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弐 当たりクジ

突然のぶらり一人旅

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 ホテルを出ながら、壱花は言った。

「美味しかったですね~。
 お粥食べると、朝から幸せな気持ちになりますよね。

 不思議ですよね。
 お味噌汁とか煮物とか、だし巻き卵とか、普通のメニューなのに、なにか味が違うんですよね。

 家でも作れそうなのに」
と言って、すぐさま、

「家でも作れそうなのにって、作れるのか、お前。
 だし巻きとか」
と辛辣な言葉が冨樫から飛んでくる。

 うう、確かにあまり料理はしませんが、と思ったとき、

「壱花。
 金やるから、ショッピングでもして待ってろ。

 ……お前、連れてってたら、なにしでかすかわからないからな」
と倫太郎が冷える朝の道で言ってくる。

 上司からの的確で痛烈なお言葉に心も冷えそうですよ……。

「風花。
 暇つぶしに本でも買え」
と冨樫が図書カードをくれた。

 なにか金を与えられて追い払われる感じだ、と思いながら、お金と図書カードを断ったが、倫太郎が、

「だってお前、一文無しだろう。
 それは旅費日当だ、駄菓子屋の方の。

 ある意味、此処まで出張させたわけだからな」

 とっとけ、と壱花が返そうとした三万円を握らせてくる。

「そういえば、お前、携帯もないんだったな。
 じゃあ、十二時……は無理そうだから、十二時半頃、駅の一階のコンビニな。
 迷子になるなよ」
と言って二人は急いでタクシーに乗って行ってしまった。

 突然のぶらり一人旅……。

 あんまりしたことないな、一人旅って。

 友だちが日帰り旅行の日付けを間違えてこなかったとき以来だ。

 なにをしよっかなー。
 あのときは観光タクシーのおじさんにぐるっと案内してもらったっけ。

 とりあえず、バスに乗るか、とちょっと不安ではあるが。

 仕事中なのにプチ旅ができるというので、どきどきしていた。




 十二時半。
 駅のコンビニに早めについて、なにか飲み物でも買おうかな、と思っていると、ガラス窓の向こうを歩く目立つ二人組が目についた。

 向こうもこちらに気づき、なにやら言い合いながらやってくる。

「迷ってないじゃないか」
 コンビニに入ってくるなり、倫太郎が言ってきた。

「……何故、迷うこと前提なんですか」

「っていうか、その荷物はなんだ」
と壱花が両手いっぱいに抱えている紙袋を見る。

「いやあ~、服とかバッグとか本とかいろいろ」
と壱花は苦笑いする。

「別れるとき、心細そうな顔してたから気になってたんだが、全然、大阪満喫してるじゃないか」
と倫太郎が呟き、

「……お金もらっちゃ申し訳ないみたいな顔してたのはなんだったんだ」
と冨樫が呟く。

「いやいやいや。
 最初は不安だったんですよー。
 大阪あんまり来ないから。

 あっ、お金はお返ししますよ。
 
 それから、これ、図書カードの残りです。
 使った分もお返ししますよー」

 壱花はカードを冨樫に返そうとしたが、いらん、と言われた。

「それはやる。
 どうせ貰い物だ」

「でも、五千円のですよ」

 二人で揉めていると、倫太郎が、

「まあ、とりあえず、なにか食べに行こう」
と壱花の荷物をすっと持ってくれる。

「あっ、いや、自分で持ちますっ」

 壱花が言い終わらないうちに、小姑のように冨樫が、
「社長に荷物持たせる秘書とかどうなんだ」
と言ってくる。

「ほら、冨樫さんもああおっしゃってるじゃないですか」

 そう言ったとき、冨樫が倫太郎から荷物を取っていた。

 そのまま歩き出す。

「重いぞっ。
 なに買ったんだっ、風花っ」

「ああっ。
 私が持ちますってばっ」

「いいや、社長に持たせるくらいなら、俺が持つ!」

 いっ、いやいや、勘弁してください~っ、と壱花は青くなりながら冨樫を追いかけた。



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