神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

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第11章 恋と雨音

第438話 プランと元カノ

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「おっかえりー!」

 華は、部活をしていないからか、雨が降り出す前に帰宅していた。

 しかも、バスケの練習に励み、雨に晒されながら帰ってきた蓮とは違い、優雅にお菓子を食べているようだった。

「食ってばっかいると、太るぞ」

「うるさいなー! 宿題終わりの息抜きくらい許して──て! 蓮、びしょ濡れじゃない?!」

「帰りに、突然降ってきた」

「折り畳み傘は!?」

「入れてなかった」

「バカじゃん!!」

 雨に濡れて帰宅した蓮の元に駆け寄り、華が呆れたように言い放つ。だが、そうしてバカにしつつも、濡れた弟を、姉である華が心配しないはずがなく

「大丈夫? 風邪ひく前に、お風呂に入ってきたら?」

「うん、そうする。兄貴は? もう、帰ってきたの?」

「うんん。まだ、帰ってきてな」

「ただいまー」

「「!?」」

 だが、その瞬間、ちょうど兄の飛鳥も帰宅した。

 そして、まさか、兄も雨に濡れているのでは!?

 なんてことを想像したが、さすがは用意周到なお兄様!

 蓮とは違い、しっかり折り畳み傘をバッグの中に入れていたらしい。雨でびしょ濡れになることなく、スマートに帰宅した。

「おかえり、飛鳥兄ぃ」

「ただいま……て、お前なんで濡れてんの?」

「傘、忘れた」

「バカじゃん」

 すると、華に続き飛鳥までそういって、蓮は軽くイラついた。

 相変わらず、口の悪い兄姉だ。

 だが、折り畳み傘をバッグに入れ忘れ、オマケに傘を持たずに家を出た蓮に、全ての敗因があるため、反論のしようもなかった。

 しかし、やはり華同様、飛鳥も蓮のことを心配してきた。

「早くシャワー浴びといで。風邪ひくといけないから」

「うん、そうする。あ、兄貴でも華でも、どっちでもいいからさ、俺のバッグとか乾かしといてよ」

「はいはい、俺がやっとくから」

「ありがと。じゃぁ、風呂行って」

クシュッ!──と、くしゃみをしつつ、蓮は、一度部屋にもどると、その後、着替えを持ち脱衣所に向かった。

 すると、リビングで二人だけになった飛鳥と華が、それぞれ別のことをしながら雑談をはじめる。

「華は、濡れなかった?」

「うん、私は雨が降る前に、帰ってきたから!」

「そう。宿題は?」

「終わりました~! それよりさ、明日だよ! あかりさんとのデートの日!」

「そうだけど……それが何?」

「なにって、ちゃんとプラン立てた!? 初デートなんだから、絶対失敗しちゃダメだからね!」

「………」

 まさか妹から、そんな言葉が飛び出すとは。

 飛鳥は、少し戸惑った。

 しかし、プランなんていわれても、あまりプランらしいプランは、思いつかず……

「別に、いつも通り過ごせばいいだろ」

「いつも通りって、初デートだよ!」

「でも、あかりの家では、何度か一緒に過ごしてるし」

「それとこれとは、話が間違うでしょ! 今回は家じゃなくて、外なんだから! それに、ただでさえ、飛鳥兄ぃは、顔が良すぎて目立ちまくるんだから、人目につかないところに入るとかしなきゃ!」

「人目につかないところ? 例えば?」

「えーと、カラオケボックスとか?」

 カラオケ──そう言われ、飛鳥はふむと考える。

 確かに、カラオケは人目にはつかないし、中に入ってしまえば二人っきり。なら、邪魔も入らないだろう。

(でも、あかりって、片方聞こえないし、カラオケとか、騒がしい場所だと、聞きとりづらくて大変なんじゃないかな?) 

 前に、騒がしい場所での会話は、疲れると言っていた。そんな場所に連れていけば、あかりに、無理をさせるだけでは?

 なら、どう考えても、初デートで連れていく場所ではない。

「ダメだよ、カラオケは」

「えー、なんでー!」

「なんででも」

「もー。じゃぁ、どうすんの!?」

「どうするって。そんなの、あかりが行きたいところに、連れていけばいいだろ」

「うわ! なに、そのいきあたりばったりな感じ! 失敗して嫌われてもしらないからね!!」

 すると、またもや辛辣な言葉が飛びだし、飛鳥は口ごもった。

 確かに、嫌われるのは嫌が……

(えーと……俺、昔、どんなデートしてたっけ??)

 すると、ふと昔、ことを思い起こす。

 大体、6年ほど前だ。
 告白されて、女の子と付き合っていたころ。

 だが、最後に付き合った子でも、高一ぐらいまでの話で、軽く見積もっても、もう5年は彼女を作っていなかった。

 だからか、あまりにも遠い記憶になりすぎて、はっきりいって、よく覚えてない。

 というか、あまり楽しい思い出がないのだ。

 彼女たちは、自分のに惹かれて、告白してきた子たちだから──

(デートも何度かしたけど、あまり、ぱっとしなかったな……)

 ドキドキしたり、愛しくなったり、また会いたいと思ったり。

 そんな、ときめくような感情は、一切起きなくて、あっちが、勝手にはしゃいでいるのを見ているだけだった。
 
 なにより、あの頃の自分の優先順位は、何を差し置いても『家族』だった。

 もう、失いたくなくて。
 なにがなんでも守りたくて。

 家族以上に大切なものはなく、家族以上に必要なものもなかった。

 だからこそ、続かなかったのだ。
 彼女たちとは──

「とにかく! ちゃんと考えて、エスコートしなきゃダメだからね! 顔だけ良くても、デートがつまらないとか最悪だし!」 

「お前、ちょっといいすぎじゃない? お兄ちゃん、泣いちゃうよ?」

 すると、またもや手厳しい言葉が飛びだしてきて、飛鳥は、蓮のバッグの中身を取り出しつつ苦笑いをうかべた。

 ここで失敗すれば、というレッテルをはられてしまうのだろうか?

 それは、何としても阻止したい。

(エスコートか……俺は、あかりとデートができるなら、それだけで十分だけど、あかりは、そうではないのかな?)
 
 女の子なら、やっぱりエスコートして欲しいとおもうものなのだろうか?

 なら、やはり、行き当たりばったりなデートだと、嫌われるのだろうか?

 いや、あかりの場合は、少し違うかもしれない。

 だってあかりは、明日のデートで、嫌われようとしているから──

(あかりのやつ、一体、どんなふうに嫌われるつもりなんだろう?)

 蓮のバックから、教科書やノートを取り出しつつ、飛鳥は考え込む。

 隆臣の話では、たいした策はないらしいが、あかりが何を仕掛けてくるのか、それは、ちょっとだけ、楽しみでもあった。

(女の子とのデートが、こんなに楽しみなのは、初めて方も?)

 前の彼女たちと比べるのはよくないが、明らかに、前と今は違った。

 あかりが、何かを企んでいるのかは分からないし、あかりが、嫌われるつもりで行動してくるなら、こちらは、それに合わせて対応すればいい。

 だから、明日のデートは、行き当たりばったりの真剣勝負──それで、いいような気がした。
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