魔王メーカー

壱元

文字の大きさ
上 下
5 / 153
第一章

第四話

しおりを挟む
  ある日、編み物をしながら家にいると、何やら外が騒がしく感じた。

窓からこっそり伺うと、何やら黒いものが見えた。

「うん…?」

それは一見犬のようだった。

でも、決定的な相違点があった。毛並みは逆立ち、目は吊り上がって光っていた。

「エボンウルフ」だ。

普段は森に群れで居るが、稀にはぐれたヤツが村に降りてくるという。

中心部に出現すれば男の人が農具を振り回して追い払うが、我が家とその周辺は村の中でも特に端の方で、畑やそこで作業する人の姿はない。

代わりに、そこには子供たちが居た。

今、私と同世代くらいの男の子が、他の子を背中に匿いながら狼と睨み合っている。

貧弱な一本の木枝を武器に。

 どうする?

私は震えていた。

確かに初めて生で見る「魔物」の姿に恐怖していた。

だが、未知や死への恐れ以上に、葛藤があった。

彼らを見捨てたくない。

それは本心だが、彼らの内少なくとも何人かは、私を憎み、嫌がらせをしてきた子に違いない。

「うわ!」

迷っている間、事態は悪化した。

例の男の子がブーツを噛まれ、身体を引きずられていたのだ。

狼は首を激しく振り、ブーツを荒々しく奪った。そして、それを離すと、遂に彼に飛びかかった。

「『火球パシア』」

空中の狼に直径三十センチメートル程の炎の玉が飛んでいく。

脇腹に当たり、吹き飛んで地面に墜落する。

赤々と発光する自身の側体部を見て相手はパニックに陥り、飛び起き、絶叫しながら森の方へと走っていった。

反撃に遭わなくてよかった。

「大丈夫?」

安堵しながら私が振り返ると、そこには誰も居なかった。

胸騒ぎがした。


 夕方、三人で夕食を食べていた所で、扉が叩かれた。

お父さんが立ち上がる。

きっと以前のように誰かが「勇者」気取りで「悪魔」を懲らしめに来たんだろう。

目立つと決まってこうなるのだ。

「おいグレア、仕立て屋エグの息子のアルクがお前と話したいってよ」

「…断っておいてよ」

「アルク一人だ。本当に話したいだけって言っているぞ」

今までにないパターンだ。

今はお父さんも居て、いざとなったら守ってくれる。

気は進まないが…

「わかった。話してもいいよ」

よし、とお父さんは解錠した。

木の枝で対峙した、あの子だ。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...