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第三章
第四話
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レイグンが剣を抜き、襲い来る。
「グレア様!」
私ははっとし、立ち上がって剣を構え、レイグンの攻撃を弾いた。
だが、後方に吹っ飛ばされる。
ラーラが私の後ろに「影渡り」する。
前方にはどっしりと構えたレイグン、後方には立ち上がって杖を構えたノノン、片膝を付いて弓を引いているドマ。
双方睨み合い、時間が静止する。
「怪しいとは思っていた。やっと尻尾を見せたな」
レイグンが言う。
彼の凄まじい気迫に冷や汗が私の頬を流れる。
一切の予断は許されない。
私は人生史上最速で思考を走らせた。
その時、違和感に気付く。
盗賊のガーファが見当たらないのだ。
次の瞬間、右手側から刺さるような殺気を感じ、思わず振り向いた。
闇の中から人影が近づく。
注意を逸らした一瞬でレイグンも急接近する。
私は反射的に剣を振るい、大剣とかち合った。
だが力比べに負け、零れた刃と共にまた後方に吹き飛ばされる。
バランスを崩し、尻餅をついた私が見たのは、目の前に迫る一本の矢だった。
刹那、闇が出現しそれを呑み込む。
私の後方から「闇針」が二本飛び出し、ガーファとレイグンを薙ぎ払う。
ガーファは飛び跳ねて回避し、そのまま木々の中に姿を消した。レイグンも地面に伏せて回避し、低い声を発する。
「やれ、ノノン」
ノノンが頷き、杖から魔力を発する。
刹那、ラーラの「闇針」がぱたりと止む。
「あれ?」
ラーラの戸惑いの声が聞こえた。
「今だよ!」
ノノンの声に応え、矢、剣、影が同時に飛び出す。
私は立ち上がり、ラーラの方に飛ぶ矢を弾き落とす。
レイグン、ガーファとは少し距離がある。ドマは矢をつがえている最中。
ならば、と私は尻餅をついた時に掴んだ拳大の石を思い切り投擲した。
「え?」
石は真っ直ぐノノンに向かっていき、その顔面にめり込んだ。
敵は全員一瞬気を取られた。
「ラーラさん」
「なんですか」
私は笑っていた。
「”焚き火までなら”届きますよね」
意図を感じ取ったラーラもにやりと笑う。
「お易い御用です」
次の瞬間、曇った夜空のもとに存在する、唯一の明かりが消滅する。
人間の目は暗闇に慣れるのに時間を要する。
「闇の中の『闇』使い」。
敵側の中で唯一「魔力探知出来る者」であるノノンの居なくなった現在、その恐ろしさは言うまでもない。
視えない黒い嵐が吹き荒れた。
空が晴れ、星と月の光が惨状を明らかにした。
ドマは身体が丸々消滅し、レイグンは頭部がなく、多少は夜目が効いたのかもしれない、ガーファは全身が蜂の巣になっていた。
石によって鼻と目を骨ごと粉砕され、地面に転がったノノンであったが、彼女はまだ生きていた。手を伸ばして杖を探していた。
私がその首を刎ねた時、何かが金属音を立てて落ちた。
血を拭って見てみると、それは首飾りで、革紐に銀製とみられる剣の標章が括り付けられていた。
これは他のメンバーも身に付けていて、ラーラの鑑定によるとやはり銀製だった。
「銀級ってことですかね」
冒険者には「冒険者協会」が定める等級が存在する。
下から順に、鉛、鉄、銅、銀、金、そしてアダマンタイト。
基本的にどの時代でも「鉄級」から一人前とみなされ、「銅級」が一般的な依頼であれば卒なくこなし、「銀級」が高難易度の依頼も扱える達人、「金級」はもはや英雄であり、「アダマンタイト級」は歴史に名を残すと言われている。
「銀級でもこんなに強いんですね」
「そうですね、私もかなり焦りましたよ」
死はすぐそこにあった。
今後冒険者と出会っても、決して侮ってはならないだろう。
例えそれが「鉛級」であっても。
落ち着いて気付く違和感。私は慌てて掌を隠した。
「グレア様!」
私ははっとし、立ち上がって剣を構え、レイグンの攻撃を弾いた。
だが、後方に吹っ飛ばされる。
ラーラが私の後ろに「影渡り」する。
前方にはどっしりと構えたレイグン、後方には立ち上がって杖を構えたノノン、片膝を付いて弓を引いているドマ。
双方睨み合い、時間が静止する。
「怪しいとは思っていた。やっと尻尾を見せたな」
レイグンが言う。
彼の凄まじい気迫に冷や汗が私の頬を流れる。
一切の予断は許されない。
私は人生史上最速で思考を走らせた。
その時、違和感に気付く。
盗賊のガーファが見当たらないのだ。
次の瞬間、右手側から刺さるような殺気を感じ、思わず振り向いた。
闇の中から人影が近づく。
注意を逸らした一瞬でレイグンも急接近する。
私は反射的に剣を振るい、大剣とかち合った。
だが力比べに負け、零れた刃と共にまた後方に吹き飛ばされる。
バランスを崩し、尻餅をついた私が見たのは、目の前に迫る一本の矢だった。
刹那、闇が出現しそれを呑み込む。
私の後方から「闇針」が二本飛び出し、ガーファとレイグンを薙ぎ払う。
ガーファは飛び跳ねて回避し、そのまま木々の中に姿を消した。レイグンも地面に伏せて回避し、低い声を発する。
「やれ、ノノン」
ノノンが頷き、杖から魔力を発する。
刹那、ラーラの「闇針」がぱたりと止む。
「あれ?」
ラーラの戸惑いの声が聞こえた。
「今だよ!」
ノノンの声に応え、矢、剣、影が同時に飛び出す。
私は立ち上がり、ラーラの方に飛ぶ矢を弾き落とす。
レイグン、ガーファとは少し距離がある。ドマは矢をつがえている最中。
ならば、と私は尻餅をついた時に掴んだ拳大の石を思い切り投擲した。
「え?」
石は真っ直ぐノノンに向かっていき、その顔面にめり込んだ。
敵は全員一瞬気を取られた。
「ラーラさん」
「なんですか」
私は笑っていた。
「”焚き火までなら”届きますよね」
意図を感じ取ったラーラもにやりと笑う。
「お易い御用です」
次の瞬間、曇った夜空のもとに存在する、唯一の明かりが消滅する。
人間の目は暗闇に慣れるのに時間を要する。
「闇の中の『闇』使い」。
敵側の中で唯一「魔力探知出来る者」であるノノンの居なくなった現在、その恐ろしさは言うまでもない。
視えない黒い嵐が吹き荒れた。
空が晴れ、星と月の光が惨状を明らかにした。
ドマは身体が丸々消滅し、レイグンは頭部がなく、多少は夜目が効いたのかもしれない、ガーファは全身が蜂の巣になっていた。
石によって鼻と目を骨ごと粉砕され、地面に転がったノノンであったが、彼女はまだ生きていた。手を伸ばして杖を探していた。
私がその首を刎ねた時、何かが金属音を立てて落ちた。
血を拭って見てみると、それは首飾りで、革紐に銀製とみられる剣の標章が括り付けられていた。
これは他のメンバーも身に付けていて、ラーラの鑑定によるとやはり銀製だった。
「銀級ってことですかね」
冒険者には「冒険者協会」が定める等級が存在する。
下から順に、鉛、鉄、銅、銀、金、そしてアダマンタイト。
基本的にどの時代でも「鉄級」から一人前とみなされ、「銅級」が一般的な依頼であれば卒なくこなし、「銀級」が高難易度の依頼も扱える達人、「金級」はもはや英雄であり、「アダマンタイト級」は歴史に名を残すと言われている。
「銀級でもこんなに強いんですね」
「そうですね、私もかなり焦りましたよ」
死はすぐそこにあった。
今後冒険者と出会っても、決して侮ってはならないだろう。
例えそれが「鉛級」であっても。
落ち着いて気付く違和感。私は慌てて掌を隠した。
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