子連れの冒険者

ポリ 外丸

文字の大きさ
上 下
9 / 68

第 9 話

しおりを挟む
「これは調べてみた方がいいかもな……」

「……なんでこれを?」

 集めておいてなんだが、トリスターノにはどれオルフェオと関係ないのではと思っていた。
 可能性があるとすれば、エルヴィーノの選び差し出してきた1件だろう。
 自分と同じ判断をしたため、トリスターノはエルヴィーノに理由を求めた。

「貴族の関連の事件だからだ」

 エルヴィーノが選んだのは、この町から西にある町の領主を務めている男爵家の子供が行方不明だという事件だ。
 その内容の中、エルヴィーノが目を付けたのは貴族関連かどうかというだけで、それだけで調べてみる可能性があると判断した。

「それに、こいつが家の前に置かれて、すぐに周辺を探知したんだが、全くそれらしい反応がなかった。だから恐らくは転移をしたんだと思う」

「転移……」

 簡単にだが、トリスターノには一昨日の朝にもオルフェオのことを説明をしてある。
 オルフェオが置かれてすぐ、探知魔法を使用して家から離れていく人間を探ってみたがそんな人間を見つけることはできなかった。
 そのことから、エルヴィーノは転移をしたと判断している。

「魔法の可能性は低い」

「そうだな。俺が知っているのは2人だけだからな」

 遠く離れた場所へと移動することのできる転移魔法。
 それを使える人間はかなり少ないため、魔法によって転移した可能性は低いとエルヴィーノは考えている。
 そのことを聞いたトリスターノは、転移が使える人間の顔が浮かんだ。
 目の前にいるエルヴィーノとセラフィーナの2人だ。
 この2人はダークが付くがエルフ。
 エルフは魔力量が多いことで有名な人種とはいえ、膨大な魔力を必要とする転移魔法が使えるのは、エルフの中にもほとんどいないのではないかと思える。
 それだけ滅多にいない転移魔法を使える人間が、エルヴィーノたちを合わせて3人もこの町に集まる可能性なんて低い。
 そのため、トリスターノも魔法による転移ではないと、エルヴィーノの考えに同意した。

「そうなると、転移石を使用したってことになる。そんなん使用できる人間は貴族の可能性が高いだろ?」

「そうだな」

 何も、魔法だけが転移をおこなうことができる方法ではない。
 転移石と呼ばれる魔道具を使用すれば、誰でも転移することができる。
 しかし、転移石は古代の遺跡から発見されたものと言われているかなり希少なもので、使用するにしてもかなりの量の魔力を内包した魔石をすることになる。
 転移石と使用するための魔石、そのどちらも大金が必要だ。
 それだけの大金が手に入れられる人間と考えると、貴族である可能性が高い。
 そう考えたため、エルヴィーノは貴族関連の事件こそが、オルフェオを置いて行った人間、もしくは親に近づくことができると考えているのだ。

「というわけで、このボルグーゼ男爵の事件を探ってみるよ」

「そうか」

 3件の中で一番可能性があるのは、このボルグーゼ男爵の子供が行方不明になった事件だ。
 そのため、エルヴィーノはこの件を探りに、ボルグーゼ領へ向かうことに決めた。

「とはいっても、貴族とはいっても男爵家だからな。間違いの可能性が高いな」

「そうだな」

 転移石を手に入れた上に使用しているのだから、貴族である可能性は高い。
 しかし、貴族の中にもピンキリがある。
 この国では、王族に次いで公爵・侯爵・辺境伯・伯爵・子爵・男爵の順で身分が低くなっていく。
 転移石の入手と使用ができるとなると、公爵や侯爵あたりが有力で、辺境伯や伯爵あたりだと微妙になってくる。
 そう考えると、男爵が転移石を手に入れられる可能性は低いため、エルヴィーノとしてはあまり期待していない。
 トリスターノとしても同じ考えのため、エルヴィーノの言葉に頷いた。

「念のため、範囲を広げつつ他に貴族関連の事件がないか探ってみるよ」

「あぁ、頼む」

 ボルグーゼ男爵の件がオルフェオにつながる可能性は低い。
 空振りに終わる可能性もあるため、トリスターノは引き続き子供関連の事件を調べることをエルヴィーノに告げる。
 子供の事件の中でも貴族が関連していることを重視してだ。
 協力の言葉に感謝しつつ、話を終えたエルヴィーノは帰宅することにした。





「えっ!? ボルグーゼ領に……」

「そうだ」

 家に帰り、エルヴィーノが一昨日手に入れた兎肉と猪肉を使って料理をしていると、セラフィーナがリベルタと共に牛肉をもって帰ってきた。
 そのため、夕飯は予定通り肉料理祭りとなった。
 それにより、エルヴィーノとセラフィーナもさることながら、ノッテとジャンとリベルタの従魔たちも腹いっぱいになるまで料理を堪能した。
 食後、明日の予定を聞いてきたセラフィーナに対し、エルヴィーノはトリスターノと交わした会話のことを伝えた。
 明日からボルグーゼ領に向かい、事件のことを探ってみるということも合わせてだ。

「私もついて行きます!」

「えっ?」

 エルヴィーノの話を聞いて、セラフィーナはビシッと音が聞こえてきそうなほどに勢いよく手を上げた。
 今日の依頼達成によってまあまあの金額を手に入れられたとはいえ、使いまくった魔力ポーション代は取り戻せていないはず。
 それなのに付いてくるという彼女の言葉に、エルヴィーノは意外に思って声を上げる。

「ハズレの可能性が高いから、別にセラは魔力ポーション代の資金稼ぎをしていてもいいんだぞ」

 エルヴィーノはセラフィーナに対し、もしもの時のために回復ポーションと魔力ポーションは充分用意しておくように言っている。
 そのため、わざわざそれを後回しにしてまで付き合ってもらう必要はない。
 そもそも、ボルグーゼ男爵の件はハズレの可能性が高いこともあるため、考え直すようにエルヴィーノは促した。

「調べるとなると、数日はエル様と離れ離れになるということじゃないですか? せっかく帰ってきたばっかりなのに、また数日会えないのは嫌です! だからついて行きます!」

「お、おぉ……」

 セラフィーナの早くて強い口調により、エルヴィーノは思わず引いてしまう。
 そして、その勢いに思わず受け入れる返事をしてしまった。

「それに、ハズレてもボルグーゼ領にはダンジョンもあることですし……」

「……そうだな」

 セラフィーナとしても、エルヴィーノと離れたくないからだけの理由でついて行くのではない。
 魔力ポーション代を稼ぐなら、魔物が見つけやすいところの方がいい。
 その点、ボルグーゼの近くの町にはダンジョンと呼ばれる魔物が多く生息している場所が存在している。 
 もしも事件がハズレであっても、ダンジョンの魔物を倒しまくって魔石を手に入れ、ギルドで売却すればいい。
 その考えもあって、ついて行くと言っているのだ。
 オルフェオの育児用品などの購入のことも考え、エルヴィーノも多少資金集めをしたいところだ。
 そのため、セラフィーナの案を受け入れ、一緒にボルグーゼ領に行くことになったのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...