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ゼロどころか、マイナスからの出発

世の中、不思議なことが起こりますよね、いろいろと

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 みんなで出前を食べたあと、先に食べて遊んでいた日向が人形のおじいさんを手に言う。

「また喉渇いたってー」

 あかりがそちらを見たとき、青葉も日向を振り向いて言った。

「それ、なんかの霊が憑いてないか?」

 水やってみろ、とか言っている。

 ちょっと笑いそうになった。

 でもなんか……ちょっと切ないな、とあかりは思う。

 こうしていると、普通の親子のよう……と思った瞬間、日向が言った。

「今日は『父親』はー?」

 青葉が、!? という顔をする。

 あかりを見た。

 お前、いつの間に、日向の新しい父親をっ、という表情だった。

「大吾さんのことですよ」

「余計悪いだろうよ……」

 同じ顔で紛らわしい、と青葉は言った。

「日向、大吾さんなら、呪いの村に行ったわよ」

「……そんなとこ行かなくても、もう呪われてるのにな」
と青葉が呟く。

 誰に呪われてるんだろうな、とあかりは思った。
 

「じゃあな、日向」

 帰り際、青葉は、ぽんぽん、と日向の頭を叩いていて。

 日向は嬉しそうだった。

 先に外に出ている祖母たちの元に走っていく日向を見ながら、青葉は呟く。

「俺も父親と名乗れないが、お前も母親と名乗れてないんだよな」

「そうですね。
 でも、私はいいです。

 なんだかんだで日向の側にいられるので」

 あかりは青葉の顔を見て言った。

「また、日向の顔を見に来てやってください」

「そうだな。
 ……俺は……

 お前の顔も見たいが」

 まだ自分の置かれている状況に馴染めず、困った顔のまま青葉は言う。

 嬉しいと思いながらも、心は半分死んでいた。

 あの一週間しかこの世にいなかった青葉を深く愛していたから。

 頑張って忘れようとしたせいで、まだ死んでいた。

 突然、やっぱり生きてましたとか言われても困るしな。

 まあ、この人がこれからどうしたいのかわからないけど。

 日向のことを考えて、義務感から私といたいとかは思わないで欲しいな、と思う。

「あ、そうだ。
 お金払いますよ」

 結局、青葉が全員の食事代を払っていた。

 幾夫の弁当まで。

「いや、いい」

「でも、私がみんなで食べようって言ったんですから」
とあかりはコンパクトな革財布を開ける。

「あ」
「どうした」

「……今、財布からコバエが出てきました」

「……どうやって入ったんだ」

「世の中、不思議なことが起こりますよね、いろいろと」
と青葉を見つめる。

 そのとき、行きかけた日向が木の側にしゃがむと、戻ってきて、手を突き出してきた。

「きょうりゅう」

 トカゲですよっ!?

 ぎゃっ、とあかりは後退り、思わず青葉の腕をつかむ。

 慌てて離した。

 ほんとうに生きている人間の感触があったので、驚いたのだ。

 いや、生きてて当たり前なのだが。

 目の前にいても、なんだかずっと信じられなかったから。

 一瞬、過去の青葉と今の青葉がつながりそうになったが。

 それは、ほんとうに一瞬のことだった――。


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