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第一章
第二話
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物心ついた時から、私の周りには両親の他に誰も居なかった。
それは、同世代の子たちが自分の意志で私から離れていったからではなく、その子達の周りの大人があれこれ入れ知恵をするからだった。
「悪魔」と。
私は彼らにそう呼ばれている。
ベッドから身体を起こす。
「おはよう」
私の挨拶を聞き、お父さんがこちらを向く。
「おはよう」
お父さんの声を聞き、野菜を刻んでいるお母さんも振り向いた。
「おはよう、グレア。もう少しでご飯が出来るから、顔洗っておいで」
「うん」
ドアを開け、回り込んで裏手にて今朝汲みたての水を前にする。
水面には憎たらしく、愛らしいただ一人の自分の顔が映っている。
大きなツリ目の真ん中にはつぶらな黄金の瞳。まるで誰かに作られたかのように整った細い鼻。ほとんど日焼けしない透き通るような白い肌。そして、太陽に照らされた収穫前の小麦畑の黄金色を宿したウェーブの掛かった髪。
我ながら絶世の美貌といえるものがそこにある。
両手を突っ込み、天然の鏡を乱し、顔の方へと運ぶ。
冷たい。
すっかり目が覚めた。
顔や髪を拭い、ふと見ると、木の幹に隠れ近所の男の子がこちらを覗き見ているのだった。
彼の表情には恐怖と好奇心とのせめぎ合いが伺える。
そしてもっと邪悪な物も。
「はあ」
ため息を一つつくと、私は鈍感な振りをした。
ドアの前まで来てから、急いでバケツの方に引き返した。
予想通り、彼はバケツに手を触れようとしていた。
「わっ」
私の姿を認めると、彼は一目散に逃げていった。
「悪戯しちゃだめ」
今まで、幾度バケツを倒され、お父さんがまた井戸に行く羽目になったか。
私が原因なら、独力で解決したい。
あの二人には迷惑をかけたくない。
「ただいま」
「あら、遅かったわね。もう出来ているから食べちゃって」
「うん」
パン、卵、野菜のスープ。
いつもと変わらない、大好きな朝食だ。
「うまいな」
「うん」
二人の笑顔を見ると、私の方も元気が湧いてくる。
今日一日、精一杯生きたいと思う。
それは、同世代の子たちが自分の意志で私から離れていったからではなく、その子達の周りの大人があれこれ入れ知恵をするからだった。
「悪魔」と。
私は彼らにそう呼ばれている。
ベッドから身体を起こす。
「おはよう」
私の挨拶を聞き、お父さんがこちらを向く。
「おはよう」
お父さんの声を聞き、野菜を刻んでいるお母さんも振り向いた。
「おはよう、グレア。もう少しでご飯が出来るから、顔洗っておいで」
「うん」
ドアを開け、回り込んで裏手にて今朝汲みたての水を前にする。
水面には憎たらしく、愛らしいただ一人の自分の顔が映っている。
大きなツリ目の真ん中にはつぶらな黄金の瞳。まるで誰かに作られたかのように整った細い鼻。ほとんど日焼けしない透き通るような白い肌。そして、太陽に照らされた収穫前の小麦畑の黄金色を宿したウェーブの掛かった髪。
我ながら絶世の美貌といえるものがそこにある。
両手を突っ込み、天然の鏡を乱し、顔の方へと運ぶ。
冷たい。
すっかり目が覚めた。
顔や髪を拭い、ふと見ると、木の幹に隠れ近所の男の子がこちらを覗き見ているのだった。
彼の表情には恐怖と好奇心とのせめぎ合いが伺える。
そしてもっと邪悪な物も。
「はあ」
ため息を一つつくと、私は鈍感な振りをした。
ドアの前まで来てから、急いでバケツの方に引き返した。
予想通り、彼はバケツに手を触れようとしていた。
「わっ」
私の姿を認めると、彼は一目散に逃げていった。
「悪戯しちゃだめ」
今まで、幾度バケツを倒され、お父さんがまた井戸に行く羽目になったか。
私が原因なら、独力で解決したい。
あの二人には迷惑をかけたくない。
「ただいま」
「あら、遅かったわね。もう出来ているから食べちゃって」
「うん」
パン、卵、野菜のスープ。
いつもと変わらない、大好きな朝食だ。
「うまいな」
「うん」
二人の笑顔を見ると、私の方も元気が湧いてくる。
今日一日、精一杯生きたいと思う。
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