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祈り
おとぎ、寿司屋に行く
しおりを挟む「おとぎちゃん、今日はファミレスか寿司屋にでも行ってみるか」
その日、早くに帰ってきた滋が、そんなことを言い出した。
「おかあさんも仕込みで忙しそうだし」
「助かるわ~」
と穂乃果が言う。
料理作るのに忙しくて、料理作らないとか変な感じだな、と渉は思っていたが。
よけいなことを言うと、殴られそうなので黙っていた。
結局、寿司屋に行くことになった。
寿司なら江戸にもあったから、食べやすいだろうと言うことで。
四人で夜道を歩いていると、なんだかほんとうに、おとぎも家族のような気がしてきた。
通り道にあったファミリーレストランの、屋根の上で回っている看板を見て、おとぎが言う。
「この時代の看板もおもしろいな」
「そういえば、江戸の看板はシャレがきいてるって、昔、クイズ番組で見たよ。
お風呂屋さんの看板が弓矢だとか」
「なんで、弓矢なの?」
と穂乃果が訊いてくる。
「『ゆみをいる』からじゃ」
とおとぎが答えた。
「ゆみをいる、から、ゆ、いる―― 湯、入る、になって、銭湯なのじゃ」
「え~っ。
すごいこじつけじゃない?」
「では、『十三里』は、なに屋だと思う?」
「……旅籠?」
と穂乃果が答える。
十三里、とか言うから、旅に関係のある言葉のような気がしたのだろう。
「違うな。
栗よりウマイ、焼きイモ屋じゃっ」
九里四里で、足して十三里なのだそうだ。
「では、『十三』は?」
「え? じゃあ、焼きイモ屋」
「なんでだよ……」
と渉が言う。
さすがに違う感じがしたからだ。
「クシ屋じゃ」
「いや、なんでっ」
「なんでだよっ」
と穂乃果と渉が叫ぶ。
滋は、ずっと笑って聞いていたから、もしかしたら、正解を知っていたのかもしれないな、と渉は思った。
「九くと四しでクシ。
足して、十三か。
江戸の人は、ほんとうにダジャレが好きだなあ」
「すごいな~。
夜なのに、どこもかしこも、ピカピカだ」
江戸の駄洒落に感心したり、呆れたりしている渉の横で、おとぎは寿司屋の店内の明るさやつるつるしたメニュー表などに驚いていた。
「これを押すと、料理が出てくるのかっ。
夢のようじゃのっ」
注文用のタブレットにおとぎはいたく感心していた。
近くの席のおじいちゃんおばあちゃんが、わかるわかる、そうよね~というように、こちらを見て、頷きながら笑っている。
「まあそうねえ。
江戸までさかのぼらなくても、ちょっと前まで、タブレットをピピッと押したら、料理がやってくるなんて、夢の世界の出来事だったかもね」
そう穂乃果も言う。
やってみたいと言うおとぎが、タブレットでお寿司を注文してくれた。
菜々子のスマホをいじらせてもらったりしているので、ある程度は慣れているようだった。
「おとぎ、お茶淹れよう」
と渉は人数分の湯呑みを出した。
粉になっているお茶を湯呑みに入れ、お湯を注ぐ。
「なんと、お湯が出るぞっ」
押すだけで、お湯が出るっ、とおとぎが騒いだ。
「渉の家で蛇口をひねると水が出るだけで、ビックリなのにっ」
「ああ、水道には驚くか。
江戸は井戸だしな」
「いやいや。
江戸も水道だぞ」
「そうなのか?」
「江戸の井戸は、あれは水道なのじゃ。
全部ではないと思うが。
ほとんどが遠くから江戸に行き渡るよう、流している水なのだ。
ちなみに、吉原ももちろん、水道の水じゃっ」
「江戸、すごいな」
おとぎが言うには、水道代も今のように、とられていたらしい。
「そういうところは、今と変わらないな」
下水道もあったが、今と違って、たれ流しのようだった。
今、きれいな川なのは、ちゃんと汚れた水が処理してあるから。
江戸もいいなと思うけど、きれいな町に住めるのは技術の発展のおかげかな、と思いながら、熱いお茶を飲んだ。
おとぎは、たまごとエビをとりあえず、頼んでいた。
「美味いなっ」
「どうだ?
江戸の寿司とは違うか?」
「今みたいなお寿司になったのは、江戸の後期なのよ。
それも、今よりずいぶん大きな握り寿司だったらしいわ」
と穂乃果が教えてくれる。
「そういえば、お寿司は家まで売りに来てはくれなかったの?」
「そうじゃのう。
寿司はなかったかのう。
結構、なんでも売りに来ておったが」
金魚も朝顔も飴も、とおとぎは言う。
「宝船売りなんていうのもおったな」
「宝船売り?」
「宝船は縁起が良いから。
宝船が描かれた紙を売っておるのじゃ。
一月二日の夜にそれを枕の下にしいて眠ると、良い夢が見られると言って、人気じゃった」
「……その人は、年末年始以外はなにをしてるんだ?」
「さあ? 朝顔とかところてんとか、甘酒とか、他の季節には、他の季節のものを売っておるのかもしれんなあ」
ふうん、と渉たちは相槌を打つ。
「おとぎたちも、冬には甘酒を飲んでたのか」
「甘酒は夏の飲み物じゃぞ。
最近は冬も飲むが。
昔の人は、おもに夏に飲んでおったそうじゃ」
またおとぎが昔の人などと言うので、ちょっと笑ってしまう。
そのあと、巨大なはりぼての赤いトウガラシを抱えたトウガラシ売りの話などしていた。
江戸は知れば知るほど興味深い。
医者になるつもりだが。
江戸の研究をするというのも面白そうだなと思った。
「そうだ、おかあさん。
おしろいや紅やクシなんかも家に売りに来ておったぞ」
「それは便利ねえ」
「その手のものを売りに来る小間物売りは大抵、色男なんじゃ」
まあ、とおかあさんは喜び、おとうさんが、おいおいという顔をする。
家族三人だったときより、ずいぶんと賑やかな夕食だ。
帰り道もおとぎは、その明るさに感心していた。
夜でもこうこうと光を照らして、虫も人も集めているコンビニをおとぎは見ていた。
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