153 / 526
第一部
第十五話 光と影(9)
しおりを挟む
「とりあえず起きるのを待とう」
そう言ってルナは部屋に戻ってベッドに伸びた。
ズデンカはルナを追って付いてきたが、すぐ足を止めた。
ベッドですやすや寝息を立てているルナの姿を見たからだ。
ルナが目を覚ますと、良い匂いが鼻を突いた。
「何だろう。すごく美味しそうだ」
シチューだ。
ルナの大好物の一つだ。
ルナは部屋を出て歩いていった。
台所にはカルメンとズデンカが立っていた。
二人が振り返る。
「やっと起きたか。何時間眠ってるんだよ」
ズデンカは呆れた。
「ルナさんがシチュー好きって聞いたから二人で街へ出かけて材料買ってきたんだぁよ」
「カルメン、身体は大丈夫なの?」
ルナは心配して聞いた。
「このとぉりぃ、もう元気だぁよ!」
と言ってカルメンはぶんぶん尻尾を振り回した。
「キノコも採ったぞ!」
ズデンカは籠一杯のキノコを差し出した。
「でも君、これってさぁ、毒キノコじゃないの?」
ルナはズデンカを訝しむ目で見た。
「カルメンに聞いてちゃんと摘んだぞ」
ズデンカは立腹したようだった。
「何年もこの山で暮らしてきたあたしだよぉ、心配しないでぇ」
カルメンは胸をポンと叩いた。
「でも、君の料理でしょー?」
ルナはズデンカに言った。
ご存じの通り、ズデンカは料理が余り上手くない。
味見を出来ないのだから当然だ。とは言え長年の修練で簡易なメニューぐらいなら作れる力量はあるのだが。
「あたしも手伝ってるから大丈夫ぅ!」
カルメンはさらに太鼓判を押した。
「うーん」
モヤモヤした思いを消せないまま、ルナは椅子に坐った。
ルナ自身は料理がまるで出来ない。出来たとして全部火を入れて黒焦げにしてしまう。自分でも何とかならないかと努力はしてみたが、黒焦げの数が増えるばかりだった。
「お前は火を入れ過ぎなんだよ」
とズデンカから嗤われるが、幾らでも入られる続ける自信があった。
何か、おかしい。
――人間としてどこかポンコツなんだろう。
たまに台所に立つ機会がありでもすれば、ぼうっとして立ち尽くしてしまう。
――偉人に料理を作った人は歴史に残らない。
以前自分が吐いた言葉を反芻した。偉人と自分を比べるのはいささか腰が引けたが。
恥ずかしさを感じはしたが結局そのままにして旅をしてきていた。
でも、今回色々あってそれを考え直す機会も増えた。
――して貰うだけじゃダメなんだ!
「わたしも手伝うよ!」
ルナはそう言ってがばっと立ち上がった。
「生憎だが、もう出来上がってるぜ!」
ズデンカは熱々の皿を素手で持って歩いてきた。
「うーん」
ルナはしょんぼりした。
「何だよ、食いたくないのか?」
と言ってズデンカはルナの前に皿を置いた。
グーッ。
思わずお腹が鳴ったルナはスプーンを取り上げるとシチューにがっつき始めた。
「よっぽど腹が減っていたんだな」
ズデンカは腕を組んでいた。
「おかわり!」
ルナは空の皿を持ち上げた。
「もう食べたのかよ!」
早く掻き込み過ぎて口の中をちょっと火傷していたが、食欲は一皿程度では収まらない。
ズデンカは何も言わず皿を下げてまたシチューをいれてくれた。
「ありがとう!」
ルナは目を輝かせながらまたがっついた。
「礼が言えるようになっただけましだ」
「おいひいよ。キノコも」
ルナな頬張りながら言った。
「毒じゃないだろ?」
ズデンカは嬉しそうだった。
「君は食べれないでしょ」
「人が美味しいって言いながら食べてるとこを見るのはいいもんだ。ルナも誰かに作って見ろよ」
「……」
ルナは自分も手伝おうと思ったことを伝えたかったが我慢した。
そう言ってルナは部屋に戻ってベッドに伸びた。
ズデンカはルナを追って付いてきたが、すぐ足を止めた。
ベッドですやすや寝息を立てているルナの姿を見たからだ。
ルナが目を覚ますと、良い匂いが鼻を突いた。
「何だろう。すごく美味しそうだ」
シチューだ。
ルナの大好物の一つだ。
ルナは部屋を出て歩いていった。
台所にはカルメンとズデンカが立っていた。
二人が振り返る。
「やっと起きたか。何時間眠ってるんだよ」
ズデンカは呆れた。
「ルナさんがシチュー好きって聞いたから二人で街へ出かけて材料買ってきたんだぁよ」
「カルメン、身体は大丈夫なの?」
ルナは心配して聞いた。
「このとぉりぃ、もう元気だぁよ!」
と言ってカルメンはぶんぶん尻尾を振り回した。
「キノコも採ったぞ!」
ズデンカは籠一杯のキノコを差し出した。
「でも君、これってさぁ、毒キノコじゃないの?」
ルナはズデンカを訝しむ目で見た。
「カルメンに聞いてちゃんと摘んだぞ」
ズデンカは立腹したようだった。
「何年もこの山で暮らしてきたあたしだよぉ、心配しないでぇ」
カルメンは胸をポンと叩いた。
「でも、君の料理でしょー?」
ルナはズデンカに言った。
ご存じの通り、ズデンカは料理が余り上手くない。
味見を出来ないのだから当然だ。とは言え長年の修練で簡易なメニューぐらいなら作れる力量はあるのだが。
「あたしも手伝ってるから大丈夫ぅ!」
カルメンはさらに太鼓判を押した。
「うーん」
モヤモヤした思いを消せないまま、ルナは椅子に坐った。
ルナ自身は料理がまるで出来ない。出来たとして全部火を入れて黒焦げにしてしまう。自分でも何とかならないかと努力はしてみたが、黒焦げの数が増えるばかりだった。
「お前は火を入れ過ぎなんだよ」
とズデンカから嗤われるが、幾らでも入られる続ける自信があった。
何か、おかしい。
――人間としてどこかポンコツなんだろう。
たまに台所に立つ機会がありでもすれば、ぼうっとして立ち尽くしてしまう。
――偉人に料理を作った人は歴史に残らない。
以前自分が吐いた言葉を反芻した。偉人と自分を比べるのはいささか腰が引けたが。
恥ずかしさを感じはしたが結局そのままにして旅をしてきていた。
でも、今回色々あってそれを考え直す機会も増えた。
――して貰うだけじゃダメなんだ!
「わたしも手伝うよ!」
ルナはそう言ってがばっと立ち上がった。
「生憎だが、もう出来上がってるぜ!」
ズデンカは熱々の皿を素手で持って歩いてきた。
「うーん」
ルナはしょんぼりした。
「何だよ、食いたくないのか?」
と言ってズデンカはルナの前に皿を置いた。
グーッ。
思わずお腹が鳴ったルナはスプーンを取り上げるとシチューにがっつき始めた。
「よっぽど腹が減っていたんだな」
ズデンカは腕を組んでいた。
「おかわり!」
ルナは空の皿を持ち上げた。
「もう食べたのかよ!」
早く掻き込み過ぎて口の中をちょっと火傷していたが、食欲は一皿程度では収まらない。
ズデンカは何も言わず皿を下げてまたシチューをいれてくれた。
「ありがとう!」
ルナは目を輝かせながらまたがっついた。
「礼が言えるようになっただけましだ」
「おいひいよ。キノコも」
ルナな頬張りながら言った。
「毒じゃないだろ?」
ズデンカは嬉しそうだった。
「君は食べれないでしょ」
「人が美味しいって言いながら食べてるとこを見るのはいいもんだ。ルナも誰かに作って見ろよ」
「……」
ルナは自分も手伝おうと思ったことを伝えたかったが我慢した。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
御機嫌ようそしてさようなら ~王太子妃の選んだ最悪の結末
Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。
生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。
全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。
ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。
時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。
ゆるふわ設定の短編です。
完結済みなので予約投稿しています。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる