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第5章
第118話 新王国
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「さて、城は奪った。次は王都周辺の奪取だな」
敷島家当主の良照が死んだことを確認した重蔵は、玉座に座って天祐とオリアーナに話しかける。
多くの部下を配置しているので、一番難関な王城さえ奪取できれば王都を手に入れることは難しくない。
そうなると、次は周辺領地を手に入れるために動く必要がある。
「でも、ちゃんと周辺貴族たちの動きは把握しているんでしょ?」
「もちろん」
オリアーナの問いに、天祐が返答する。
王都が敷島に奪われたと知れば、周辺領主の貴族たちが黙っていない。
しかし、重蔵が良照に言ったように、いつでも始末できるように息のかかった者を側に置いているため、もしも兵を集めて王都に向かって来るようなら、たどり着く前に不慮の死を遂げることだろう。
「できれば数人は生かして、私の方に寄越してもらえないかしら?」
「それはいいが……何故だ?」
「実験体にしたいの」
重蔵としては、敵対する・しないに関わらず、全員捕えるなり殺すつもりでいる。
そのままにしておく訳にもいかないので、捕えた者は管理するつもりでいるが、オリアーナには何か考えがあるのだろうか。
気になった重蔵がその理由を問いかけると、オリアーナは平然と答えを返した。
「……まだ何か研究するのか?」
元々、オリアーナは良照を殺すために生物兵器の研究を続けていたはず。
その思いが達成された今、重蔵としてはこれ以上研究する意図が分からない。
「私の研究はまだ完成ではないわ」
「我々の配下の者たちは大幅に実力が上がったが?」
アデマス王国を奪い取る計画はしていたが、それを実行するには実力のある配下の数が足りなかった。
それを解消する手段が、オリアーナが作り出し、菱山家の奈美子が使用した強化薬だ。
その強化薬を使用することにより、本来敷島内では実力不足と言われるような者たちも、一端の戦闘力を有することができた。
これ以上研究するようなことがあるのかと、重蔵は疑問に思う。
「あの強化薬は敷島の者専用で、一般人には使用できないじゃない?」
「あぁ……」
重蔵配下の者たちが使用している強化薬は、あくまでも敷島の人間に使用することを前提に作られたものだ。
幼少期から戦闘のエリート教育を受けていることから、敷島の者は実力が無くても強靭な肉体をしている。
そのため、あの強化薬に耐えられるが、敷島以外の人間ではそうはいかない。
耐えられる者もいるだろうが、多くの者は肉体が耐えられずに力尽きてしまう。
それだけ強力な薬だということは、オリアーナから説明を受けているので重蔵にも分かっている。
「これから国盗り・大陸統一を目指すなら、もっと使える手駒が欲しいでしょ?」
「確かに……」
オリアーナの問いに対し、重蔵に代わって天祐が頷く。
天祐によって始末されたアデマス王国国王のジョセフではないが、重蔵の最終目的はこの大陸の統一だ。
そのためには、いくら強いと言っても敷島という小さい島の住人だけでは数が足りない。
敷島以外で、ある程度の実力のある者がいた方がたしかに助かる。
「一般人でも耐えられる強化薬を研究しようと思うの」
「なるほど。それを奴隷に使用すれば……」
「あなたの頭に浮かんだ通りよ」
一般人でも使用できるのなら、捕えた敵を奴隷にして利用すれば、一気に手駒の数を増やすことができる。
同じ考えに至った重蔵の発言に被せるように、オリアーナは正解と言うかのように頷いた。
「分かった。天祐、敵対する貴族は出来る限り捕え、オリアーナの研究所に送ってくれ」
「了解」
敷島内の斎藤家の地下研究所は拡大を続け、今では帝国にいた時並の大きさになっている。
そこはほとんどオリアーナのものとなっており、重蔵たちが集め(攫って来)た多くの者たちと共に研究を重ねている。
重蔵は、捕まえた敵をその研究施設に送るように指示を出し、天祐もそれを了承した。
「……そう言えば、国の名前はどうするの?」
「そうだね。アデマス王家は死に絶えたのだし、アデマス王国って言うのはちょっとね……」
「そうだな……」
あることをふと思ったオリアーナは、重蔵へと問いかける。
それは国の名前だ。
オリアーナのその問いに乗るように、天祐も賛同する。
アデマスの名を受け継ぐ者はもう存在しないというのに、このままアデマス王国というのはそぐわない。
2人は、遠回しに国名の変更を提案した。
それを受けて、重蔵は顎に手を当てて思案する。
「敷斎王国なんてどうだ?」
「しき…さい?」
少し悩んだ重蔵は、思いついた国名を2人に告げる。
言葉で聞いただけでは理解できず、オリアーナは首を傾げた。
「敷島の斎藤家が統べる国だからな」
「なんだ。結局敷島の名は欲しかったんじゃない……」
「フッ、まあな……」
理解していないようなので、重蔵は命名した理由を説明する。
それ受けたオリアーナは、すぐにツッコミを入れる。
敷島の名を受け継ぐなんて規模が小さいことには興味がないようなことを言っていたが、結局敷島から名前を取っているからだ。
大陸制覇を目標にしていたため、重蔵は敷島の名にこだわるつもりはなかったが、すぐに思いついてしまったのだから、たしかに心のどこかでその名を欲しかったのかもしれない。
「そう言うお前も、研究するのは良照への復讐心だけじゃなかったようだな?」
「そうね。人体実験を何とも思わないのだもの……」
両親を殺した良照への復讐。
それを果たすために、非人道的な実験をおこなってきた。
実験体の中には子供もいる者もいただろう。
つまり、自分と同じように、親を殺された境遇の人間を作り出しているかもしれない。
それでも精神が変わらないのは、自分の研究のためには仕方がない犠牲だと考えているからかもしれない。
「お互い壊れているのかもしれないわね?」
「ハハッ、かもな……」
大陸統一を目論み、同じ敷島の良照を平気で裏切った重蔵。
研究のためなら人体実験をしても平気なオリアーナ。
2人のやっていることは、人としてどこか壊れているとしか思えない。
その結論に、2人はどこか納得した。
◆◆◆◆◆
「……まさか、あいつが国ごと乗っ取るなんてな……」
敷島を潰すために、限たちは帝国内のダンジョンを利用して戦闘強化を図っていた。
そうしている間に、いつの間にかアデマス王国内で反乱が起きていた。
こんなことが起きると分かっていたのなら、利用することも考えたが、起きた後ではそれも意味もないこと。
それよりも、父がこんなことを起こすなんてただ驚くしかない。
てっきり、敷島を手に入れるために強さを求めていると思っていたからだ。
「国を相手にする事になるのでは?」
王都を奪った重蔵は、アデマス王国から敷斎王国なんて名乗り出した。
そして、王都周辺の領を次々と支配し始めているということ。
このままでは本当にアデマス王国全てが敷斎王国へと変わってしまうだろう。
そうなると、限の復讐相手は拡大して国全体となってしまう。
さすがに相手にするには規模が大きすぎると感じたレラは、不安そうに限へと問いかけた。
「……いや、敷島の連中を動かしても、手に入れられるのは北側の地域だけ。主要な町は北に集まっているけど、南部の貴族が黙っていないはず……」
レラの問いに対し、限は自分の予想を話し始める。
アデマス王国の主要都市は、北にある王都周辺に集まっている。
そこを重蔵たちが制圧している間に、南部の貴族は対抗するために兵を集めていることだろう。
「その戦いに乗じるのですね?」
「そのつもりだ」
もう相手が敷島だけではないのならば、自分たちは利用できるものを利用するしかない。
南部の貴族たちが集めた兵では、重蔵と配下の者を相手にどれだけ時間稼げるか分からないが、少しは役に立つだろう。
限は、彼らの戦いを利用して紛れ込む予定であることをレラに告げた。
敷島家当主の良照が死んだことを確認した重蔵は、玉座に座って天祐とオリアーナに話しかける。
多くの部下を配置しているので、一番難関な王城さえ奪取できれば王都を手に入れることは難しくない。
そうなると、次は周辺領地を手に入れるために動く必要がある。
「でも、ちゃんと周辺貴族たちの動きは把握しているんでしょ?」
「もちろん」
オリアーナの問いに、天祐が返答する。
王都が敷島に奪われたと知れば、周辺領主の貴族たちが黙っていない。
しかし、重蔵が良照に言ったように、いつでも始末できるように息のかかった者を側に置いているため、もしも兵を集めて王都に向かって来るようなら、たどり着く前に不慮の死を遂げることだろう。
「できれば数人は生かして、私の方に寄越してもらえないかしら?」
「それはいいが……何故だ?」
「実験体にしたいの」
重蔵としては、敵対する・しないに関わらず、全員捕えるなり殺すつもりでいる。
そのままにしておく訳にもいかないので、捕えた者は管理するつもりでいるが、オリアーナには何か考えがあるのだろうか。
気になった重蔵がその理由を問いかけると、オリアーナは平然と答えを返した。
「……まだ何か研究するのか?」
元々、オリアーナは良照を殺すために生物兵器の研究を続けていたはず。
その思いが達成された今、重蔵としてはこれ以上研究する意図が分からない。
「私の研究はまだ完成ではないわ」
「我々の配下の者たちは大幅に実力が上がったが?」
アデマス王国を奪い取る計画はしていたが、それを実行するには実力のある配下の数が足りなかった。
それを解消する手段が、オリアーナが作り出し、菱山家の奈美子が使用した強化薬だ。
その強化薬を使用することにより、本来敷島内では実力不足と言われるような者たちも、一端の戦闘力を有することができた。
これ以上研究するようなことがあるのかと、重蔵は疑問に思う。
「あの強化薬は敷島の者専用で、一般人には使用できないじゃない?」
「あぁ……」
重蔵配下の者たちが使用している強化薬は、あくまでも敷島の人間に使用することを前提に作られたものだ。
幼少期から戦闘のエリート教育を受けていることから、敷島の者は実力が無くても強靭な肉体をしている。
そのため、あの強化薬に耐えられるが、敷島以外の人間ではそうはいかない。
耐えられる者もいるだろうが、多くの者は肉体が耐えられずに力尽きてしまう。
それだけ強力な薬だということは、オリアーナから説明を受けているので重蔵にも分かっている。
「これから国盗り・大陸統一を目指すなら、もっと使える手駒が欲しいでしょ?」
「確かに……」
オリアーナの問いに対し、重蔵に代わって天祐が頷く。
天祐によって始末されたアデマス王国国王のジョセフではないが、重蔵の最終目的はこの大陸の統一だ。
そのためには、いくら強いと言っても敷島という小さい島の住人だけでは数が足りない。
敷島以外で、ある程度の実力のある者がいた方がたしかに助かる。
「一般人でも耐えられる強化薬を研究しようと思うの」
「なるほど。それを奴隷に使用すれば……」
「あなたの頭に浮かんだ通りよ」
一般人でも使用できるのなら、捕えた敵を奴隷にして利用すれば、一気に手駒の数を増やすことができる。
同じ考えに至った重蔵の発言に被せるように、オリアーナは正解と言うかのように頷いた。
「分かった。天祐、敵対する貴族は出来る限り捕え、オリアーナの研究所に送ってくれ」
「了解」
敷島内の斎藤家の地下研究所は拡大を続け、今では帝国にいた時並の大きさになっている。
そこはほとんどオリアーナのものとなっており、重蔵たちが集め(攫って来)た多くの者たちと共に研究を重ねている。
重蔵は、捕まえた敵をその研究施設に送るように指示を出し、天祐もそれを了承した。
「……そう言えば、国の名前はどうするの?」
「そうだね。アデマス王家は死に絶えたのだし、アデマス王国って言うのはちょっとね……」
「そうだな……」
あることをふと思ったオリアーナは、重蔵へと問いかける。
それは国の名前だ。
オリアーナのその問いに乗るように、天祐も賛同する。
アデマスの名を受け継ぐ者はもう存在しないというのに、このままアデマス王国というのはそぐわない。
2人は、遠回しに国名の変更を提案した。
それを受けて、重蔵は顎に手を当てて思案する。
「敷斎王国なんてどうだ?」
「しき…さい?」
少し悩んだ重蔵は、思いついた国名を2人に告げる。
言葉で聞いただけでは理解できず、オリアーナは首を傾げた。
「敷島の斎藤家が統べる国だからな」
「なんだ。結局敷島の名は欲しかったんじゃない……」
「フッ、まあな……」
理解していないようなので、重蔵は命名した理由を説明する。
それ受けたオリアーナは、すぐにツッコミを入れる。
敷島の名を受け継ぐなんて規模が小さいことには興味がないようなことを言っていたが、結局敷島から名前を取っているからだ。
大陸制覇を目標にしていたため、重蔵は敷島の名にこだわるつもりはなかったが、すぐに思いついてしまったのだから、たしかに心のどこかでその名を欲しかったのかもしれない。
「そう言うお前も、研究するのは良照への復讐心だけじゃなかったようだな?」
「そうね。人体実験を何とも思わないのだもの……」
両親を殺した良照への復讐。
それを果たすために、非人道的な実験をおこなってきた。
実験体の中には子供もいる者もいただろう。
つまり、自分と同じように、親を殺された境遇の人間を作り出しているかもしれない。
それでも精神が変わらないのは、自分の研究のためには仕方がない犠牲だと考えているからかもしれない。
「お互い壊れているのかもしれないわね?」
「ハハッ、かもな……」
大陸統一を目論み、同じ敷島の良照を平気で裏切った重蔵。
研究のためなら人体実験をしても平気なオリアーナ。
2人のやっていることは、人としてどこか壊れているとしか思えない。
その結論に、2人はどこか納得した。
◆◆◆◆◆
「……まさか、あいつが国ごと乗っ取るなんてな……」
敷島を潰すために、限たちは帝国内のダンジョンを利用して戦闘強化を図っていた。
そうしている間に、いつの間にかアデマス王国内で反乱が起きていた。
こんなことが起きると分かっていたのなら、利用することも考えたが、起きた後ではそれも意味もないこと。
それよりも、父がこんなことを起こすなんてただ驚くしかない。
てっきり、敷島を手に入れるために強さを求めていると思っていたからだ。
「国を相手にする事になるのでは?」
王都を奪った重蔵は、アデマス王国から敷斎王国なんて名乗り出した。
そして、王都周辺の領を次々と支配し始めているということ。
このままでは本当にアデマス王国全てが敷斎王国へと変わってしまうだろう。
そうなると、限の復讐相手は拡大して国全体となってしまう。
さすがに相手にするには規模が大きすぎると感じたレラは、不安そうに限へと問いかけた。
「……いや、敷島の連中を動かしても、手に入れられるのは北側の地域だけ。主要な町は北に集まっているけど、南部の貴族が黙っていないはず……」
レラの問いに対し、限は自分の予想を話し始める。
アデマス王国の主要都市は、北にある王都周辺に集まっている。
そこを重蔵たちが制圧している間に、南部の貴族は対抗するために兵を集めていることだろう。
「その戦いに乗じるのですね?」
「そのつもりだ」
もう相手が敷島だけではないのならば、自分たちは利用できるものを利用するしかない。
南部の貴族たちが集めた兵では、重蔵と配下の者を相手にどれだけ時間稼げるか分からないが、少しは役に立つだろう。
限は、彼らの戦いを利用して紛れ込む予定であることをレラに告げた。
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