLIMEに、また一方的なメッセージを書き込んだ。

《蓮、熱さがったよ。ありがとう》

 すると、またすぐに既読がついて、飛鳥はくすりと微笑んだ。

 無視はするくせに、既読だけは、すぐにつく。
 
 そして、それは、あかりが飛鳥のメッセージを確認している証拠。

(こんなことされても、嫌いになんかなるわけないのに)

 確認してるのだと気づくと、飛鳥は、またメッセージを書き込見始めた。

 どんなに避けられても、どんなに嫌がられても、この先、隣にいて欲しいと思うのは、あかりだけだった。

 だから──

《やっぱり俺は、あかりがいい》

 そして、そのストレートな言葉にも、すぐに既読がついた。

 あかりは今、どんな顔で、このメッセージを見ているのだろう?

 既読と表示された、その文字を見て、飛鳥は幸せそうに微笑む。

 ──ガチャ!

 すると、その瞬間、玄関から音がした。
 どうやら、華が帰宅したらしい。

(華……雨、降ってたけど、大丈夫だったかな?)

 先程、やんだばかりの雨。

 飛鳥は、妹のことを心配しつつ部屋からでると、すぐに玄関に向かった。すると、華は玄関先から、兄を目にするなり

「え!? なんでいるの!?」

 デートに言ったはずの兄が、家にいる!!
 だからか、案の定、華は驚いて

「なんで!? デート、行かなかったの!?」

「うん」

「うんじゃないよ! あかりさんに、嫌われたらどうするの!?」

「大丈夫だよ。あかりなら」

「大丈夫って……っ」

 だが、ニコニコと笑顔の兄は、いつも通りで、華は、複雑な心境になる。

 兄が、あかりさんではなく、蓮を選んだ。

 それが、あまりにもいつも通りの兄で、妹としては、嬉しくなってしまったから。

 でも──

「もう! バカ!! 女心なんて、あっさり変わっちゃうんだからね! 余裕そうな顔してると、いつか痛い目みるよ!」

おどかすなよ。それより、その傘だれの?」

「え!?」

 すると、華の傘が、他人のものだと気づいたらしい。
 飛鳥が、そう問いかければ、華はしどろもどろしながら

「こ、これは、榊くんの……っ」

「榊くん? なんで……って。まさか、傘忘れたの?」

「う……うん。忘れました」

「…………」

 瞬間、ニッコリと笑顔になった、お兄様!
 怖い! その笑顔が逆に怖い!

「お前、蓮のこと言えないじゃん。全く、双子揃って忘れるなんて……明日、榊くんに、お礼言っとけよ」

「う、うん。わかってる。それより、蓮は?」

「熱なら下がったよ」

「ホント!」

 すると華は、ほっとしたと同時に、蓮の部屋に駆け出した。

「蓮!」

「あ、華。おかえ──わっ!」

 すると、朝とは違い元気そうな蓮を見て、華は、部屋に入るなり抱きついた。

「蓮~良かった~! 今日一日、落ち着かなかったんだから~~!」

「悪かったって。つーか、抱きつくなよ。風邪が移る」

「大丈夫だよー」

「いやいや、大丈夫じゃないから」

 すると、大丈夫などという華に、すぐさま飛鳥が突っ込み、華を引きはがす。

「ほら、せっかく良くなってきたんだから、華は、あっち行くよ」

「えー! 心配してんのに!」

「それはわかるけど、お前は、うるさいんだよ」

「なにそれ、酷い!!」

 蓮の部屋で、ワチャワチャと揉めだす飛鳥と華。
 すると、そのやり取りを見て、蓮は目を細めた。

(やっぱり、この家は、居心地がいい)

 幸せが、たくさんつまった場所。

 だから、手放したくなくて、ずっと、子供のままでたいと思っていた。

 でも──…

(あかりさんと結ばれても、兄貴は、あんまり変わらないような気がする)

 それは、相手が、あかりさんだからなのか?

 ずっと、兄が誰かを好きになったら、兄を取られてしまうと思っていた。

 きっと、一番から遠ざかって
 手が届かなくなって

 寂しさに、押しつぶされてしまうんじゃないかって。

 でも、あかりさんとなら、そんなことにはならないような気がした。

 あかりさんは、兄のことを、すごくよく理解してくれてる。そう、実感したから──…

「兄貴」
「ん?」

 すると、蓮は、改めて飛鳥を見つめると

「今日は、傍にいてくれてありがとう。おかげで、ぐっすり休めた。それと、あかりさんのこと、頑張ってね」

「え?」

「俺、お義姉ねぇさんができるなら、あかりさんがいい」

「……っ」

 それは、あまりにも唐突すぎる言葉で、さすがの飛鳥も驚いた。

「お、お義姉さんって……っ」

「だって、この前、一緒にお好み焼き食べたの、楽しかったし」

「あ、確かに、楽しかった。一緒にご飯を食べて、ゲームして……本当に、お姉ちゃんができたみたいだった」

 すると、華も同調するように、そういって、三人は、先日、あかりが、神木家に来た日のことを思い出した。

 ほんの些細なやり取りに、幸せを感じた。
 四人で食卓を囲んで、他愛もない話をして。

 そして、あかりを交えて、みんなで笑うあの時間が、なんだか、とても幸せだった。

「いくらなんでも、気が早すぎるよ」

 だが、お姉さんなんて言う二人に、飛鳥は照れながらも微笑で、その後、大切な妹弟を優しく抱きしめた。

「でも、ありがとう。お前たちが、あかりを受け入れてくれるのが……凄く嬉しい」

 大切な人達に、自分の好きな人を認めて貰える。

 それが、どれほど、幸せなことか──

 飛鳥は、二人の想いに、心からの喜びを感じ、そっと目を閉じた。







 これまで、ずっと

 変わりたくないと思って、生きてきた。


 大人になんて、なりたくない。


 そう、思って生きてきた。


 この世界を、壊したくなかったから。


 だから、ずっと変わらぬ『不変』を望んでいた。



 でも、もし、この神木家に


 もう一人、家族が増えたら


 どうなるのだろう?



 きっと、更に賑やかになるような気がした。



 優しい世界は


 形を変えても


 変わらずに、続いて行く。



 そう、思えるようになったのは


 自分たちが、成長したからなのか?



 でも、その未来は


 どこまでも、どこまでも


 続いていくような気がした。




 まるで、雨上がりの空のように




 『虹色の未来』を描きながら──…














────────────────────

皆様、いつも応援頂き、ありがとうございます!
 
雨上がりの空には、きっと綺麗な虹がかかっていたことでしょう。

さて、今章『恋と雨音』編は、ここまでとなります。
そして、次回からは番外編をお送りします。

『神木家が温泉旅行に行くお話』です。久しぶりに侑斗パパも出てくる、笑いありな神木一家、是非とも楽しんで頂けたら。

また、その後は、この『神木さんちのお兄ちゃん!』も、ついに最終章にはいります。

最終章のタイトルは「愛と泡沫うたかたのアヴニール」

舞台は夏休み。
あかりの家族である倉色家が、ついに桜聖市にやってきます。

兄の恋を応援する神木家と、あかりの心を守ろうとする倉色家。それぞれの大切なもののために、二つの家族が出会い衝突する最終章。

良かったら、最後まで見届けていただけたら嬉しいです。

それでは、いつも♡などで、作者を励まさてくださる皆様、誠にありがとうございます。

終わりに近づいていると思えば寂しくもなりますが、最後まで頑張りたいと思います!

それでは、また次回も、よろしくお願いします!

雪桜
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