神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ

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第11章 恋と雨音

第439話 弟と学校

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「ふぁぁ~。おはよー」

 デート当日の木曜日。

 朝、目覚めた華は、欠伸をしながら、リビングにやってきた。

 今日も朝から、3人分の朝食をつくるのは、兄の飛鳥だ。髪をざっくり束ねエプロンをするお兄ちゃんは、今日も新妻感、満載だった。

 だが、その新妻っぽい兄が、今日は、好きな女の子とデートをする!

 だからか、華は、無駄に気合いがはいっていた!

「飛鳥兄ぃ! 今日は、頑張ってね! 素敵なデートにして、あわよくば、あかりさんのハートをゲット!!」

(ハートは、もうゲットしてるよ)

 だが、炊きたてのご飯をよそいながら、飛鳥が、平然と思考する。

 両思いなのだから、ハートはとっくに掴んでる。

 だが、両思いなのに、あかりが拒んでいるから、ややこしいことになっているわけだ。

「それより、ご飯できたよ。食べる準備して」

「はーい」

「……おはよー」

「あ。おはよう、蓮」

 すると、遅れて蓮が顔を出した。

 華同様、制服姿の蓮は、のそのそとリビングにやって来て、そのままダイニングのイスに腰掛けた。

「?」

 だが、その様子を見て、飛鳥がキッチンから小首を傾げた。

 のそのそと動作が遅いのは、いつものこと。

 だけど、その表情から、なんとなく気になった飛鳥は、そのまま蓮の背後に歩み寄り、弟の額に触れた。

「ぎゃ!? なにすんだよ、兄貴!」

「やっぱり。お前、熱あるじゃん!」

 なんとなく、表情がキツそうだと思った。

 そして、案の定、額に触れてみれば、蓮の体温は、明らかに高かった。

「いつから? 咳は?」

「ないよ、咳も熱もない! ちょっと朝から筋トレしてたから、体温が上がっただけだって!」

「お前が、朝から筋トレしてるところなんて、この16年、見たことないよ」

 日がな一日、ゲームばっかしてる弟だ。

 そして、さすが、お兄ちゃん。
 蓮のことは、なんでもお見通しだった。

「とりあえず、ちゃんと熱計って。解熱剤、飲んだ方がいいなら出すから」

「だ、だから、大丈夫だって……たいしたことないし、学校も行ける」

「学校は休まなきゃダメだよ。熱があるんだから」

「だから、熱ないっていってんじゃん」

「あるよ、どう見ても!」

「はーい、はいはい! 私、今日は休む!! 休んで、蓮の看病する!!」

「お前はお前で、何言ってんの。華は、学校行け」

「だって、それじゃぁ、蓮は」

「俺が、看病す」

「「ダメ!! それは、絶対ダメ!!」」

 瞬間、双子の声が、寸分の狂いなく重なった。

 そして、華には、蓮の気持ちが嫌というほどわかった。

 きっと熱もあるし、体もしんどい。
 それは、双子だからこそ、目にしただけで気づけた。

 だけど、その蓮が無理をしてまで学校に行こうとしているのは、お兄ちゃんをデートに行かせるためだ!

「お兄ちゃんは、あかりさんとのデートがあるでしょ!」

「だからって、弟が寝込んでるのに、いくわけないだろ」

「だから、それが、ダメだっていってるんじゃん!」

 すると、バン!とテーブルを叩き、華は更に兄に詰め寄った。

「お兄ちゃんは、絶っっ対、デートに行かなきゃダメ!! 当日にドタキャンなんてしたら、完全に嫌われるじゃん!! それに、蓮の気持ちも分かってあげてよ! お兄ちゃんの足を引っ張りたくないから、無理して学校行こうとしてるんでしょ!」

「………」

 華の言葉に、飛鳥は黙り込んだ。

 蓮が、熱がないと嘘をついてまで、学校にいこうとしているのは、全部、兄のためだ。

 だけど、そのくらいの想像は、簡単につく。

「分かってるよ。でも、それとこれとは話が別だろ。熱があるのに、学校なんて行かせられないし、蓮を一人、ほっとくわけにもいかない」

「だから、私が休むっていってるんじゃない!」

「お前なぁ、そんな理由で、学校を休ませるわけないだろ」

「そんな理由!? 弟の看病の、どこがそんな理由なのよ!?」

「違う、そっちじゃない! 華が、学校休むっていってるのは、俺をデートにいかせるためだろ!」

「そうだよ! だって、そうしなきゃ、お兄ちゃん、蓮の看病するために、あかりさんとのデートことわっちゃうでしょ!」

 兄と双子の姉が、朝から口論を繰り返す。

 そして、その姿を見ながら、蓮は自分の間の悪さを嘆いていた。

(最悪だ……こんな日に、熱出すなんて)

 昨日、雨に打たれながら帰ってきたのが、いけなかったのか、昨晩から寒気がして、朝、目が覚めたら熱が出ていた。

 風邪をひかないよう、帰宅後、すぐに風呂にもはいったというのに、なんで、こうなってしまったのか?

「華も兄貴も……喧嘩なんてしないでよ」

 すると、見かねた蓮が、ついに口を挟む。

 二人とも、俺のために、学校を休むとか、デートはキャンセルするとか、いってくれてる。

 それは、とても嬉しくて、ありがたくて、胸がふんわりと温かくなる。

 まるで、愛されてることを、実感でもするように。
 だけど──

「俺、大丈夫だから、華は学校いって」

「え? でも、熱があるのに!」

「あるけど、寝てればすぐに良くなるよ。それに、もう高校生だし、一人で何とかできる。昼飯だって、テキトーに食うし。それに、華の言う通りだよ。俺、兄貴の足を引っ張りたくない」

「………」

「兄貴はさ、今までずっと、俺たちを優先してくれたよ。まるで、母さんの代わりみたいに、いつも傍にいてくれた。だけど、もういいよ。俺、もう子供じゃないし、一人でも大丈夫だから……それに、いつまでも俺たちのことばかり考えてたら、掴める幸せも掴めなくなる。だから、今日のデート、絶対にいって」

「……っ」

 ハッキリと口にしたその言葉は、妙に重くて、飛鳥は、気だるげな蓮を見つめながら、静かに言葉を噤んだ。

 確かに、蓮は、もう高校生だ。

 もう少ししたら、こされるんじゃないかってくらい背も伸びてきたし、俺におんぶされてた頃のような、小さな小さな子供じゃない。

 なにより、そこまで言われたら、NOなんて言えるはずがなかった。

「うん……わかったよ」

 すると飛鳥は、小さく返事を返し、まずは熱を計ろうと、リビングの引き出しから体温計を取り出した。


 外には、微かな晴れ間が見えていた。
 昨夜の雨があかり、もう雨音すら聞こえないような。

 だけど、心の中には、微かに曇り空が覗いていた。
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