神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

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【番外編】お兄ちゃんとクリスマス

お兄ちゃんとクリスマス ①

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「ねぇ、飛鳥は、どのケーキが食べたい?」

 それは、寒い寒い12月上旬──

 当時、小学二年生の飛鳥は、学校から帰ると母親の"神木 ゆり"に声をかけられた。

「ケーキ?」

「そう、クリスマスケーキ! 今年は手作りにしようと思って」

 コタツに入り、お菓子作りの本をめくるゆりの手元を見つめ、飛鳥はキョトンと首を傾げた。

 見ればその本には、様々な種類のケーキの作り方が載っていた。

 オーソドックスな生クリームケーキにシフォンケーキ、チーズケーキやブッシュ・ド・ノエルなど、クリスマスに作れば子供たちが喜びそうなケーキばかりだ。

「お母さん、ケーキも作れるの?」

「もちろん! ゆりさんこう見えても、レシピさえあれば何でも作れちゃう!」

 自慢げに胸を張るゆり。確かにゆりは手先が器用だからか、頼めば一通りのことは何でもこなしてくれていた。

「凄いね、お母さんの手って、魔法の手みたい!」

「え?……あはは。そっか魔法の手か…そういえば私も昔、お父さんの手を”魔法の手みたい”って思ったことあったなぁ」

「お父さん?」

「あ、義理のじゃないよ。私の本当のお父さん! 私の両親ね。クリスマスとか誕生日とか、そう言った記念日を、凄く大切にする人達だったの。今、自分たちが一緒にいられるのは、決して当たり前のことじゃないからって、記念日には、いつもお父さんがケーキを作ってくれてた」

 幼い頃を思い出し、懐かしそうに微笑む。

「しかも、そのケーキがね~フランスだかイギリスだかで学んで来たみたいで、プロ顔負けのすっごい凝ったケーキ難なく作り上げちゃって! クリームで薔薇作ったり、サンタクロースの砂糖菓子作ったりした時は、マジで魔法見たいだと思った!」

(……砂糖菓子って家で作れるんだ)

 作り方の想像がイマイチつかない。

 だが、両親のことを話すゆりは、なんだかとても、幸せそうだった。

 それに、引き取り先の義理の親のことは『とにかく最低!』とは聞いていたが、本当の両親のことは、初めて聞いた気がした。

「お父さんとお母さんのこと、大好きだったんだね?」

「え?」

 何気なしにそう問いかける。すると、ゆりは

「うん。大好きだったよ。本当に自慢の両親で……だから私も、あの二人みたいに、クリスマスとか誕生日は、一番大切な人たちと過ごすって決めてるの」

 そう言って飛鳥を見つめる、ゆりの雰囲気はとても柔らかいもので、それに、一番大切と言ったゆりの「一番」が、自分たち「家族」のことを言っているのだとわかると、なんだかとても温かい気持ちになった。

「それより、ケーキ! 飛鳥は、どれがいい?今年は飛鳥の好きなケーキ、作ってあげるよ」

「ホント?」

 すると、再びケーキの話題に戻り、飛鳥は再度ゆりが手にした本をみつめた。

 たくさんあるケーキの中から、飛鳥は一つ選ぶと「じゃぁ…」と言ってそのケーキを指さす。

「あ!にーに~」

「!?」

 だが、その瞬間、隣の部屋からバタバタと双子が飛び出してきた。華と蓮は、学校から帰ってきた飛鳥の背にのしかかると

「にーにぃ、あちょぼうー(遊ぼう)」
「あ、ケーキ!」

 すると、ゆりと飛鳥が目にしていた本を見つめ双子が大きく声を上げた。

「きのケーキ!」

「え? 木? あー、ブッシュ・ド・ノエルのこと?」

 双子が同時に指さしたケーキを見つめ、ゆりが答える。

 ブッシュ・ド・ノエルとは、ロールケーキを薪に見立てて作るフランスのクリスマスケーキのことだ。

「しゅごーい!はな、これがいいー!」

「れんもー」

「え!?  いやいや、ちょっと待って華蓮、今年は……っ」

 だが、いきなり飛鳥とは違うケーキを主張しはじめた双子に、ゆりは苦笑いを浮かべた。

 今しがた飛鳥が選んだばかりなのに、これでは…

「いいよ」

「え?」

「俺も、こっちがいい」

 だが、ゆりが困っているのを察したのか、飛鳥は何事もなかったように、双子が選んだケーキを指さしてきた。

 ゆりはそんな飛鳥を見て、一息悩むと──

「よし! じゃぁ、神様に聞いてみよう♪」

「え?」

「「かみちゃま~?」」

 3人が何事かと目を丸くすると、その後ゆりは数十種のっているケーキの一覧を一つ一つ指さしながら、楽しそうに歌い始めた。

「ど・れ・に、し・よ・う・か・な~♪天の神様の~」

 陽気な歌声を聴きながら、子供たちは母が動かす指先を一心に見つめる。

 すると、その歌はしだいにゆっくりになり、最後のフレーズを歌い終えると

「はい!神様にえらばれたのは、イチゴのケーキでした~」

「「えー!!」」

 どうやら選ばれたのは、イチゴのケーキらしい。

 すると双子は、自分たちが選んだケーキとは違うケーキが選ばれ、残念とばかりに声を上げる。

「えーこっちは~?」

「華と蓮が食べたいケーキは来年作ってあげるからね」

「ホント~!」

「うん。ホント!」

 そう言って、優しく華と蓮を抱き上げるゆり。
 飛鳥はそれをみて、少し困ったような表情を浮かべた。

(本当にいいのかな?)

「神様」に選ばれたケーキは、先程、自分が選んだケーキだった。

 だけどそれは、華と蓮が食べたいと言っているケーキではなくて

「飛鳥…」

「!」

 すると、ポンとゆりに頭を撫でられた。

「飛鳥はホント優しいよね。でも、"お兄ちゃん"だからって、我慢しなくていいんだからね」

「……っ」

 そう言って、ふわりと微笑む母の姿に
 胸の奥が熱くなる──

 それは、まるで、心に羽が生えたみたいに、優しくて、温かくて

 それは、遠い日の──母との記憶

 今はもう懐かしい、幼い日の


 ───思い出の記憶。










  番外編

  お兄ちゃんとクリスマス













 ◇◇◇

「おい、飛鳥」

 高校三年生の冬──あれから数年の月日が過ぎ去った、12月上旬。

「飛鳥~。おい、起きろ」

「んー……」

 学校の昼休み時間、昼食を終えうたた寝をしていた飛鳥は、突然隆臣に叩き起こされた。

 朧気な意識で顔を上げると、口元を隠しながら一つ欠伸をする。

「ふぁ~……なに?」

「もうすぐ昼休み終わるぞ」

「え? もうそんな時間?」

「えらく眠そうだな」

「んー昨日の夜、蓮華と遅くまでゲームしてて」

「中学生の妹弟に、夜更かしさせるなよ」

 寝不足の原因を聞き、隆臣があきれ果てる。

 飛鳥の妹弟である、華と蓮はまだ中学一年生。そんな妹弟を巻き込んで夜更かしとは、兄としての自覚がたりないのではないだろうか?

「しかたないだろ。父さんが海外に行ってから、止めてくれる人いないんだから」

「いや、そこを止めるのが、お前の役目だろ」

「えーだって『お兄ちゃん、私たちに負けるのが怖いんでしょ』とか言われたら、再起不能になるまで、叩きのめすしかないじゃん!」

「大人気ねーよ」

 五つ下の妹弟に対し、本気で挑む兄。

 そんな飛鳥に再びため息をついた隆臣を流し見ながら、飛鳥はまた一つ欠伸をすると、先程見た夢のことを思い出す。

(……なんか、すごく懐かしい夢だったな)

 幼い頃の夢。

 まだ、母が────生きていた頃の夢。


「あ。そういえば、お前んち、今年はクリスマスケーキどうするんだ?」

「え?」

 問われた質問に、視線をあげる。

 隆臣の母、美里が経営する喫茶店では毎年クリスマスケーキを販売していた。だからか、神木家は毎年そこでケーキを注文しているのだが…

「あー……今年は、作ろうかな?」

「え?作る?お前が?」

「うん、ごめんね。売上に貢献できなくて」

「それは別にいいが、作れるのかお前」

「大丈夫だよ。前に美里さん直々にケーキ作りの基礎は教わったし、レシピさえあれば、大抵何でも作れるよ♪」

「まー、お前なんだかんだ器用だからな」

 小学生の時、飛鳥が美里にケーキの作り方を教わりに来たことを思い出して、隆臣が感心する。

「神木くーん、橘くん!」

「「?」」

 するとそこに、数人の女子生徒が声をかけてきた。

 

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