104 / 156
第二章 後編
最終話
しおりを挟む
ケンダル王国北部地域で龍の群れを撃退した、レイホーン家二代目当主のレオ・ギリウ・レイホーンは国王よりジャサー辺境伯の位を与えられた。
一族郎党でジャサー地方へと向かう道中、彼らは見たこともない魔物からの襲撃を受けた。
兵士の大半が死亡する中で、レオは自ら剣を抜いて勇猛果敢に闘い、魔物を追い詰めた。
しかし彼自身も魔物の攻撃を受けて動けなくなった。
冷静さを取り戻す中、レオは魔物の身体の貧相な様に気が留まった。
双方ともに滅びかねない状況の中で、レオは魔物に交渉を持ちかけた。
長い対話の末、彼らは合意し、魔法によって契約を結んだ。
レオは魔物の為に十分な食料と魔法の探求に適した環境を与える、魔物はレオの命令に従い、レオとその子孫を守り続ける、という条件の下に。
彼らは互いを優れた本物の戦士だと讃えあった後、傷を癒してから、ともにジャサー地方へと歩いて行った。
時は流れ、レオには三人の息子が生まれたが、彼自身は難病を患って生死の境を彷徨った後に人が変わったようになり、度重なる暴行によって結果的に息子三人中二人と妻を殺害した後、自らも病の再発によって現世を旅立った。
魔物は魔法を極め、与えられた最上階の部屋から「十分な食料」として城下町の住民の寿命を吸収するだけでなく、「結界」、「物質創造」や「催眠」の術までも獲得していた。だが、「介入するな」という主人の命令と契約の為に息子二人を見殺しにする他なく、自らの能力の限界を感じていた。
生き残った末の子は王となり、若き日の父親にも似て物怖じせず、温和な性格であったことで身分を問わず多くの人々から敬愛された。
しかし、それが仇となって身内に謀反を計画する者は多く、なにより、美しい母親が父親から虐待される様を幼少期に目に焼き付けた彼には、尋常ではない嗜虐性が宿っていた。
「契約」を遵守する為、そして自らの才能を再び検証する為に魔物は数多くの魔具を造り出した。
その中で最も役に立ったのはネックレスであった。
装着者の「洗脳」に加え、その位置情報を作成者に知らせる仕掛けが仕込まれていた。
さらに時は流れ、代々暗殺稼業を営む一族出身の者で執事として雇った者や、後に「近衛兵」となる、業界で名の通った武人への「結界」の任意展開と作成者への視覚情報の共有を行う装置の埋め込みに成功した。
そのうち、装置の埋め込みは諜報員にも行われるようになり、彼らは各地域に派遣された。
その中で、東部のある村にて魔法を始めとする様々な才能に長けた少女を発見。
また、同時期に近衛兵として勤務開始した、同じく魔法の幼女には「洗脳」が通用しなかった為に雇用しながらも警戒対象とし、行動や与える情報を制限した。
その警戒は正しく、彼女らの接触がジャサー地方の崩壊をもたらすことになった。
「さあ、行きましょうか」
「はい」
天下の謀反人二人は城を脱し、町へと降りてきた。
城下町は不安に駆られた民衆で溢れていた。
二人は高台に登り、彼らの前に姿を現した。
民衆は「犯人」が想像以上に幼いのを見て困惑していたが、グレアが何かを取り出すや否や静まり返った。
「王は死んだ」
王の首を片手に彼女は言った。
「諸君らに真実を示そう。ジャサー辺境伯とは何者なのか。ジャサー地方とは何なのか」
「絶望」、「憤慨」、「混乱」、「猜疑」、「号哭」…
真実を知った無垢なる人々の反応は様々であった。
「今、諸君らは自由である。諸君らは力を合わせ、議論を行いながら自らの手でこの土地を治めるのだ」
彼らは顔を見合わせたが、そのうちギルドメンバーを中心に統治の萌芽が芽生えつつあるのが見て取れた。
「ここは彼らにまかせましょう」
「そうですね、グレア様」
彼女らは高台を下り、満足げにその場を後にしようとした。
刹那、ラーラは足音が後ろから迫ってくるのを聞いた。
「ラーラ様!」
グレアが飛び出し、それを受け止め、握りしめた。
短剣が彼女の指の皮を深く切り破る。
痛みに耐えながら、グレアは女の首に正拳を叩き込んだ。
骨の砕ける耳障りな音とともに長身の女は倒れた。
よく見ると、それは女中頭のサノーネだった。
「ごめんなさい、グレア様」
ローブの切れ端を手に、ラーラは駆け寄った。
「大丈夫」
グレアはそれを制止した。
「どうせ寝ていれば勝手に治るんですから」
傷は赤々として、脈拍に合わせて鮮血を噴き出していた。
二人は馬に跨った。
「もうやり残すことはないですよね?」
「当然です」
「ですよね」
じゃあ、とラーラは前を向いた。
「行きましょうか」
「はい!」
グレアの威勢のいい返事が夕空に響いた。
一族郎党でジャサー地方へと向かう道中、彼らは見たこともない魔物からの襲撃を受けた。
兵士の大半が死亡する中で、レオは自ら剣を抜いて勇猛果敢に闘い、魔物を追い詰めた。
しかし彼自身も魔物の攻撃を受けて動けなくなった。
冷静さを取り戻す中、レオは魔物の身体の貧相な様に気が留まった。
双方ともに滅びかねない状況の中で、レオは魔物に交渉を持ちかけた。
長い対話の末、彼らは合意し、魔法によって契約を結んだ。
レオは魔物の為に十分な食料と魔法の探求に適した環境を与える、魔物はレオの命令に従い、レオとその子孫を守り続ける、という条件の下に。
彼らは互いを優れた本物の戦士だと讃えあった後、傷を癒してから、ともにジャサー地方へと歩いて行った。
時は流れ、レオには三人の息子が生まれたが、彼自身は難病を患って生死の境を彷徨った後に人が変わったようになり、度重なる暴行によって結果的に息子三人中二人と妻を殺害した後、自らも病の再発によって現世を旅立った。
魔物は魔法を極め、与えられた最上階の部屋から「十分な食料」として城下町の住民の寿命を吸収するだけでなく、「結界」、「物質創造」や「催眠」の術までも獲得していた。だが、「介入するな」という主人の命令と契約の為に息子二人を見殺しにする他なく、自らの能力の限界を感じていた。
生き残った末の子は王となり、若き日の父親にも似て物怖じせず、温和な性格であったことで身分を問わず多くの人々から敬愛された。
しかし、それが仇となって身内に謀反を計画する者は多く、なにより、美しい母親が父親から虐待される様を幼少期に目に焼き付けた彼には、尋常ではない嗜虐性が宿っていた。
「契約」を遵守する為、そして自らの才能を再び検証する為に魔物は数多くの魔具を造り出した。
その中で最も役に立ったのはネックレスであった。
装着者の「洗脳」に加え、その位置情報を作成者に知らせる仕掛けが仕込まれていた。
さらに時は流れ、代々暗殺稼業を営む一族出身の者で執事として雇った者や、後に「近衛兵」となる、業界で名の通った武人への「結界」の任意展開と作成者への視覚情報の共有を行う装置の埋め込みに成功した。
そのうち、装置の埋め込みは諜報員にも行われるようになり、彼らは各地域に派遣された。
その中で、東部のある村にて魔法を始めとする様々な才能に長けた少女を発見。
また、同時期に近衛兵として勤務開始した、同じく魔法の幼女には「洗脳」が通用しなかった為に雇用しながらも警戒対象とし、行動や与える情報を制限した。
その警戒は正しく、彼女らの接触がジャサー地方の崩壊をもたらすことになった。
「さあ、行きましょうか」
「はい」
天下の謀反人二人は城を脱し、町へと降りてきた。
城下町は不安に駆られた民衆で溢れていた。
二人は高台に登り、彼らの前に姿を現した。
民衆は「犯人」が想像以上に幼いのを見て困惑していたが、グレアが何かを取り出すや否や静まり返った。
「王は死んだ」
王の首を片手に彼女は言った。
「諸君らに真実を示そう。ジャサー辺境伯とは何者なのか。ジャサー地方とは何なのか」
「絶望」、「憤慨」、「混乱」、「猜疑」、「号哭」…
真実を知った無垢なる人々の反応は様々であった。
「今、諸君らは自由である。諸君らは力を合わせ、議論を行いながら自らの手でこの土地を治めるのだ」
彼らは顔を見合わせたが、そのうちギルドメンバーを中心に統治の萌芽が芽生えつつあるのが見て取れた。
「ここは彼らにまかせましょう」
「そうですね、グレア様」
彼女らは高台を下り、満足げにその場を後にしようとした。
刹那、ラーラは足音が後ろから迫ってくるのを聞いた。
「ラーラ様!」
グレアが飛び出し、それを受け止め、握りしめた。
短剣が彼女の指の皮を深く切り破る。
痛みに耐えながら、グレアは女の首に正拳を叩き込んだ。
骨の砕ける耳障りな音とともに長身の女は倒れた。
よく見ると、それは女中頭のサノーネだった。
「ごめんなさい、グレア様」
ローブの切れ端を手に、ラーラは駆け寄った。
「大丈夫」
グレアはそれを制止した。
「どうせ寝ていれば勝手に治るんですから」
傷は赤々として、脈拍に合わせて鮮血を噴き出していた。
二人は馬に跨った。
「もうやり残すことはないですよね?」
「当然です」
「ですよね」
じゃあ、とラーラは前を向いた。
「行きましょうか」
「はい!」
グレアの威勢のいい返事が夕空に響いた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!


冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。


巻き込まれた薬師の日常
白髭
ファンタジー
商人見習いの少年に憑依した薬師の研究・開発日誌です。自分の居場所を見つけたい、認められたい。その心が原動力となり、工夫を凝らしながら商品開発をしていきます。巻き込まれた薬師は、いつの間にか周りを巻き込み、人脈と産業の輪を広げていく。現在3章継続中です。【カクヨムでも掲載しています】レイティングは念の為です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる