63 / 150
第二章 前編
最終話
しおりを挟む
あいつはまた例の魔法を使った。
再び天地がひっくり返り、私の身体は上に落下開始する。
「これで君の魔力も尽きるでしょ」
確かにそうだ。
向こうは傀儡師にでもなったつもりでほくそ笑んでいる。
この程度で己の勝利を確信している。
だが「現実」は本当にそんなに都合のいいものだろうか?
私は「光槍」を敵の顔面に、というより網膜に照射した。
「うわ」
結界で威力は殺される。だが、烈光はそれ自体が脅威。
案の定、目を焼かれた敵は魔法を解除した。
着地し、素早く「火球」二発を打ち当てると、結界は崩壊した。
だが三発目を放つと、敵は回避し、「火球」で反撃してきた。
私の方も辛うじて回避したが、向こうより不格好だろう。
相変わらず敵に視力はない。だが、その危機回避がまぐれでないことは、その巧みな体捌きから見て取れた。
「俺のお袋は『泰然流』の剣士だ。全盲だが、魔力を読んで全てが分かる。俺はその技を習っていたんだ。お前なんかのヘボい攻撃は当たらないぞ」
敵は再び「絹糸」を放ってきた。
私はまた柱に隠れようとしたが、身体が壁の方に強く引き寄せられた。
自由落下で、どんどん速度が増していく。
これを止める手を画策したが、どれも結界と体力を無駄に消費するだろう。
私は敢えて身を委ねた。
衝撃を緩和し、全ての液体魔力が消費される。
これからは双方「裸」の乱打戦だ。
再び重力が変化し、私は天井に向かって落下する。
同じ手は通用しない。敵もそれを理解し、狙いは他にある。
私が「風射」で落下速度を下げると、敵は案の定「絹糸」を使おうとした。
だから敵の頭上、天井に「穹砲」を放った。
私は飛行の要領で脅威から逃れ、敵は崩落を避けるのに徹した。
柱にしがみつきながら、手と、天井の中に魔力を溜める。
「隠れたつもり? お前の居場所は分かるぞ」
足音が近づく。
だが、私が魔法を使うとそれも止まった。
天井に生えた、立派な氷の棘たち。
瓦礫は落ちず、相手は余裕げに鼻を鳴らした。
「ふん、失敗だったな」
「いや、これでいいんだよ」
私は手にした「光槍」を、天井の「凍棘」に投擲した。
視覚によってしか捉えられないツヤツヤとした質感を持つ氷肌は光線を複雑に反射し、裁きの光のように生身の人間に降り注ぐ。
怠慢と視力の喪失に依る予測失敗。
「見ていたのは、悪神か…」
炎上する人体から、そんな声が聴こえた気がした。
再び天地がひっくり返り、私の身体は上に落下開始する。
「これで君の魔力も尽きるでしょ」
確かにそうだ。
向こうは傀儡師にでもなったつもりでほくそ笑んでいる。
この程度で己の勝利を確信している。
だが「現実」は本当にそんなに都合のいいものだろうか?
私は「光槍」を敵の顔面に、というより網膜に照射した。
「うわ」
結界で威力は殺される。だが、烈光はそれ自体が脅威。
案の定、目を焼かれた敵は魔法を解除した。
着地し、素早く「火球」二発を打ち当てると、結界は崩壊した。
だが三発目を放つと、敵は回避し、「火球」で反撃してきた。
私の方も辛うじて回避したが、向こうより不格好だろう。
相変わらず敵に視力はない。だが、その危機回避がまぐれでないことは、その巧みな体捌きから見て取れた。
「俺のお袋は『泰然流』の剣士だ。全盲だが、魔力を読んで全てが分かる。俺はその技を習っていたんだ。お前なんかのヘボい攻撃は当たらないぞ」
敵は再び「絹糸」を放ってきた。
私はまた柱に隠れようとしたが、身体が壁の方に強く引き寄せられた。
自由落下で、どんどん速度が増していく。
これを止める手を画策したが、どれも結界と体力を無駄に消費するだろう。
私は敢えて身を委ねた。
衝撃を緩和し、全ての液体魔力が消費される。
これからは双方「裸」の乱打戦だ。
再び重力が変化し、私は天井に向かって落下する。
同じ手は通用しない。敵もそれを理解し、狙いは他にある。
私が「風射」で落下速度を下げると、敵は案の定「絹糸」を使おうとした。
だから敵の頭上、天井に「穹砲」を放った。
私は飛行の要領で脅威から逃れ、敵は崩落を避けるのに徹した。
柱にしがみつきながら、手と、天井の中に魔力を溜める。
「隠れたつもり? お前の居場所は分かるぞ」
足音が近づく。
だが、私が魔法を使うとそれも止まった。
天井に生えた、立派な氷の棘たち。
瓦礫は落ちず、相手は余裕げに鼻を鳴らした。
「ふん、失敗だったな」
「いや、これでいいんだよ」
私は手にした「光槍」を、天井の「凍棘」に投擲した。
視覚によってしか捉えられないツヤツヤとした質感を持つ氷肌は光線を複雑に反射し、裁きの光のように生身の人間に降り注ぐ。
怠慢と視力の喪失に依る予測失敗。
「見ていたのは、悪神か…」
炎上する人体から、そんな声が聴こえた気がした。
1
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる