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参 付喪神

何処までがあやかしなんでしょう?

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「あ、そうか。
 私、ひとりなんですね」
と壱花はたどり着いた温泉施設の受付で思わず言っていた。

 今まで温泉に来るときは大抵、誰か女の子が一緒だったので、ひとりで入るのは初めてだった。

「なんだ、俺たちと入りたいのか?」
と真面目な顔で倫太郎が訊いてくる。

「そうか。
 お前が寂しいのなら、家族風呂を借りてやろう」
とロクでもないことを言い出したが、幸いなことに家族風呂は此処にはなかった。

 ホッとする壱花の横で、プランの表を見ながら冨樫が言い出す。

「社長、朝までプランとかありますよ。
 仮眠室で寝るんですかね。

 いいですね。
 温泉出て、そのまま仮眠」

 いやいや、仕事はどうすんですか、と思ったが、彼らはもう、くつろぎ切っているようだった。

 そのあと、男女に分かれ、ちょっとヒリヒリするという薬湯に入る。

 広くていい気持ちだなーと思いながら、壱花は思い出していた。

 祖母の家のことを。

 ……まさかあんなに周りがあやかしまみれだったとは。

 七郎さんまで、と思った壱花は、そこで、ふと気づいた。

 そういえば、美園みそのさんもあんまり年をとらないな、と。

 自分が幼かった頃から、ほとんど変わっていないように見える。

 もともと元気なおばさんだからか、あまり違和感なかったが、もしかして……。

 


「いや、私、全然、ヒリヒリしなかったんですけど……」
と休憩室から出て、土産物を見ている二人のところに行って壱花が言うと、

「さすが、何処までも鈍いな」
と倫太郎に言われてしまった。

 そのあと、漫画コーナーで漫画を読んだり、喫茶でビールを一杯やったりしながら、まったり過ごす。

「いかんな。
 もう戻らねば。

 このままぐだぐだしてしまいそうだ……」
と倫太郎が座り心地のいい椅子から身を起こして言い出した。

「ほんとですね。
 ああでも、なんだか帰りたくないです。

 そういえば、仮眠室とかで横になったりしなくてよかったんですか?」
と訊いてみたが、

「……仮眠室は男女別だろ。
 お前、ひとりじゃ寂しいんだろうが」
と倫太郎が言ってくる。

 冨樫もそう思って、一緒にいてくれたようだ。

「い、いや、大丈夫ですよ。
 どうぞおやすみくださいっ」
と壱花は言ったが、

「どうせもうおやすみしているような時間はない。
 ホテルに戻ろう。

 千代子さんに買う最中もなかも探さないといけないしな」
と倫太郎は言う。

「……なにからなにまですみません。

 あの、そういえば、明日もし、おばあちゃんとこ行けたら、ちょっと確かめたいことがあるんですよ。

 いや、どうやって確かめたらいいのかもわからないんですけどね」

 そこで、壱花はようやく、美園みそのがあやかしではないかという疑惑を口にした。

「まあ、わからないですけどね。
 ただの元気のいいおばちゃんかも。

 あ、おばちゃんとか言ってるの、美園さんに聞かれたら殴られますけど」

 倫太郎は、少し考え、
「まあ、その可能性もあるな。
 ってことは、あれだな。

 お前は、やはり、あやかし駄菓子屋で働く運命にあったということだな」
と言い出す。

 何故ですか……。

「だって、お前の名前、あやかしが付けたわけだろう?」

「ああ、それで、化け化けなんて名前になったんですね」
と冨樫が倫太郎の言葉に頷いたが。

「いやいやいやっ。
 だから、化け化けじゃなくて、花花ですよねーっ」
と壱花は訴える。

 男二人はまるで聞いておらず、
「さっ、行くか」
と立ち上がってしまったが。


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