神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ

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第14章 家族の思い出

第189話 友達と蒼一郎

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「なんだ、家に呼べる友達いるんじゃん!誰とやったの?」

「え!?」

 瞬間、あかりは自分の失言に気づき、顔を蒼白させた。

 しまった! まさか、ゲームをした相手が「男性」だなんて、口が裂けても言えない!

 もし、そんなことを言ったら、弟から、すぐさま父や母に伝わるだろうし、そして、伝われば──

(絶対、実家に連れ戻される……!)

 あの日、恋人と偽り大野を追い払ってくれた飛鳥と、その後、暫くゲームをして時間をつぶすことになった、あかり。

 だが、はっきりいって、お互いに恋愛感情など一切ないし、彼はただの友人で、やましいことなど一つもない。

 だが、さすがに一人暮らしの娘が、家に男を入れたとなると、今晩にでも、緊急家族会議が開かれそうだ。

「う、うん……たまたまね、が遊びに来たの」

「そうなんだ。大学の人?」

「うん、大学の人」

「へー、どんな人? 可愛い?」

「え? か、可愛い? えーと、可愛いよりは、美人って感じかな? よく本読むみたいで、本を貸してくれて」

「へーそうなんだ。なんだ、それなりに楽しくやってんじゃん!」

「そ……そーね」

 理久から視線をそらし、あかりは目を泳がせる。

 だが、嘘をついたことに多少の罪悪感を感じたが、まぁ、良しとしよう。

 それに、あながち間違ってない。

 実際に美人だし、大学の人だし!

(それに、神木さんて、本当に女友達って感じだし)

 あの見た目のせいか、彼にはあまり危機感を感じない。しかも、彼は自分と同じで「人を好きになれない」らしい。

 それを、わかっているからか、あかりとしても、何とも気が楽なことだった。

「あ、そうだ! 姉ちゃん、一応言っとくけど、友達だとしても、男は絶対家に入れちゃだめだからな!」

「え!?」

 すると、まるで心を読んだかのように、理久がそう言って、あかりはびくっと肩を弾ませた。

「男女の友情は成立するタイプと、しないタイプがいるって、父さんが言ってた! 姉ちゃんは、絶対成立しないタイプだから、気をつけろって! 男友達だと安心させて部屋に上がった瞬間、豹変するやつもいるんだって、姉ちゃんなら、秒で襲われるって!」

「秒!? て、お父さん、小学生の息子に何教えてるの?!」

 まだ、小学生にの弟に、そんな赤裸々な男女の事情を教えているのか!?

 これは、あとで、母経由で、父に問いたださなくてなるまい。

「でも、ホント気をつけろよ。あっちじゃ、頼れる人、誰もいないんだから!」

「う、うん、わかってるよ。(まぁ、神木さんは大丈夫だよね? 実際、何もされてないし)」

 冗談で「押し倒すよ」などと言われたが、自分の危機管理能力を説いていたから、その為だと思う。

「あ……」
「?」

 すると、その雑談を区切るように、少し真面目な顔をした理久が、また声を上げた。

 霊園から暫く歩き、あかりの実家の近くまで来た時、実家の前に、男性が一人立っているのが見えて、あかりは、その場にピタリと足を止めた。

「蒼一郎さん……」

 理久が発したその名を聞いて、あかりは息をつめた。

 自宅の前に立っているのは、背の高い30代半ばの男性。

 髪をオールバックにした爽やかな雰囲気のその男性の名は「高梨  蒼一郎」

「母さん、もう帰ってきてんのかな?」

 家の前に立つ、蒼一郎を観察しながら理久が再び声を発した。

 どうやら、朝、用事があると出て行っていた母が、もう帰ってきているのだろう。

 玄関先で軽く会釈をした蒼一郎が、あかりの実家の中に入っていくのが見えた。

「姉ちゃん……大丈夫?」
「……!」

 その光景を見て、理久が、そっとあかりの手を握りしめた。

「やっぱり……まだ、忘れられない?」

「…………」

 その言葉に、あかりはその瞳に小さく影を宿す。

 忘れられない。
 忘れられるはずがない。

 あんなこと───


「もう少し……外、出とこうか? 蒼一郎さんが、帰ってからでも……」

 そう言って、どこか心配そうにあかりを見つめる理久。

 その姿が、あまりに優しくて、あかりは理久を見つめ、申し訳なさそうに苦笑する。

 きっと、蒼一郎と鉢合わせしないように、気を使っているのだろう。

 姉が、あの日のことを


 また、思い出さないように──



「大丈夫よ、理久」

 だが、あかりは、その後ふわりと微笑むと、理久の手をキュッと握り返した。

 まだ、幼いはずの弟の手が、その瞬間だけ、やたらと逞しく感じた。

 いつもこうして、家族に心配をかけている。

 あの日から、ずっと──

 でも、もう、あの頃のように、泣き崩れることも、笑えなくなることも──ない。

 だって、一人で生きていくと決めた、あの時に


 私はやっと


 前に進めるようになれたんだから──




「本当に、大丈夫かよ」

 だが、どこか疑うような視線を向ける理久に、あかりはまた、苦笑いを浮かべる。

「本当に、大丈夫!」

「それならいいけど……あ、そうだ」

「?」

「姉ちゃん、今日、お風呂どうする? 一緒に入る?」

「…………」

 だが、その後、さも当たり前のように放たれた理久の言葉に

「ちょ、ちょっと理久! あんた今の発言、さすがにアウト!! とてつもなくシスコンこじらせてるように聞こえるから、ホントにやめなさい!!」

「はぁ!? こっちは心配してだけど!! てか、俺シスコンじゃねーし!!」

「シスコンでしょ!? 私の友達みんな言ってる!」

「嘘だろ!?」

「あの、ゴメンね……理久がそうなったの、やっぱり私のせいだよね!? ゴメン、本当にゴメン!」

「謝んな! なんか、すごく恥ずかしくなってきた!」

 家族に心配をかけるあまり、どうやら弟を、超ド級のシスコンに変えてしまったらしい。

 あかりは、目の前の優しすぎる弟の将来に、とてつもない不安を感じたのだった。
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