魔王メーカー

壱元

文字の大きさ
上 下
2 / 159
第一章

第一話

しおりを挟む
 ケンダル王国、ジャサー地方の東部。

「汎人語」で単に「小さな山」を意味するサバテ山の麓にある名もなきごく小さな村。

その村の中心部に建てられた比較的大きな木造家屋。

蝋燭の火に照らされている赤子を見て、夫は青ざめ、産婆は困惑していた。

未発達ながら既に確認可能な美貌、光沢のある黄金色の産毛。

共に茶髪で、ごく平凡な顔立ちの若夫婦の間にたった今産まれた子と「言い張る」のには無理があった。

そして極めつけは、この静寂。

赤子は鳴き声の一つも上げなかった。

だが決して死産等ではなかった。目を閉じていたが、彼女は着実に呼吸を繰り返していた。

初めての夜を安らかに眠って明かした。


 「グレア」と名付けられたこの娘は順調に、いや、順調「すぎる」程によく育ってしまった。

二歳で流暢に言葉を話し始め、五歳で魔法を使い始めた。

この小さな村には教育機関は愚か、本さえ禄にはない。

本来、教育を受けていない一般人に意図した魔力操作はできないし、それが魔法として認識できる程度にまで到達するのは、五歳から専門教育を受けたとして、せいぜいどんなに早くても十歳頃だ。

魔法というものをまるで遠地のおとぎ話のようにばかり思っていた村人達にも、この異常性は見て取れた。

無知な人々が形成する、小規模で、閉鎖的で、(我々の世界の言葉で形容するなら)前近代的であるといえる社会において、常軌を逸する天賦の才が吸い付けるのは本来与えられるべき「尊敬」「栄光」「羨望」ではなく、その正反対にある、醜く、暗く、歪んだ物であった。

現在十一歳の少女グレアの人生は、既に同情に値するものだった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

念動力ON!〜スキル授与の列に並び直したらスキル2個貰えた〜

ばふぉりん
ファンタジー
 こんなスキルあったらなぁ〜?  あれ?このスキルって・・・えい〜できた  スキル授与の列で一つのスキルをもらったけど、列はまだ長いのでさいしょのすきるで後方の列に並び直したらそのまま・・・もう一個もらっちゃったよ。  いいの?

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

処理中です...