476 / 509
第11章 恋と雨音
第448話 栞と既読
しおりを挟む「あ、あのね、榊くん……!」
今なら、言えるかもしれない。
『告白されて、嫌じゃなかった』って──
「あ、あの……っ」
だが、いざ口を開けば、顔は火を吹くように熱くなり、言葉がうまく出てこなかった。
「あ……あの……あのね……っ」
なんだろう。すごく恥ずかしい。
まるで、今から告白でもするみたいに!
「…………」
「…………」
すると、それから華は口篭ってしまい、しばらく無言の時間が続いた。そして、そんな、華を見て、航太が首を傾げる。
(な、なんだろう?)
顔を真っ赤にする華は、とても可愛いかった。
しかも、これまでとは違う反応を見せる華に、航太の心拍は、少しずつ上昇する。
(なに、ドキドキしてるんだよ。もう、完全に振られてるってのに……っ)
だが、その表情に、微かな期待を持ち、未だに、未練タラタラな自分が嫌になった。
だが、そんな顔をされたら、期待するなという方が無理な話で……
「榊ー! 部活いかねーのー!」
すると、ちょうど同じ部の生徒たちが通りかかり、航太に声をかけた。
航太は、すぐに『今、行く!』と返事をすると、改めて華に声をかけた。
「じゃぁな。気をつけて帰れよ」
「あ、うん……あの、傘、明日返すね」
「あぁ、わかった」
すると、なんだ傘のことかと、航太は、あっさり納得して、みんなの元に駆け出し、華は、そんな航太の背をみおくりながら
(っ……なにやってるんだろう?)
困らせて、傷つけて
その上、誤解も解けないままだなんて─…
◇
◇
◇
夕方になり、自室で本を読んでいた飛鳥は、ふと時計を見みつめた。
時刻は、5時過ぎ。もうすぐ、華が帰ってくる頃だと、飛鳥は、本を読むのを中断し、栞を手にした。
桜柄のステンドグラスのように輝く綺麗な栞。
そして、それを見て、飛鳥は、ふとあかりのことを思い出した。
先程、あかりにLIMEを送った。
だが、既読は付いたが、返事はなく……
(あかり、大丈夫かな?)
少し心配になり、飛鳥は、またLIMEをおくる。
《大丈夫?何かあった?》
すると、またすぐに既読がついた。
しかし、そのメッセージに関する返信は、またもや、なく──
(もしかして、わざと既読無視してる?)
そして、さすがは、お兄ちゃん!
どうやら、気づいてしまったらしい!
だがこれも、あかりが『嫌われ作戦』を決行しようとしてると隆臣から、聞いていたからかもしれない。
正直、フェアではないが、そのおかげか、既読無視をされても、可愛い抵抗のようにしか感じなかった。
すると、返事のないLIMEに、また一方的なメッセージを書き込んだ。
《蓮、熱さがったよ。ありがとう》
すると、またすぐに既読がついて、飛鳥はくすりと微笑んだ。
無視はするくせに、既読だけは、すぐにつく。
そして、それは、あかりが飛鳥のメッセージを確認している証拠。
(こんなことされても、嫌いになんかなるわけないのに)
確認してるのだと気づくと、飛鳥は、またメッセージを書き込見始めた。
どんなに避けられても、どんなに嫌がられても、この先、隣にいて欲しいと思うのは、あかりだけだった。
だから──
《やっぱり俺は、あかりがいい》
そして、そのストレートな言葉にも、すぐに既読がついた。
あかりは今、どんな顔で、このメッセージを見ているのだろう?
既読と表示された、その文字を見て、飛鳥は幸せそうに微笑む。
──ガチャ!
すると、その瞬間、玄関から音がした。
どうやら、華が帰宅したらしい。
(華……雨、降ってたけど、大丈夫だったかな?)
先程、やんだばかりの雨。
飛鳥は、妹のことを心配しつつ部屋からでると、すぐに玄関に向かった。すると、華は玄関先から、兄を目にするなり
「え!? なんでいるの!?」
デートに言ったはずの兄が、家にいる!!
だからか、案の定、華は驚いて
「なんで!? デート、行かなかったの!?」
「うん」
「うんじゃないよ! あかりさんに、嫌われたらどうするの!?」
「大丈夫だよ。あかりなら」
「大丈夫って……っ」
だが、ニコニコと笑顔の兄は、いつも通りで、華は、複雑な心境になる。
兄が、あかりさんではなく、蓮を選んだ。
それが、あまりにもいつも通りの兄で、妹としては、嬉しくなってしまったから。
でも──
「もう! バカ!! 女心なんて、あっさり変わっちゃうんだからね! 余裕そうな顔してると、いつか痛い目みるよ!」
「脅かすなよ。それより、その傘だれの?」
「え!?」
すると、華の傘が、他人のものだと気づいたらしい。
飛鳥が、そう問いかければ、華はしどろもどろしながら
「こ、これは、榊くんの……っ」
「榊くん? なんで……って。まさか、傘忘れたの?」
「う……うん。忘れました」
「…………」
瞬間、ニッコリと笑顔になった、お兄様!
怖い! その笑顔が逆に怖い!
「お前、蓮のこと言えないじゃん。全く、双子揃って忘れるなんて……明日、榊くんに、お礼言っとけよ」
「う、うん。わかってる。それより、蓮は?」
「熱なら下がったよ」
「ホント!」
すると華は、ほっとしたと同時に、蓮の部屋に駆け出した。
「蓮!」
「あ、華。おかえ──わっ!」
すると、朝とは違い元気そうな蓮を見て、華は、部屋に入るなり抱きついた。
「蓮~良かった~! 今日一日、落ち着かなかったんだから~~!」
「悪かったって。つーか、抱きつくなよ。風邪が移る」
「大丈夫だよー」
「いやいや、大丈夫じゃないから」
すると、大丈夫などという華に、すぐさま飛鳥が突っ込み、華を引きはがす。
「ほら、せっかく良くなってきたんだから、華は、あっち行くよ」
「えー! 心配してんのに!」
「それはわかるけど、お前は、うるさいんだよ」
「なにそれ、酷い!!」
蓮の部屋で、ワチャワチャと揉めだす飛鳥と華。
すると、そのやり取りを見て、蓮は目を細めた。
(やっぱり、この家は、居心地がいい)
幸せが、たくさんつまった場所。
だから、手放したくなくて、ずっと、子供のままでたいと思っていた。
でも──…
(あかりさんと結ばれても、兄貴は、あんまり変わらないような気がする)
それは、相手が、あかりさんだからなのか?
ずっと、兄が誰かを好きになったら、兄を取られてしまうと思っていた。
きっと、一番から遠ざかって
手が届かなくなって
寂しさに、押しつぶされてしまうんじゃないかって。
でも、あかりさんとなら、そんなことにはならないような気がした。
あかりさんは、兄のことを、すごくよく理解してくれてる。そう、実感したから──…
「兄貴」
「ん?」
すると、蓮は、改めて飛鳥を見つめると
「今日は、傍にいてくれてありがとう。おかげで、ぐっすり休めた。それと、あかりさんのこと、頑張ってね」
「え?」
「俺、お義姉さんができるなら、あかりさんがいい」
「……っ」
それは、あまりにも唐突すぎる言葉で、さすがの飛鳥も驚いた。
「お、お義姉さんって……っ」
「だって、この前、一緒にお好み焼き食べたの、楽しかったし」
「あ、確かに、楽しかった。一緒にご飯を食べて、ゲームして……本当に、お姉ちゃんができたみたいだった」
すると、華も同調するように、そういって、三人は、先日、あかりが、神木家に来た日のことを思い出した。
ほんの些細なやり取りに、幸せを感じた。
四人で食卓を囲んで、他愛もない話をして。
そして、あかりを交えて、みんなで笑うあの時間が、なんだか、とても幸せだった。
「いくらなんでも、気が早すぎるよ」
だが、お姉さんなんて言う二人に、飛鳥は照れながらも微笑で、その後、大切な妹弟を優しく抱きしめた。
「でも、ありがとう。お前たちが、あかりを受け入れてくれるのが……凄く嬉しい」
大切な人達に、自分の好きな人を認めて貰える。
それが、どれほど、幸せなことか──
飛鳥は、二人の想いに、心からの喜びを感じ、そっと目を閉じた。
これまで、ずっと
変わりたくないと思って、生きてきた。
大人になんて、なりたくない。
そう、思って生きてきた。
この世界を、壊したくなかったから。
だから、ずっと変わらぬ『不変』を望んでいた。
でも、もし、この神木家に
もう一人、家族が増えたら
どうなるのだろう?
きっと、更に賑やかになるような気がした。
優しい世界は
形を変えても
変わらずに、続いて行く。
そう、思えるようになったのは
自分たちが、成長したからなのか?
でも、その未来は
どこまでも、どこまでも
続いていくような気がした。
まるで、雨上がりの空のように
『虹色の未来』を描きながら──…
────────────────────
皆様、いつも応援頂き、ありがとうございます!
雨上がりの空には、きっと綺麗な虹がかかっていたことでしょう。
さて、今章『恋と雨音』編は、ここまでとなります。
そして、次回からは番外編をお送りします。
『神木家が温泉旅行に行くお話』です。久しぶりに侑斗パパも出てくる、笑いありな神木一家、是非とも楽しんで頂けたら。
また、その後は、この『神木さんちのお兄ちゃん!』も、ついに最終章にはいります。
最終章のタイトルは「愛と泡沫のアヴニール」
舞台は夏休み。
あかりの家族である倉色家が、ついに桜聖市にやってきます。
兄の恋を応援する神木家と、あかりの心を守ろうとする倉色家。それぞれの大切なもののために、二つの家族が出会い衝突する最終章。
良かったら、最後まで見届けていただけたら嬉しいです。
それでは、いつも♡などで、作者を励まさてくださる皆様、誠にありがとうございます。
終わりに近づいていると思えば寂しくもなりますが、最後まで頑張りたいと思います!
それでは、また次回も、よろしくお願いします!
雪桜
3
お気に入りに追加
172
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな
ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】
少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。
次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。
姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。
笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。
なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中


【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
真夜中の仕出し屋さん~料理上手な狛犬様と暮らすことになりました~
椿蛍
キャラ文芸
「結婚するか、化け物屋敷を管理するか」
仕事を辞めた私に、父は二つの選択肢を迫った。
料亭『吉浪』に働いて六年。
挫折し、料理を作れなくなってしまった――
結婚を断り、私が選んだのは、化け物屋敷と父が呼ぶ、亡くなった祖父の家へ行くことだった。
祖父が亡くなって、店は閉まっているはずだったけれど、なぜか店は開いていて――
初出:2024.5.10~
※他サイト様に投稿したものを大幅改稿しております。
鬼の御宿の嫁入り狐
梅野小吹
キャラ文芸
▼2025.2月 書籍 第2巻発売中!
【第6回キャラ文芸大賞/あやかし賞 受賞作】
鬼の一族が棲まう隠れ里には、三つの尾を持つ妖狐の少女が暮らしている。
彼女──縁(より)は、腹部に火傷を負った状態で倒れているところを旅籠屋の次男・琥珀(こはく)によって助けられ、彼が縁を「自分の嫁にする」と宣言したことがきっかけで、羅刹と呼ばれる鬼の一家と共に暮らすようになった。
優しい一家に愛されてすくすくと大きくなった彼女は、天真爛漫な愛らしい乙女へと成長したものの、年頃になるにつれて共に育った琥珀や家族との種族差に疎外感を覚えるようになっていく。
「私だけ、どうして、鬼じゃないんだろう……」
劣等感を抱き、自分が鬼の家族にとって本当に必要な存在なのかと不安を覚える縁。
そんな憂いを抱える中、彼女の元に現れたのは、縁を〝花嫁〟と呼ぶ美しい妖狐の青年で……?
育ててくれた鬼の家族。
自分と同じ妖狐の一族。
腹部に残る火傷痕。
人々が語る『狐の嫁入り』──。
空の隙間から雨が降る時、小さな体に傷を宿して、鬼に嫁入りした少女の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる