40 / 86
ゼロどころか、マイナスからの出発
世の中、不思議なことが起こりますよね、いろいろと
しおりを挟むみんなで出前を食べたあと、先に食べて遊んでいた日向が人形のおじいさんを手に言う。
「また喉渇いたってー」
あかりがそちらを見たとき、青葉も日向を振り向いて言った。
「それ、なんかの霊が憑いてないか?」
水やってみろ、とか言っている。
ちょっと笑いそうになった。
でもなんか……ちょっと切ないな、とあかりは思う。
こうしていると、普通の親子のよう……と思った瞬間、日向が言った。
「今日は『父親』はー?」
青葉が、!? という顔をする。
あかりを見た。
お前、いつの間に、日向の新しい父親をっ、という表情だった。
「大吾さんのことですよ」
「余計悪いだろうよ……」
同じ顔で紛らわしい、と青葉は言った。
「日向、大吾さんなら、呪いの村に行ったわよ」
「……そんなとこ行かなくても、もう呪われてるのにな」
と青葉が呟く。
誰に呪われてるんだろうな、とあかりは思った。
「じゃあな、日向」
帰り際、青葉は、ぽんぽん、と日向の頭を叩いていて。
日向は嬉しそうだった。
先に外に出ている祖母たちの元に走っていく日向を見ながら、青葉は呟く。
「俺も父親と名乗れないが、お前も母親と名乗れてないんだよな」
「そうですね。
でも、私はいいです。
なんだかんだで日向の側にいられるので」
あかりは青葉の顔を見て言った。
「また、日向の顔を見に来てやってください」
「そうだな。
……俺は……
お前の顔も見たいが」
まだ自分の置かれている状況に馴染めず、困った顔のまま青葉は言う。
嬉しいと思いながらも、心は半分死んでいた。
あの一週間しかこの世にいなかった青葉を深く愛していたから。
頑張って忘れようとしたせいで、まだ死んでいた。
突然、やっぱり生きてましたとか言われても困るしな。
まあ、この人がこれからどうしたいのかわからないけど。
日向のことを考えて、義務感から私といたいとかは思わないで欲しいな、と思う。
「あ、そうだ。
お金払いますよ」
結局、青葉が全員の食事代を払っていた。
幾夫の弁当まで。
「いや、いい」
「でも、私がみんなで食べようって言ったんですから」
とあかりはコンパクトな革財布を開ける。
「あ」
「どうした」
「……今、財布からコバエが出てきました」
「……どうやって入ったんだ」
「世の中、不思議なことが起こりますよね、いろいろと」
と青葉を見つめる。
そのとき、行きかけた日向が木の側にしゃがむと、戻ってきて、手を突き出してきた。
「きょうりゅう」
トカゲですよっ!?
ぎゃっ、とあかりは後退り、思わず青葉の腕をつかむ。
慌てて離した。
ほんとうに生きている人間の感触があったので、驚いたのだ。
いや、生きてて当たり前なのだが。
目の前にいても、なんだかずっと信じられなかったから。
一瞬、過去の青葉と今の青葉がつながりそうになったが。
それは、ほんとうに一瞬のことだった――。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
231
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる