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玖 安倍晴明の恩返し

安倍晴明に呼び出されました

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 壱花――。

 夢の中。
 壱花が駄菓子屋で斑目や子狸たちと花札をやっていると、誰かが自分を呼ぶ声がした。

 壱花よ――。

 その声に導かれるように、壱花はいつの間にか、川にかかった石橋の前に移動していた。

 橋の中程に、こちらを向いて立っている白い狩衣姿の男がいる。

 男の顔には見覚えがあった。

 白くつるんとした肌。
 異様に整った目鼻立ち。

 いつも店の入り口に立っている人、安倍晴明だった。

 おかしいな?

 なんでこんなところまで移動してるんだ。

 持って帰らなくちゃ。

 壱花は晴明を抱えて帰ろうと、橋に足を踏み入れようとした。

「こちらに来るでない、壱花よ」

 あまり口を開けずに発しているのに、驚くくらいよく通る声だった。

「壱花、いつもすまないな。
 よく私の世話をしてくれるお前に、これをやろう」

 晴明は手に白く薄いモノを持っていた。

 紙のように見えるそれは彼の手の中で、クネクネと踊っている。

 え?
 まさか、それをくださるとおっしゃってるんですか?

 なんか怖いんですけどっ。

 壱花がそう思った瞬間、晴明はパンと扇を広げ、その白いモノを扇ぐ。

 それはすごい勢いで、ヒュッと壱花に向かいやってきた。

 ひーっ、と壱花は顔をかばうように前に手を突き出し、目を閉じた。



 ふっと壱花は目を覚ました。

 見慣れた天井。

 倫太郎のマンションの寝室だ。

 洗面所の方から話し声が聞こえてくる。

 倫太郎と冨樫のようだった。

 なんだったんだ、今の夢、と思ったとき、ガチャリと寝室のドアが開いた。

 倫太郎が顔を覗ける。

「壱花、起きたか。
 なんなんだ、それは」

「えっ? それ?」
と壱花は倫太郎の視線を追った。

 壱花は胸に白いヒトガタのようなモノを抱いていた。

 倫太郎が目覚めたときには、すでにその状態だったらしい。

「胸に白い花みたいなのを抱いて寝てるから、死んだのかと思った」
と言う倫太郎に、

「いや、死んだのかと思ったのなら、放っておかないでくださいよ」
と訴える。

「いやいや。
 ない胸だが、触ってはいけないかと思ってな」

 一言余計です、社長、と思いながら、胸にある白いヒトガタの紙をつかみ、起き上がる。

 紙は六枚あった。

「そういえば、こんなの、今、安倍晴明さんに夢でもらいました」

 遅れてやってきた冨樫が驚いた顔をする。

「安倍晴明?
 入り口の?

 あれ、偽物じゃないのか?」

「そのはずなんですけど……。
 あの人形の晴明さん、ホンモノと何処かでつながってるんですかね?」

 朝の光の中で見ると、その紙はただのペラペラした白い紙のように見えた。

「……A4、コピー用紙で大量に作れそう」

 壱花は、そうぼそりと言って、

「このバチ当たりめ」
と倫太郎に言われてしまった。


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