魔王メーカー

壱元

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第三章

第一話

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「ん…おはようございます」

閑静な森の一画、私は寝袋の中からゆっくりと身体を起こした。

隣で寝ていたラーラは先に目覚め、こちらに背中を向けていた。

「ん? あれ? えっ!?」

私は驚き、一瞬にして意識は鮮明になった。

朝日を逆光として受けた彼女の頭には、大事な何かが欠けていた。

「あ、おはようございます」

ゆっくり振り返り、こちらに微笑み顔を向ける。

正面から見ても、やはりそうだ。

「ラーラ様、角は?」

ラーラの個性であり、アイデンティティでもあるはずの自慢の角一対。それは根元からすっかり消滅していた。

「ああ、切りました」

彼女は言った。

「でも、大事なものじゃ…」

「ええ、でも」

彼女はそう言って私にすっと近づき、肩に手を添え、私を軽く押した。

二人見つめあったまま一緒に寝転ぶ。

「ほら、こうやって貴女と向き合ったまま眠れるから、いいんです」

「…そうですか」

私も思わず笑顔になった。

 

「ねえ」

事前に買っておいたソーセージを小枝に刺し、焚火で炙りながら、ふと話しかけた。

「角が無くなったことで何かしら弊害はないんでしょうか?」

「ああ」

ラーラが枝をくるくる回して焼き加減を調整する。

「実はそれは分からないんです。文献にはそういったことは特に書かれていなかったので問題はないと思いますが」

「なるほど。分かりました」

ならきっと大丈夫ですね、と私は熱々の朝食を口に運んだ。


 再び馬に跨る。

私は気になることがあって、手綱を握る手を止めた。

だがすぐにそれについて意識するのをやめ、目の前の事項に意識を集中した。

目指すはケンダル王国の都、ロー・シテン。

二頭の馬はどこまでも広がる青空の下、薄褐色と新緑の大地を駆けていった。



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