神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ

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【番外編】お兄ちゃんとクリスマス

お兄ちゃんとクリスマス ②

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「神木くーん、橘くん!」

「「?」」

 するとそこに、数人の女子生徒が声をかけてきた。

 隣のクラスの女子達だろう。少し恥ずかしそうに顔を赤らめる女の子たちは、飛鳥と隆臣が座る席の前までくると

「ねぇ、二人とも24日の夜、予定ある? 高校生最後のクリスマスだしさ、みんなでイルミネーション見に行かない?」

「「…………」」

 そのお誘いに、またか──と言わんばかりに、二人は苦笑を浮かべた。

 クリスマス目前になると、呼び出しやら告白やらお誘いやらが、格段に増える。

 しかも今年は、高校生最後のクリスマス。

 大学受験や就職試験を控えた大事な時期とはいえ、それと同時に思い出作りにも一生懸命な時期でもあった。

「ごめんね。俺クリスマスは家族と過ごすことにしてるから」

「え~神木くんダメなの!? じゃぁ、橘くんは?」

「ごめん。俺も家の手伝いがある」

 だが、そんな思い出作りには見向きもせず、2人揃って断りの言葉を述べると、その後女の子達は残念そうにして戻って行った。

「隆ちゃん、家の手伝いってホントなの?」

「嘘だとでもいーてのか? 言っとくけど、マジでクリスマスは忙しいんだよ、喫茶店うちは! お前こそ、クリスマス家族で過ごすとか、見た目リア充のくせに、発言はことごとく非リアだな」

「うるさいな。別にリア充なんて目指してないよ」

 ニッコリ笑顔で反論される。

「てか、今年もたくさん呼び出されてただろ?あの告白、全部断ったのかよ」

「そりゃあ……まー、いつものことだし」

「お前、クリスマス前に恋人が欲しいって嘆いてるヤツらが、どれだけいるとおもってんだ。ほかの男子達が聞いたら、顰蹙ひんしゅくものだぞ」

「そんなの俺の勝手でしょ?それに──」

 頬杖をつくと、飛鳥は窓の外を眺めボソリと呟く──

「俺、クリスマスとか誕生日は、一番大切な人たちと過ごすって決めてるから」




 ◆


 ◇


 ◆



 それから二週間程がたち、世間はクリスマスを迎えた。

 12月24日のクリスマス・イブ。

 街中がクリスマスモードに包まれる中、飛鳥は一人キッチンにたち、黙々と作業を進めていた。

「えーと、次は……」

 昨日買い出してきたケーキの材料を取り出し、ネットで調べたレシピを元にオーブンで生地を焼き、チョコレートクリームを泡立てる。

 すると、少しずつ形になり始めるクリスマスケーキを見つめながら、飛鳥は先日みた、あの夢の続きを思い出していた。

 あの日──

『お兄ちゃんだからって、我慢しなくていいんだからね』

 そう言っていた母は、その年のクリスマス、俺の選んだケーキを作ってくれた。

 イチゴをたくさん使ったクリスマスケーキは

 甘く優しい味がして、母の愛が、たくさんつまっているのが伝わってきて

 そんな母のケーキを囲みながら、みんなでクリスマスを過ごした。

 家族共に笑いあったクリスマスは、とてもとても楽しくて。

 だけど、それが、家族で5人で過ごした、になった。

『華と蓮の食べたいケーキは、来年作ってあげるからね』

 そう言って、華と蓮を抱き上げた母に、優しく俺の頭を撫でてくれた母に

 『来年』は来なくて──……



「……出来た」

 幼い頃の記憶をたどりながら、母の本に載っていた通りにデコレーションし、ケーキを作り上げた。

 ひとしきり奮闘したあと、誰もいないキッチンで、自分が作ったケーキを見つめる。

「まぁ、こんなもんかな」

 一つ息を吐くと、自身の手先の器用さに改めて感心した。

 母に比べたら、まだまだといった所だろうが、それなりに見栄えの良いクリスマスケーキに仕上がりホッとする。

「ただいま~」

 するとそのタイミングで、華と蓮、そして海外に単身赴任中の父が同時に帰ってきた。

「ちょうど家の前で、お父さんに会ったよ!」

「兄貴、これ、頼まれたやつ」

「ありがとう。父さんもおかえり」

「ただいま、飛鳥~。あれ?お前、なに作ってんの?」

 帰ってきて早々、三人が飛鳥を見つめると、その手元をみて侑斗が声を上げた。

「え? うそ! どうしたのこれ! もしかして作ったの!?」

「マジで!? 今年も注文してるのかと思ってたのに!」

「てか、これ、あれだよね!クリスマスにしか売ってない切り株のケーキ!!」

「切り株じゃなくて、まきね。それに、ブッシュ・ド・ノエルって言うんだよ。フランスのクリスマスケーキ」

「えーすごーい!でも、お兄ちゃんどうしたの! 頼まれてもいないのに、自分からケーキ作るなんて!」

 目の前に出来上がっているブッシュ・ド・ノエルの見て華が興奮気味に声を上げると、飛鳥は改めて自分の行動を振り返る。

 考えても見れば、ケーキを作ったのは自分が小6の時の双子の誕生日以来。

 そう考えると、何だか急に恥ずかしくなってきた。

「すごーい!可愛い~! なんか手作りって特別感あるよね~!」

「そうだなー。しかし、クリスマスに手作りのケーキって、なんだか久しぶりだな」

「あれ?クリスマスに手作りのケーキなんて、食べ事あったっけ?」

「………」

 いつも市販のものを注文しているのに?と首を傾げる双子に、飛鳥は目を細める。

(まぁ、覚えてるわけないよな……)

 あの時、まだ2歳だった華と蓮が、母の作ってくれたクリスマスケーキのことなんて、覚えているはずがなく。

「あ、そうだ、お父さん!ご飯とケーキ食べたらさ。みんなでイルミネーション見に行こう!」

 すると、パッと顔を明るくし、華が侑斗に詰め寄りはじめた。

「イルミネーション?この寒い中か?」

「だって、せっかくお父さん帰ってきたんだし。それに、保護者がいないと夜出歩けないもん!」

「あ。俺も見たい」

「ね! お父さん、お願~い!」

「うーん。そうだなー。まぁ…たまには、そういうのもいいかもな」

 華が手を合わせてお願いをすると、侑斗がそれを了承する。


 ◆◇◆


 それから夜になり夕飯をすませ、飛鳥が作ったケーキをみんなで食べると、その後4人はコートにマフラー、それに手袋をして夜の街にくり出した。

 商店街を進み、一際賑わう大通りを通り過ぎ、その先の公園まで歩くと、この街で一番大きく広いその公園は、クリスマス・イブともあり、カップルや若者達で賑わっていた。

 公園の中は、イルミネーションの光で満ち溢れ、中央の噴水は七色の光でライトアップされていた。赤や紫、白に青と色鮮やかなその光は、水が流れる度にキラキラと姿を変え、その幻想的な景色には、自然と息を飲む。

「今日はどうしたんだ? ケーキ作るなんて」

 すると、イルミネーションを見つめる飛鳥に、侑斗が背後から声をかけてきた。

「別に。俺が食べたくなっただけ」

「そっか。じゃぁ、今度俺も練習してみようかなー。たしかお前、イチゴのケーキが好きだったよな」

「…………」

 そう言って、笑う父の瞳はどこか悲しげで……

 なんとなくだけど、母のことを思い出しているのだと思った。

「あ゛~寒い~」

「……!」

 すると、急に腕を掴まれたかと思えば、父と兄の間に割り込み、華がギュッと二人の腕に抱きついてきた。

 身を縮めた華が、甘えるように父と兄に擦り寄ると、飛鳥のもう片方の腕に蓮も抱きつく。

「あ゛ーマジ寒すぎる」

「お兄ちゃん、温めて~凍える!」

「お前達が来たいっていったんだろ?」

 まるで子供みたいに身を震わせながら抱きついてくる双子に、飛鳥は呆れ返る。

 もう中学一年生だというのに、この甘え癖は、未だに治る兆しがない。

 だが……

「兄貴。今日はありがとね。ケーキ作ってくれて」

「え?」

「お兄ちゃんのケーキ、すっごく美味しかった!」

 飛鳥の腕に抱きついたまま、双子が兄を見上げそう言うと、その言葉に、また母のことを思い出した。

『華と蓮の食べたいケーキは、来年作ってあげるからね』

 そう言っていた母のあの言葉を、俺が今になって叶えたところで、何の意味もないかもしれないけど

 それでも──


「そう……なら、良かった」

 喜んでくれたなら、良かった。

 そう、両腕に触れる温もりを感じながら微笑むと、その後、ゆっくりと視線をあげた。

 すると──

「あ……雪」

「あはは。どおりで、寒いわけだな~」

 夜の空からは、ちらちらと雪が降り始めていた。吐く息は自然と白くなり、その気温の低さを実感する。

 それでも、四人で寄り添えば、不思議と温かくて──

「ねぇ、お兄ちゃん。また来年もケーキ作ってよ!」

 すると、華が飛鳥の真横で無邪気に笑った。

 さも当たり前のように「来年」と言い放つ華に、飛鳥は苦笑しつつも、いつも通りの返事を返す。

「嫌だよ、めんどくさい。来年はまた隆ちゃんのところに頼む」

「え~なにそれー! おだてれば登ると思ったのに!」

「猿か、俺は!」

「華、バカだなー。手作りのケーキはたまに食べるからいいんだよ」

「そうそう。それにここぞと言う時に頼めば、飛鳥ならめんどくさいとか言いながら、絶対作ってくれるよ!」

「あー確かに!でもイルミネーション本当、キレイ~。また来年も来れたらいいね。みんなで!」

 冷たい雪がイルミネーションを彩る様は、先程よりも幻想的で、とても美しかった。

 その光景に感嘆しつつ、飛鳥は再度空を見上げると、小さな雪が頬をかすめる中、そっと目を閉じた。

(また、来年も……)

 そんな些細な約束が、なんの意味もなさないことを、俺は嫌という程知っていて

 だけど、それでも

 また来年も、誰一人欠けることなく、家族一緒に過ごせたらって…

 そう、願わずにはいられなくて───

「うん。また、来年も……」

 それは、叶うかもわからない、叶えられるかもわからない──曖昧な未来。

 だけど、それでも……

「また、これたらいいね。家族、みんなで──」

 小さな願いをこめて、聖夜に囁く。

 どうか、この「幸せ」が
 大切な人たちと過ごせるこの「時間」が



 この先も


 ずっとずっと、続きますようにと──…




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