大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

菱沼あゆ

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あなたのことだけわかりません

仮の夫とはいえ、夫だからな

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「あーあ、文子さんがいないと、ちょっと寂しいわね」

 翌日、お料理教室で帰り支度をしているときに、美世子がそんなことを言ってきた。

 まだ昨夜の悪夢が頭にこびりついている咲子は、ぼんやり、

「……そうですね」
と言う。

「よし、英吉利イギリスに行くわ、私」

 そんな美世子の言葉に、ようやく咲子は笑い、
「でも、文子さんと入れ違いになってしまうかもしれませんよ。
 日数かかるから」
と言ったが、

「でも、行くわ、英吉利」
と美世子は宣言する。

 ……それ、おそらく、英吉利に行く目的、文子さんじゃありませんよね、と思いながら、咲子は言った。

「飛行機で行けたら速いでしょうにね」

 まだまだ長距離飛行は難しい時代だった。

「飛行船ならそのうち行けるかもよ」

 そんな話をしながら、別れて帰り、咲子は台所に立った。

 最新の電化製品やガス釜などがそろった台所だ。

 ハツなどは、
「私は薪で炊く方が好きです」
 などと言って、釜を使って煮炊きをしているようなのだが。

 今日習った料理のおさらいをユキ子たちとしていると、行正がやってきた。

 今日は早く帰れたようだ。

「ほう。
 夕食は、またお前の手料理か」

「ひ、一品ですが……」
と言いながら、咲子は怯えていた。

 行正さんは、どういう意味で言ってらっしゃるのでしょう?

『またお前の料理か。
 仮の夫とはいえ、夫だからな。

 仕方ない。
 我慢して食べるか』

 あるいは――。

『またお前の料理か。
 嬉しいぞ。

 俺は三国一の果報者だな』

 ないな……。

 果報者の方はないな。

 っていうか、この料理でそんなことを言ってもらえると期待する方がおこがましいか、
と咲子は、今、作ったハム エンド エッグスを見る。

 ……焼いただけだろ、というツッコミはご遠慮願いたい。

「手の込んだお料理も習ったので、今度、ご披露しますね」
と咲子が言い訳のように言うと、

「今日では駄目なのか?」
と行正が言う。

「あっ、では、今からご用意致しますっ」

 期待されている気がして嬉しく、咲子は笑顔で、そう言った。

「まず、ソースを一ヶ月煮込むんですけどっ」

「ハツ、食事にしてくれ」

 はい、とハツは、いつもより早い夕食を運びはじめた。


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