メサイアの灯火

ハイパーキャノン

文字の大きさ
上 下
57 / 405
運命の舵輪編

真摯な思いと愛情と

しおりを挟む

 “彼”ならば、きっとこう言ったと思う、仮に何かあったとしても。

 そして“彼女”もきっと、そんな彼の事を喜んで求めて受け入れたと思う。

 だって彼の事を愛していたから。
ーーーーーーーーーーーーーー
 一応だが、メリアリアが元の姿に戻ってから(と言うよりも元の姿に戻れる目安が付いた段階から)一ヶ月程度が過ぎていたがこの間、二人の間で何度か、気まずさを伴った沈黙が流れる事があった。

 せっかく結ばれ直した、と言うのにその原因は何だったのか、と言うとそれは蒼太の側にあった、彼には一つ、気掛かりな事があったのだ。

 それはつまり、“自分がいない間に、メリアリアが大変な目にあって来たのでは無いか”と言うそれだったが、彼だって18歳になってこう言う世界に住んでいるのだから、嫌でも色々と考える事は多かった。

 ましてやメリアリアの場合は、仲間が付いているとは言えども熟(こな)す任務が任務なのだ、例えばその途上で誰かに性的な乱暴を受けたとか、辱めを受けたりだとか、そう言うことが有ったって、決して不思議な事では無かった。

 だがその事が気になってはいたものの果たして、ズバリ口にして良いものかどうかも迷っていたのだ、それはそうだろう、誰だってそんな記憶をフラッシュバックされたくないに決まっているし、蒼太も現にさせたくなかった。

 断っておくが、蒼太は別に“だから愛せない”等と言うつもりは毛頭無かった、寧ろ逆だ、“そんな辛い目にあっていたのなら、自分が忘れさせてやる”、そう思っていたのだ。

 だがその為にはやはり、彼女に聞かざるを得ない、前に一度、まだメリアリアがメリーニだと名乗っていた頃、つまりはまだ、蒼太が彼女の正体について確証を持てずにいた頃に、気になった余りに彼女の身体を勝手にスキャンしてみた事はあったが、今考えるとあれもかなり失礼な話だったと思う。

 だって自分自身の身体を、それも中からいきなり覗き見られる等、女子からして見れば堪ったモノでは無かっただろうが蒼太にしてみればそれを黙っていられる方がよっぽど堪(こた)える事だった、彼氏なのに、しかもすぐ側に居るのにも関わらずに彼女の一番の苦しみを解ってあげられないなんて、何の救いの手立ても打てないなんて悲しすぎるし、それは無いだろう、と思っていたのだ、それはやはり違うのでは無いか、と思っていたのだ。

 それにどっちみち、彼女に直接問い質さざるを得なかった、何故ならばあの時、即ちメリーニの時とメリアリアに戻った今現在とでは身体の状況や波長が違ってしまっているために、彼女のことを理解するためにはもう一度スキャンし直さなければならないが、それをすれば必ず、メリアリアには解ってしまうのだ、如何に彼氏と言えども緊急の必要があってやむを得ない場合はともかく、本人の許可も無いのに余り何度もそう言う事をするべきでは決して無かった、だから。

「メリー・・・」

 ある日、蒼太は思い切ってメリアリアに尋ねてみた、余計に傷付けることになるかも知れないと、それについての覚悟と、申し訳なさとを抱きながら。

「蒼太・・・?」

「この1ヶ月間、ずっと気になっていたんだけれど・・・。もしかしてメリー、誰かに傷付けられたりしていた事は無いか?」

「え・・・っ!?」

「いや、だからその・・・。誰かに、性的な虐待を受けていたりだとか、そう言った事は無かったのかな、って思ってさ・・・」

 でも、と蒼太は力強く言い放った、彼女を抱き寄せて、しっかりと受け止めながら。

「誤解しないで。別にだから、何てことはない、ただもし。それで辛い思いをしていたのなら、僕が忘れさせてやる!!だから安心して良いんだ、安心して・・・」

 全てを話すんだ、と彼が言い切った時に、メリアリアは最初、その青空色の瞳をパチクリとさせて驚いたように聞き入っていたが、やがてー。

「・・・ぷっ」

 あはははははははははっ、と声を挙げて笑い始めた、ビックリしてしまった、彼女だってこの1ヶ月間の彼の様子は気になっていたけれど、まさかそんな事を言われるとは、そしてそんなにまで自分の事を心配してくれていたとは、思いも寄らなかったのである。

「ひょっとして・・・。ずっとそれ、気にしてたの?」

「う、うん。ええっ?いや、だって・・・」

「あっはははははははっ!!」

 呆気にとられる蒼太に対して、メリアリアは笑いながらも、それでも首筋に抱き着いて来た、心配しないで、とそう告げて。

「私は、あなた以外に抱かれたりはしないわ。自分自身に、触れさせた事も無いから。だから大丈夫だから・・・」

「あ、ああ・・・。そ、それならいいんだけれど、さ?」

 とまだ何処か釈然としない蒼太だったが、取り敢えずは彼女の言うことを信じることにした、それに“関係ない”とも思った、だって自分はメリアリアの事を愛しているし、メリアリアもそれを受け入れてくれている、応えてくれているのだ、否、それどころか。

 拒絶されていないどころか、自分から求めてさえ来てくれているのだ、であれば別に問題ないではないか。

(傷があったとしても、その内にきっと癒えるだろう、いいや癒してみせる!!)

「でも、有難う蒼太」

 大好きと、内心で決意を新たにする恋人に再び抱き着いて、メリアリアはその唇に口付けをする。

 幸いにして、特に彼女がそうした辛い思いを味わった事は無かったけれど(色々と大変な目には遭ったが)、それでも蒼太は“愛する”と言ってくれた、“構わない”と言ってくれたのである。

 そんな彼氏の言葉と態度と何より心に、“やっぱり”と彼女は改めて、ここが自分の居場所なんだと、帰ってくる場所なんだと確信していた、蒼太は仮に、自分に何があっても愛してくれるだろう、前々からそう言っていたし、今回もまたそれを証明してくれた訳だ。

「蒼太好き、大好き!!」

 愛してるわ、とメリアリアは蒼太に何度も囁いては、その度に唇に唇を重ね続ける。

 その瞳からは知らず知らずの内に涙が溢れて来ていたのだが、もし仮に、本当に何かあったのだとしても、この人に抱かれている間は、きっと自分は全てを忘れていられるだろう、いいや、それどころか。

 その内に、まだ見ぬ奇跡だって起きるかも知れない。

(この人とだったら、きっと。ううん、絶対に空だって飛べるわ、絶対に、いつか・・・!!)

 何があっても離れまいと、固く心に、魂に誓いながらもメリアリアはそのまま、今日も恋人との目眩(めくらめ)く官能と愛欲の世界へと落ちて行き、彼と一つに解け合って行く。

「蒼太、寒いわ」

 温めて?とそう告げて、自らの身と心とを、魂ごと彼へと差し出して、その逞しい腕の中へと飛び込んで行った。
ーーーーーーーーーーーーーー
 この後。

 蒼太君からのそんな真摯で深い愛情と心に触れたメリアリアちゃんにはある変化が現れ始めます。

 どうなって行くのか、乞うご期待下さい。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

思い付き短編集

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:121

【短編集】あなたの身代わりに

恋愛 / 完結 24h.ポイント:631pt お気に入り:579

職も家も失った元神童は、かつてのライバルに拾われる

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:234pt お気に入り:34

いっぱいの豚汁

児童書・童話 / 完結 24h.ポイント:234pt お気に入り:0

限界集落で暮らす専業主婦のお仕事は『今も』あやかし退治なのです

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:710pt お気に入り:1

婚約破棄の翌日に謝罪されるも、再び婚約する気はありません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,616pt お気に入り:6,427

処理中です...