魔王メーカー

壱元

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第二章 後編

最終話

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 ケンダル王国北部地域で龍の群れを撃退した、レイホーン家二代目当主のレオ・ギリウ・レイホーンは国王よりジャサー辺境伯の位を与えられた。

一族郎党でジャサー地方へと向かう道中、彼らは見たこともない魔物からの襲撃を受けた。

兵士の大半が死亡する中で、レオは自ら剣を抜いて勇猛果敢に闘い、魔物を追い詰めた。

しかし彼自身も魔物の攻撃を受けて動けなくなった。

冷静さを取り戻す中、レオは魔物の身体の貧相な様に気が留まった。

双方ともに滅びかねない状況の中で、レオは魔物に交渉を持ちかけた。

長い対話の末、彼らは合意し、魔法によって契約を結んだ。

レオは魔物の為に十分な食料と魔法の探求に適した環境を与える、魔物はレオの命令に従い、レオとその子孫を守り続ける、という条件の下に。

彼らは互いを優れた本物の戦士だと讃えあった後、傷を癒してから、ともにジャサー地方へと歩いて行った。

 時は流れ、レオには三人の息子が生まれたが、彼自身は難病を患って生死の境を彷徨った後に人が変わったようになり、度重なる暴行によって結果的に息子三人中二人と妻を殺害した後、自らも病の再発によって現世を旅立った。

魔物は魔法を極め、与えられた最上階の部屋から「十分な食料」として城下町の住民の寿命を吸収するだけでなく、「結界」、「物質創造」や「催眠」の術までも獲得していた。だが、「介入するな」という主人の命令と契約の為に息子二人を見殺しにする他なく、自らの能力の限界を感じていた。

生き残った末の子は王となり、若き日の父親にも似て物怖じせず、温和な性格であったことで身分を問わず多くの人々から敬愛された。

しかし、それが仇となって身内に謀反を計画する者は多く、なにより、美しい母親が父親から虐待される様を幼少期に目に焼き付けた彼には、尋常ではない嗜虐性が宿っていた。

「契約」を遵守する為、そして自らの才能を再び検証する為に魔物は数多くの魔具を造り出した。

その中で最も役に立ったのはネックレスであった。

装着者の「洗脳」に加え、その位置情報を作成者に知らせる仕掛けが仕込まれていた。

 さらに時は流れ、代々暗殺稼業を営む一族出身の者で執事として雇った者や、後に「近衛兵」となる、業界で名の通った武人への「結界」の任意展開と作成者への視覚情報の共有を行う装置の埋め込みに成功した。

そのうち、装置の埋め込みは諜報員にも行われるようになり、彼らは各地域に派遣された。

その中で、東部のある村にて魔法を始めとする様々な才能に長けた少女を発見。

また、同時期に近衛兵として勤務開始した、同じく魔法の幼女には「洗脳」が通用しなかった為に雇用しながらも警戒対象とし、行動や与える情報を制限した。

その警戒は正しく、彼女らの接触がジャサー地方の崩壊をもたらすことになった。


「さあ、行きましょうか」

「はい」

天下の謀反人二人は城を脱し、町へと降りてきた。

 城下町は不安に駆られた民衆で溢れていた。

二人は高台に登り、彼らの前に姿を現した。

民衆は「犯人」が想像以上に幼いのを見て困惑していたが、グレアが何かを取り出すや否や静まり返った。

「王は死んだ」

王の首を片手に彼女は言った。

「諸君らに真実を示そう。ジャサー辺境伯とは何者なのか。ジャサー地方とは何なのか」

「絶望」、「憤慨」、「混乱」、「猜疑」、「号哭」…

真実を知った無垢なる人々の反応は様々であった。

「今、諸君らは自由である。諸君らは力を合わせ、議論を行いながら自らの手でこの土地を治めるのだ」

彼らは顔を見合わせたが、そのうちギルドメンバーを中心に統治の萌芽が芽生えつつあるのが見て取れた。

「ここは彼らにまかせましょう」

「そうですね、グレア様」

彼女らは高台を下り、満足げにその場を後にしようとした。

刹那、ラーラは足音が後ろから迫ってくるのを聞いた。

「ラーラ様!」

グレアが飛び出し、それを受け止め、握りしめた。

短剣が彼女の指の皮を深く切り破る。

痛みに耐えながら、グレアは女の首に正拳を叩き込んだ。

骨の砕ける耳障りな音とともに長身の女は倒れた。

よく見ると、それは女中頭のサノーネだった。

「ごめんなさい、グレア様」

ローブの切れ端を手に、ラーラは駆け寄った。

「大丈夫」

グレアはそれを制止した。

「どうせ寝ていれば勝手に治るんですから」

傷は赤々として、脈拍に合わせて鮮血を噴き出していた。


 二人は馬に跨った。

「もうやり残すことはないですよね?」

「当然です」

「ですよね」

じゃあ、とラーラは前を向いた。

「行きましょうか」

「はい!」

グレアの威勢のいい返事が夕空に響いた。

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