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4 妊娠
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その夜から毎晩のようにアロイスはリリアーナの寝室を訪れた。
夜も遅い時間で必ず風呂上がりでバスローブ姿である事から、ルイーズを抱いた後でリリアーナを訪ねて来るようだ。
それに気付いたリリアーナはアロイスに文句を言おうかとも思ったが、それを言った事でアロイスの渡りが無くなるのを恐れて黙っていた。
(わたくしがルイーズより先に身籠ればきっとアロイスはわたくしを大事にしてくれるわ)
ルイーズより先に身籠る為にもアロイスが毎晩リリアーナを抱きに来るのは必然だった。
二人の間に会話らしいものは何一つなかった。
アロイスはリリアーナの寝室に来ても目を合わせようとしないし、リリアーナもアロイスが来れば、さっさと自らベッドに横になった。
リリアーナにとっては何の愛情も感じられない行為ではあるけれど、それでも妊娠する為なら我慢するしかない。
アロイスが寝室を出ていくと、リリアーナはいかに自分が惨めであるかを悟っていた。
もうこんな、子を産むためだけの道具のような生活は止めようと思っていても、夜にアロイスの訪問を受けるとそれを拒む事は出来なかった。
そんな生活が二ヶ月も続いた頃、リリアーナは体調の変化に気付いた。
(…生理が遅れているわ…)
ただ単に遅れているだけなのか… もしかして?
リリアーナはすぐに侍女を通して宮廷医を呼んで貰う事にした。
1日でも、いや、1時間でも早くあの女より先に妊娠したと報告したい。
西の宮での生活は何不自由ないものだった。
側妃とはいえ国王陛下の世継ぎを産む立場である。
望めば大抵の物はリリアーナの思い通りに用意された。
侍女も王宮に仕える者とは別に公爵家から慣れ親しんだ者も連れて来る事が出来た。
この西の宮では我が物顔で振る舞っても誰にも文句は言われなかった。
…ただ、一つを除いては…。
リリアーナが唯一、望んでも手に入れる事が出来ないもの…。
それはアロイスの寵愛だった。
アロイスがこの西の宮を訪れるのは夜の営みを行う時だけだった。
それもほんの短い時間。
言葉も交わさずただ精だけを吐き出すとそそくさとルイーズの元へ帰って行く。
そんな生活を続けるのは辛かったが、だからと言ってこの立場を誰にも譲りたくはなかった。
(アロイスの子供を産むのはこのわたくしよ。他の誰にも渡さないわ)
それにリリアーナが妊娠すれば、アロイスの態度にも変化があるかもしれない。
妊娠すればリリアーナが心穏やかに過ごせるように気遣いをみせてくれるかも…。
そんな淡い期待をリリアーナは持っていた。
そして宮廷医が呼ばれ、リリアーナの診察を行った。
「おめでとうございます。ご懐妊されました」
宮廷医の診断にリリアーナは満面の笑みを浮かべた。
(勝った! わたくしはあの女に勝ったんだわ!)
すぐに懐妊の報告が告げられて、アロイスが西の宮を訪れて来た。
この西の宮に来て初めて、昼の光の中で見るアロイスの姿だった。
そして寝室ではない、他の部屋に足を踏み入れるアロイスを見るのも初めてだった。
居間に入ってきたアロイスは、ゆっくりとソファーに寛ぐリリアーナに近寄ってきた。
挨拶の為に立ち上がろうとするリリアーナをアロイスは手で制して、リリアーナの横に立つ宮廷医を見やった。
「診断に間違いはないな?」
宮廷医の診断を疑うような発言にリリアーナは眉をひそめたが、あえて発言はしなかった。
(ルイーズじゃないのが悔しいのね。あんな石女なんかに子供が授かるわけがないわ)
「勿論です。間違いなくご懐妊されています。おめでとうございます」
宮廷医はアロイスの発言に気分を害する事はなく、祝辞を述べる。
宮廷医が下がるとアロイスはリリアーナの隣に座った。
優しく手を取られ、リリアーナはドキドキしながらアロイスを見つめる。
こんな風に隣に座られるなんて初めての事だった。
「リリアーナ。体調はどうだ? 毎日とはいかないが時々はこちらに来よう」
「陛下。ありがとうございます。お待ちしてますわ」
だが、アロイスの言葉が実行される事はなかった。
リリアーナの妊娠発覚から三日後にルイーズの妊娠が告げられたからだった。
夜も遅い時間で必ず風呂上がりでバスローブ姿である事から、ルイーズを抱いた後でリリアーナを訪ねて来るようだ。
それに気付いたリリアーナはアロイスに文句を言おうかとも思ったが、それを言った事でアロイスの渡りが無くなるのを恐れて黙っていた。
(わたくしがルイーズより先に身籠ればきっとアロイスはわたくしを大事にしてくれるわ)
ルイーズより先に身籠る為にもアロイスが毎晩リリアーナを抱きに来るのは必然だった。
二人の間に会話らしいものは何一つなかった。
アロイスはリリアーナの寝室に来ても目を合わせようとしないし、リリアーナもアロイスが来れば、さっさと自らベッドに横になった。
リリアーナにとっては何の愛情も感じられない行為ではあるけれど、それでも妊娠する為なら我慢するしかない。
アロイスが寝室を出ていくと、リリアーナはいかに自分が惨めであるかを悟っていた。
もうこんな、子を産むためだけの道具のような生活は止めようと思っていても、夜にアロイスの訪問を受けるとそれを拒む事は出来なかった。
そんな生活が二ヶ月も続いた頃、リリアーナは体調の変化に気付いた。
(…生理が遅れているわ…)
ただ単に遅れているだけなのか… もしかして?
リリアーナはすぐに侍女を通して宮廷医を呼んで貰う事にした。
1日でも、いや、1時間でも早くあの女より先に妊娠したと報告したい。
西の宮での生活は何不自由ないものだった。
側妃とはいえ国王陛下の世継ぎを産む立場である。
望めば大抵の物はリリアーナの思い通りに用意された。
侍女も王宮に仕える者とは別に公爵家から慣れ親しんだ者も連れて来る事が出来た。
この西の宮では我が物顔で振る舞っても誰にも文句は言われなかった。
…ただ、一つを除いては…。
リリアーナが唯一、望んでも手に入れる事が出来ないもの…。
それはアロイスの寵愛だった。
アロイスがこの西の宮を訪れるのは夜の営みを行う時だけだった。
それもほんの短い時間。
言葉も交わさずただ精だけを吐き出すとそそくさとルイーズの元へ帰って行く。
そんな生活を続けるのは辛かったが、だからと言ってこの立場を誰にも譲りたくはなかった。
(アロイスの子供を産むのはこのわたくしよ。他の誰にも渡さないわ)
それにリリアーナが妊娠すれば、アロイスの態度にも変化があるかもしれない。
妊娠すればリリアーナが心穏やかに過ごせるように気遣いをみせてくれるかも…。
そんな淡い期待をリリアーナは持っていた。
そして宮廷医が呼ばれ、リリアーナの診察を行った。
「おめでとうございます。ご懐妊されました」
宮廷医の診断にリリアーナは満面の笑みを浮かべた。
(勝った! わたくしはあの女に勝ったんだわ!)
すぐに懐妊の報告が告げられて、アロイスが西の宮を訪れて来た。
この西の宮に来て初めて、昼の光の中で見るアロイスの姿だった。
そして寝室ではない、他の部屋に足を踏み入れるアロイスを見るのも初めてだった。
居間に入ってきたアロイスは、ゆっくりとソファーに寛ぐリリアーナに近寄ってきた。
挨拶の為に立ち上がろうとするリリアーナをアロイスは手で制して、リリアーナの横に立つ宮廷医を見やった。
「診断に間違いはないな?」
宮廷医の診断を疑うような発言にリリアーナは眉をひそめたが、あえて発言はしなかった。
(ルイーズじゃないのが悔しいのね。あんな石女なんかに子供が授かるわけがないわ)
「勿論です。間違いなくご懐妊されています。おめでとうございます」
宮廷医はアロイスの発言に気分を害する事はなく、祝辞を述べる。
宮廷医が下がるとアロイスはリリアーナの隣に座った。
優しく手を取られ、リリアーナはドキドキしながらアロイスを見つめる。
こんな風に隣に座られるなんて初めての事だった。
「リリアーナ。体調はどうだ? 毎日とはいかないが時々はこちらに来よう」
「陛下。ありがとうございます。お待ちしてますわ」
だが、アロイスの言葉が実行される事はなかった。
リリアーナの妊娠発覚から三日後にルイーズの妊娠が告げられたからだった。
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