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玖 安倍晴明の恩返し

疲れ果てているようだ、と思った理由

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「なんだ、冨樫。
 お前、壱花と母親を会わせたのか。

 抜け駆けするなよ」

 レジにいる高尾からみんなの分のビールを買いながら、斑目が言う。

「よし、じゃあ、俺も会わせよう」
と言う斑目に、

 いや、何故ですか、と思いながら壱花は、

「はい、どうぞ」
とプラスチックのカップを生活に疲れた部下の人に渡した。

 彼は、スミマセン、と壱花に頭を下げ、串に刺した甘辛いスルメを渡した倫太郎に、また、スミマセン、と頭を下げる。

「こいつ、疲れがピークに達して、幻覚が見えたって言うんだよ」

 勝手知ったる駄菓子屋のレジから栓抜きを持ってきて、丸椅子に座りながら斑目が言った。

「幻覚?」

 はあ、と部下の人は小さな声で言う。

「ビル街を白い小さな人間みたいなのがトコトコ歩いてたんですよ。
 よく都市伝説で聞く、小さなおじさんなのかなと思ったんですが。

 ちょっとおじさんには見えなかったし。

 見た目、ペラペラのコピー用紙みたいだったんで。

 この間、データよく確認せずに大量に印刷しちゃって。
 部長にめちゃくちゃ怒られたから、その後遺症かなと思ったり……」

 なんだって!?
と壱花たちは身を乗り出した。

「ど、何処で見ましたっ?
 そのペラペラッ!」

「は? え?
 夕方、この先のビル街の小さなお稲荷さんの近くで見ましたけど」

「……一日経っても、ほとんど進んでないですね」

「まあ、あのサイズでチマチマ歩いてったんだろうからな」

 何故、飛ばないのだろうかな、式神なのに……と壱花たちが思ったとき、高尾が言った。

「二人ともちょっと行ってきなよ。
 近いからすぐ戻ってこれるでしょ。

 これ、僕が焼いておいてあげるから」

 言いながらもう、高尾は倫太郎と席を変わろうとしている。

 どうもスルメが焼きたいようだった。

「あっ、じゃあちょっと探してきますね」
と言って、壱花は急いで倫太郎と店を出た。


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