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第一部
第十五話 光と影(10)
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「お前はまあ苦手だしな、凄いまずいものしか作れん」
「……わたしだって!」
ルナは思わず声を荒げた。
「へえ、お前もちっとは成長しようって思ったのか」
「そんなんじゃないよ! でも……」
ルナは言葉に詰まった。
――言い訳が思いつかない。成長しようと思っているわけではない。たんに自分の身の回りのことは自分で出来るようになりたいだけだ。
「お前は苦手なことが多いんだから無理にやらなくてもいい」
ズデンカはきっぱりと言った。
――言葉にしていないのに、ちゃんとわたしの意を汲んでいる……。
ルナはずっと一緒にいることの恐ろしさを改めて感じた。
黙々と食事を続けシチューをすっかり食べ終えてしまった。もちろん、いつの間にかズデンカが用意していたパンも一緒に。
「今はカルメンもいるんだし、どうするか決めろ」
「そうだ! それがあった」
ルナはポンと柏手を打って立ち上がった。
「ねえ、カルメン。わたしたちはスワスティカの残党連中から狙われている。それは今回の件ではっきりしたろ。だから、君にもやつらの手が及ぶかも知れない」
ルナはカルメンに向き直って真剣な面もちを作って言った。
「あたしは別に構わないけどねぇ」
カルメンは飽くまで暢気そうだった。
「そうもいかないんだよ。ここにいたらまた襲われるかも知れない」
「逃げれば大丈夫だよぉ」
「逃げるってあいつらには特殊な力を仕える人間がいるんだ。どこだって追ってくるよ……それもこれもわたしが……」
ルナは口ごもった。幼い日にハウザーに実験台にされ、そこから親衛部特殊工作部隊が作られたことは、断定こそ出来ないが十分可能性があり得ることなのだ。
それは自分が巡り巡ってカルメンに脅威となっているということではないか。
ルナは罪悪感を覚えていた。多分それがこんなにもカルメンを他の場所に連れ出そうと思っていることに通じているのだろう。
「あたしはここにずっといたからねえ。住みやすいしぃ」
「じゃあ、どうすればいいんだよ!」
ルナは感情的になっている自分に気付いた。
「ルナさんは何もする必要ないよ。あたしがいたいだけだからね」
自分がしたいからする、ルナも好きな言葉だった。
それで、ようやく諦めがついた。
「わかったよ。でも、お願いは一つ叶えさせて貰う、何がいい?」
ルナは身を乗り出して訊いた。
――今度は絶対に叶えないと。
「でもぉ、ほんとになんもないからねぇ。あ、そうだぁ!」
カルメンはにこりと口角を上げた。
「なんだよ! 早く教えてよ!」
「旅に出るんでしょ、ならぁお土産買ってまた帰りにでもよってよぉ!」
「……なんだ、そんなことか」
ルナは拍子抜けした。
それでも、願いは願いだ。
「もちろん、叶えてあげるよ!」
「よかったな」
ずっと黙って観察していたズデンカはほっとしたのか胸を撫で下ろしていた。
翌朝を迎えた。
ルナたちは旅立つことにした。
縄梯子はまたズデンカが運んでくれた。しかも一瞬のうちに。
馬車は街にあるので、歩いて帰らないと行けない。
――でも、今はズデンカと二人だから安心だ。
「それじゃあ、また来てねえ!」
尻尾を振り回しながらカルメンは別れを告げた。
「うん! またね!」
ルナはも大きく手を振って答えた。
ズデンカとルナは二人だけで歩いた。
三日ぶりに。
「本当は三人で旅しようかなって考えてただろ」
「――うん」
「あたしも仕方ないかって思ってはいたんだぜ。お前があんなにこだわるし。気楽な二人旅もこれでおしまいかってな」
ズデンカは苦笑しながら言った。
「だから胸を撫で下ろしたんだ」
ルナはクスッとした。
「ん? そんなことしてねえよ」
とは言いながらズデンカはルナの手をギュッと握った。
ルナも握り返した。
「……わたしだって!」
ルナは思わず声を荒げた。
「へえ、お前もちっとは成長しようって思ったのか」
「そんなんじゃないよ! でも……」
ルナは言葉に詰まった。
――言い訳が思いつかない。成長しようと思っているわけではない。たんに自分の身の回りのことは自分で出来るようになりたいだけだ。
「お前は苦手なことが多いんだから無理にやらなくてもいい」
ズデンカはきっぱりと言った。
――言葉にしていないのに、ちゃんとわたしの意を汲んでいる……。
ルナはずっと一緒にいることの恐ろしさを改めて感じた。
黙々と食事を続けシチューをすっかり食べ終えてしまった。もちろん、いつの間にかズデンカが用意していたパンも一緒に。
「今はカルメンもいるんだし、どうするか決めろ」
「そうだ! それがあった」
ルナはポンと柏手を打って立ち上がった。
「ねえ、カルメン。わたしたちはスワスティカの残党連中から狙われている。それは今回の件ではっきりしたろ。だから、君にもやつらの手が及ぶかも知れない」
ルナはカルメンに向き直って真剣な面もちを作って言った。
「あたしは別に構わないけどねぇ」
カルメンは飽くまで暢気そうだった。
「そうもいかないんだよ。ここにいたらまた襲われるかも知れない」
「逃げれば大丈夫だよぉ」
「逃げるってあいつらには特殊な力を仕える人間がいるんだ。どこだって追ってくるよ……それもこれもわたしが……」
ルナは口ごもった。幼い日にハウザーに実験台にされ、そこから親衛部特殊工作部隊が作られたことは、断定こそ出来ないが十分可能性があり得ることなのだ。
それは自分が巡り巡ってカルメンに脅威となっているということではないか。
ルナは罪悪感を覚えていた。多分それがこんなにもカルメンを他の場所に連れ出そうと思っていることに通じているのだろう。
「あたしはここにずっといたからねえ。住みやすいしぃ」
「じゃあ、どうすればいいんだよ!」
ルナは感情的になっている自分に気付いた。
「ルナさんは何もする必要ないよ。あたしがいたいだけだからね」
自分がしたいからする、ルナも好きな言葉だった。
それで、ようやく諦めがついた。
「わかったよ。でも、お願いは一つ叶えさせて貰う、何がいい?」
ルナは身を乗り出して訊いた。
――今度は絶対に叶えないと。
「でもぉ、ほんとになんもないからねぇ。あ、そうだぁ!」
カルメンはにこりと口角を上げた。
「なんだよ! 早く教えてよ!」
「旅に出るんでしょ、ならぁお土産買ってまた帰りにでもよってよぉ!」
「……なんだ、そんなことか」
ルナは拍子抜けした。
それでも、願いは願いだ。
「もちろん、叶えてあげるよ!」
「よかったな」
ずっと黙って観察していたズデンカはほっとしたのか胸を撫で下ろしていた。
翌朝を迎えた。
ルナたちは旅立つことにした。
縄梯子はまたズデンカが運んでくれた。しかも一瞬のうちに。
馬車は街にあるので、歩いて帰らないと行けない。
――でも、今はズデンカと二人だから安心だ。
「それじゃあ、また来てねえ!」
尻尾を振り回しながらカルメンは別れを告げた。
「うん! またね!」
ルナはも大きく手を振って答えた。
ズデンカとルナは二人だけで歩いた。
三日ぶりに。
「本当は三人で旅しようかなって考えてただろ」
「――うん」
「あたしも仕方ないかって思ってはいたんだぜ。お前があんなにこだわるし。気楽な二人旅もこれでおしまいかってな」
ズデンカは苦笑しながら言った。
「だから胸を撫で下ろしたんだ」
ルナはクスッとした。
「ん? そんなことしてねえよ」
とは言いながらズデンカはルナの手をギュッと握った。
ルナも握り返した。
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