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運命は植え込みに突っ込んでくる

もうちょっと話してけっ

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「どうしたんですか、社長」

 ちょうど社長室に来た来斗が心配して、そう訊いてきた。

 どうしたんですかって、どうしたんだ?
と青葉は思う。

 自分の顔色が悪いことには気づいていなかった。

 知り合ったばかりの親子の過去の話に、衝撃受けすぎだろ、俺、とは思っていたが。

「来斗。
 日向は……」
と言いかけ口ごもる。

 もしや、弟も、日向が姉の子だっていう、真実は知らなかったり?
と思ったのだが。

 察しのいい来斗が言った。

「ああ、なんだ。
 聞いたんですね」
と。

「そうです。
 日向は、姉の子どもです」

 あっさり来斗は、そう吐いた。

「うちの姉は留学してたんですが。
 そのとき知り合った男らしいですよ」

 すると、相手は外国人か?

 そういえば、日向はちょっとハーフっぽくもある。

 いやまあ、ああいう日本人もいるが。

 そんなことを考えながら、青葉は、

「相手の男は、ずいぶんなロクでなしだったようだな」
と言った。

「そうですね。
 僕はその頃、九州の大学にいて。

 あまり実家と行き来なかったんで。
 詳しくは知らないんですけど。

 見てくれだけは、いい男だったんじゃないかと思いますね。

 姉は男に免疫なかったですから、コロッと騙されたんでしょう。
 まあ、いい勉強になったんじゃないですか?」

 ははは、と薄情にも、この弟は笑う。

「日向可愛いし。
 もう昔のことだし。

 別にいいんですけどね」

 あっさりな一家だな~、と青葉は思った。

 それにしても、どんな男だったのだろう?

 その男のことを聞くのが、何故か怖い。

 あのあと、あかりの布教活動の一環か。

 堀様とやらを見せられたのだが。

 ああいう感じの繊細な美形だったのだろうか。

 青葉の妄想では、あかりはミュージカルの舞台のような絢爛豪華なヨーロッパの城の中で。

 堀様みたいな貴族の男に、ないがしろにされていた。

 次に舞台は日本に切りかわり。

 明治から昭和初期くらいまでの文豪みたいなイケメンにあかりは酒代を要求されていた。

 そして、その繊細な美貌の文豪はあかりを捨てて、別の女と入水自殺してしまうのだ。

 そりゃ、アブラカタブラとか、テクマクマヤコンとか唱えたくなるよな~、と、

「いやいやいやっ。
 あの呪文は、子どもたちに要求されただけですよっ。

 あと、テクマクマヤコンは言ってませんよっ」
とあかりに叫ばれそうなことを青葉は思う。

 そんないろいろ混ざったような妄想をしながら、あかりから聞いた男の話をしていると、来斗は、

「いや、その男、死んではいないと思いますよ」
と言い出した。

「姉の心の中で死んだんじゃないですか?

 だって、あとで、母親に連れられてきた相手の男に、すごく冷たい別れの言葉を吐かれたって聞きましたから」

 あんなぼんやりしてる奴なのに、そんな過去がっ。

 ひどい母親と文豪な息子があかりをさげすむ幻が見える。

 その横に文豪の愛人が一緒に立って蔑んでいたが。

 いや、男が生きているのなら。
 愛人との心中はなかったんだったな、と青葉は妄想を整理する。

「そうだ、早田先生って先生にも会ったぞ」
と言うと、

「ああ、早田先生。
 どっちですか?

 大先生ですか?
 それとも、若先生?」
と来斗が、ようやく深刻な話題から変わって、ホッとしたような笑顔になった。

 どっちも、と言うと、
「おふたりとも、いい先生なんですよ」
と来斗は微笑む。

「日向を連れていくようになって、大先生とかすごく喜んでくれて。
 ずっと通ってた子が小児科に来なくなると、寂しくなるらしいんです。

 ママになって、また子ども連れてきてくれると嬉しいらしいです」

 来斗もたまに日向を連れて行って、日向といっしょに子どもの頃みたいに、シールなんかをもらったりするらしい。

 ほのぼのした診察風景が頭に浮かんだとき、来斗が言った。

「若先生もいい先生なんですよ。

 姉が小学校に入ったとき、若先生が同じ登校班の班長で。
 支度の遅い姉をよく迎えに来てくれてたんですよねー。

 うちの母が気に入って、あかりに若先生はどうかって――」

 あの娘といる若い男をみな、娘とくっつけようとする母親が!?
と思ったとき、竜崎が、

「失礼します」
と入ってきて、

「来斗、さっきのデータ」
と来斗に小声で言う。

「あっ、すみませんっ。
 失礼しますっ」
と来斗は頭を下げて出て行ってしまった。

 待てっ。
 今の話をもう少しっ、と思ったが、竜崎の手前、引き止めることもできず、頭の中で妄想がぐるぐるしはじめる。

 竜崎が、
 なにやってんですか、仕事してください、という目でこちらを見ていた。

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