神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

文字の大きさ
上 下
192 / 507
第12章 二人の母親

第176話 兄妹弟と思い出

しおりを挟む
「きゃぁぁぁぁァ!!?」

 その日の夜。神木家のリビングには、突如悲鳴が聞こえた。半分泣きになりながら、飛鳥の腕にピッタリと抱きつき、離れないのは、妹の華。

 何事かというと、夕食を終えた夜9時すぎ。飛鳥がソファーで一人、本を読んでいると、お風呂から上がった華が、Tシャツにホットパンツといったラフな格好で、飛鳥の隣に腰掛けた。

 そして、何気なしにテレビを付けると、一時期大ブームとなったホラー映画が始まっていて、華は飛鳥の横で一人映画を見始めたのだが、元々、ホラーはあまり得意ではないくせに、見始めてしまうと続きが気になってしまったらしい。

 だが、被害者が増え、恐怖シーンが盛りだくさんになるにつれて、一人分開いていた兄との距離は次第に縮まり、今に至る。

「あぁぁ、やだー! もう、見たくない!!」

「じゃぁ、見るなよ」

「だって~、気になるんだもん!」

 見たくないといいつつ、兄の腕にしがみつき、チラチラとテレビ画面を盗み見る華。
 飛鳥は、それを見て、はぁと深いため息をつくと、その後、手にした本を閉じる。

「華、見たいなら一人でみろ。俺、今から風呂に入るから」

「えぇ!? 何言ってんの!? 無理無理無理!! 一人で見るなんて絶っっ対、無理ぃ!!」

「じゃぁ、消せ」

「それはヤダ!! ていうか、昔は一緒にみてくれたじゃん! 膝の上で抱っこして最後まで一緒にいてくれてたでしょ!! 高校生になっても怖いものは怖いんだよ!!」

「なにそれ、抱っこしてほしいの?」

「違ーーう! 横にいてくれるだけでいいの!! とにかく、しがみつける何かが欲しいの!?」

「じゃぁ、ぬいぐるみでも抱いてろよ」

 喚く華をあしらい飛鳥が立ち上がる。すると、丁度テレビはCMに入っため、先程とは一変して画面が明るくなる。
 
 だが、それでも華は、飛鳥の腕を必死に掴んで、行かないでと縋り付く。

 確かに幼い頃は、怖がる華を抱っこして、ずっと終わるまで側にいてあげた。

 だが、それは華と蓮が、小学生の時の話。

 小さい頃は怖いもの見たさで、怖がる二人をなだめながら見ていたが、苦手なのが分かってからは、我が家で恐怖系ものは自然と見なくなった。

 きっと、今回見てしまったのは、兄が横で本を読んでいたから、安心していたのだろう。

「飛鳥兄ぃ、待ってよ。これ終わるまで一緒にいてー!」

「無理。俺、忙しい」

「忙しくないでしょ! 本読んでたじゃん!?」

「だから、風呂入るんだって」

 そう言って、飛鳥が今度こそ部屋から出ようとすると、そのタイミングで蓮が入ってきた。

「あ、蓮、ちゃうど良かった! 華がホラー映画みたいらしいから一緒に見てあげて。俺は風呂入ってくるから」

 ふると、バトンタッチでもするかのように、すれ違いざまに、飛鳥が蓮の肩を叩く。だが──

「無理無理無理! それだけは、絶っっ対無理!!」

 横をすり抜けようとした瞬間、飛鳥の腕をガシリと掴んで、蓮が青ざめ、飛鳥は眉をひそめた。

「あれ? お前、まだ怖いのダメだったっけ?」

「ダメに決まってんだろ!? 華、お前、なんてもん見てんだよ! 今すぐ消せ!!」

「えー!! 続きが気になるんだよ!! 貞世に引きずり込まれた弟が無事に帰ってくるのか、もう死んでるのか、メチャクチャ気になるんだよ!」

「説明すんな! 眠れなくなる!!」

 ちなみに、神木兄妹弟のホラーに対する、現在の状況は次の通り。

 蓮→見るのも、聞くのも、話すのも嫌。
 全く受け付けないタイプ。

 華→怖いけど見たい。
 でも、誰か側にいてくれなきゃ嫌。
 周りを巻き込むタイプ。

 飛鳥→見るのも、聞くのも、全く平気。
 むしろ、この世で一番怖いものは
  「人間」だと思ってるタイプ。


(そういえば、蓮のやつ、一人は怖いからって、いつも無理して見てたっけ?)

 すると、ふと昔のことを思い出して、飛鳥は苦笑いを浮かべた。

 幼い頃、ホラー映画やアニメの怖いシーンがあると、蓮は一切画面を見ないように、飛鳥の背に顔を埋めていた。

 無理して見なくていいよ、と伝えても、1人になるのはもっと嫌だ!と言いながら、いつも最後まで、華に付き合わされていたのだが

「蓮……後ろに」

「ぎゃぁぁぁ、やめて!! そういう冗談、本当にやめて!!」

「はぁ、まだ、克服してなかったんだ。お前男だろ? もう、高校生だろ?」

「男でも高校生でも、怖いものは怖いんだよ!」

 どこかで聞いたようなセリフいって、今度は蓮が叫ぶ。

「もーどっちでもいいから、早く来てよ!!CMおわちゃう!!」

「「無理」」

 すると、声を合わせて、拒絶の言葉を発する飛鳥と蓮に、華は、信じられないとばかりに罵倒しはじめた。

「ひどーい!! 女の子が怖がってるのに、見捨てるなんて、この薄情者~!! てか、蓮! アンタ、そのままでいいの!? ずっと避けて通るつもり!? いつか彼女ができて、お化け屋敷入りたいとかいったらどうすんのよ?!」

「入りたいなら、一人でいけというから大丈夫!!」

「なにそれ、最低」

 弟の回答に、飛鳥と華が呆れかえる。

 お化け屋敷なんて、彼女との距離を縮めるには、うってつけの場所だろうに、そんな場所に、彼女に一人で行け?

「蓮、流石にお化け屋敷はいれないのは、ちょっと情けない」

「情けない!? そんなにダメなこと!?」

「ダメに決まってるでしょ!! 想像してみなさいよ! 男子がおばけ見て泣きだしたら、百年の恋も冷めるからね!」

「泣かねーよ!! つか、そんなに重要!? お化け屋敷入れるか、入れないかって、そんなに重要!?」

『あぁぁぁぁあああ、呪ってやるぅぅ!!』

「ぎゃぁぁ、CM終わってるじゃん!? 早く消せよ!!」

 いつの間にかCMが終わっていて、主人公の青年に襲いかかる、貞世の姿が画面いっぱいに映し出される。

 蓮はそれを見て、慌ててテレビのリモコンを取ると、プチンと勢いよくテレビを消した。

(かなり重症だな)
(私より弱いなんて)

 それを見て、弟の将来を心配した兄と姉は、哀れむような視線を向ける。

「あ、いいこと思いついた!」

 すると、ぱっと顔を明るくし華が妙案を思いついた!

「ラビットランドの『お化け屋敷』がリニューアルしてるんだって! だから夏休みに三人でいって、蓮のホラー恐怖症、克服しよう!!」

「は?」

 その言葉に、蓮が低い声を発した。

 ちなみに、ラビットランドとは、桜聖市の隣、宇佐木市にある遊園地。

 マスコットキャラクターのウサギのラビリオ君を中心としたショーは、かなり見ごたえがあり、そこそこ賑わっている遊園地なのだが……

「ラビットランドか、俺はパスかな……ラビリオくんに、また追いかけられたら嫌だし」

 だが、そんななか、飛鳥はすかさずパスを出す。

 高校生の頃、双子をつれて、ラビットランドにいった際、なぜかラビリオ君に追いかけられたことを思い出したからだ。

「大丈夫だよ、飛鳥兄ぃ! あの時は変装してなかったから、目立ってたけど。髪まとめて帽子かぶって、ラビリオくんのお面しとけば、もう誰だか分からないよ! これも、蓮のためだよ!!」

「蓮のため……」

「いやいや、兄貴なに迷ってんの!? てか、なんでお化け屋敷入る前提で遊園地行かなきゃならないんだよ!!」

「だから、克服するためでしょ! ねー行こうよ、また三人で!! ゴールデンウィーク、どこにも行けなかったし!」

 その華の言葉に、飛鳥は少しだけ考えこむ。だが……

「いや……やっぱり俺はいいよ」

「えー!」

 また再び、拒否され華がつまらなそうな声を出した。

 少し前から、華は『思い出作りがしたい』などと言い出し、なにかと三人で出かけたがる。

 だが、離れ離れになるのを前提に、あえて思い出作りなんてしたくない。

 だが、その後、酷くシュンとした表情をした華をみて、飛鳥は目を細めた。

 そんなに三人で、でかけたかったのだろうか……?

「はぁ……わかったよ。じゃぁ、遊園地にはいけないけど、夏祭りには一緒にいこう」

「え?」

 あまりに悲しそうな顔にする妹の姿をみて、飛鳥が代案をだしてきた。

 すると華は、それを聞いて、ぱっと顔を明るくすると

「ホント!」

「うん。さかき神社の夏祭りなら、そんなに大規模じゃないしね。だから遊園地は、葉月ちゃんでも誘って、友達と行っておいで……」

「うん、わかった!! ありがとう、飛鳥兄ぃ」

 先程まで怖がっていたのが嘘のように、花のような笑顔を浮かべて喜ぶ、華。

 だが、それは逆に、飛鳥の胸を締め付ける。

 こうして、三人一緒にいられるのは、あと、どのくらいなのだろう。

 華は、思い出をつくりたいなんて言う。

 でも、楽しすぎる思い出は、独りになった時に、酷く心をえぐる記憶となる。

 あの時、閉じ込められていた

 幼い自分が


 そうであったように──




「よし! じゃぁ今回は、友達誘ってラビットランドにいこう~」

「っ……なんで、行く前提で話しが、進んでるんだよ!」

 飛鳥が思い耽っていると、その傍で華と蓮が話はじめた。

 飛鳥はそれを見て、苦笑する。

 もう高校生だ。遊園地にいくなら、兄妹弟でいくよりも、友達と行った方がいい。

「そうだ! 私は葉月を誘うから、蓮は榊くん誘ってよ。せっかくだし、4人でいこう! ダブルデートみたいな感じで!」

「「!?」」

 だが、次に放たれたその言葉に、飛鳥蓮は耳を疑った。

((ダ……ダブルデートって))

 いきなり飛び出したその言葉に飛鳥が眉を顰め、そして、蓮が青ざめる。

(さ、榊と……?)

 そう、蓮は友人である、榊 航太が華に片思いしているのを知っていた。

 それなのに、華は、わざわざ榊を誘って、ダブルデートをしたいなんていっていて……

(まさか……華も……?)

「ね、そうしようよ! お化け屋敷に入るなら仲のいい子の方がいいし! だから、私は葉月と入るから、

「!!?」

 蓮は、榊くんと!?

 まさかの組み合わせだった!!
 男女×2の組み合わせではなく、女×女、男×男の組み合わせだった!

「なんでそうなるんだよ!」

「ていうか、男同士で、お化け屋敷に入って何が楽しいの?」

「楽しさは求めてないよ! だって、克服するために行くんだもの! それに、怖がりの私と蓮が一緒に入っても、意味ないし。葉月と一緒に入って、蓮が万が一葉月に抱きついたら、事件じゃん! でも、榊くんなら、いくらでも抱きつけるよ。なんせ男同士だしね!」

「……………」

 あくまでも、蓮のホラー恐怖症を治すことを大前提に、メンバーを選んだらしい。

 果たしてそれは、ダブルデートといってよいのだろうかか?

「まー……榊くんなら、抱きついても笑って許してくれるんじゃない?良かったね、蓮」

「──て、抱きつくかよ!? てか、待って!! ほんとに行くの!?」

 男女4人で、遊園地にいくなんていいながら、全く色気のない華と蓮。

 そんな、二人を見て飛鳥は

(蓮華が大人になるのは、まだまだ先かなぁ……)

 と、ほっとしたのだった。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...